クールジャパン最前線~開発途上国のエンタメ難民の光景~ ・第2回 東南アジアでのリアル・マーケティング・リサーチ


Bazaar Entertainmentの大和田です。当社はスマートフォンが爆発的勢いで拡大する一方、通信や決済のインフラが立ち遅れている開発途上国でモバイルコンテンツを提供するBazaar Platformを提供しています。

第1回に記載したとおり、私は、中国の出稼ぎ労働者のエンタメ供給不足から引き起こされる需要の極大化という光景を目にするも、急速な若者人口の減少を迎える中国に、これから先の人生を賭けるのはリスキーと考え、前職のソニー・コンピュータエンタテインメントを退職しました。

退職後は、これから先、15~24歳人口が増え、所得の拡大が見込まれる東南アジアが有望であろうと考え、まずはデスクワークで様々なデータを調べることを始めました。

東南アジアのゲーム市場

まず、東南アジアのゲーム、さらにエンタメ市場を見渡してみると、全くと言って定量的な市場調査のデータが無いことに驚きました。一部、定性調査や消費者の深掘りなどのミクロのデータはあるのですが、マクロのデータが存在していません。スマートフォンは爆発的に普及しており、世界最大のツイートはインドネシアから発信されるなどの情報がある一方、1ユーザーの消費金額は限りなく0ドルに近い数字という結果を見つけました。

そもそも、東南アジアの人々はゲームが嫌いなんだろうか。いや、そんなはずは無いと思い、データが無いならば自分で調べようということで、2013年の1年間をかけて、ラオス・カンボジア・ミャンマー・ベトナム・タイ・マレーシア・インドネシア・フィリピン各国、合計30都市を訪問し、各都市の主要な学校や駅前、市場やモスクの前などで調査を行いました。

具体的には日本から持ち込んだ10種類ほどのゲーム機やスマホゲームをブルーシートの上に広げ、「ラッシャラッシャイ!日本のゲームだよ!1プレイ10円。俺のスコアに勝ったら飴が貰えるよ!」と、さながら寅さんのテキ屋のような活動を行いました。最初のうちは恥ずかしい気持ちもあったのですが、終盤では現地の言葉も混ぜならテキ屋を営み、なかなかの繁盛店となりました。

余談ですが、テキ屋をやっていると、多くの人に出会うことができました。良い人も、悪い人もですが。留置所に一泊させてもらったり、2時間ほど車の中でナイフを突きつけられて拉致されたり、発砲されたりなどの体験もすることができた、濃密な1年間でした。

そんな危険な目に遭いながらも、何でテキ屋を続けたかと言うと、単純に楽しかったからです。目の前のお客さんが目をキラキラさせながら、ゲームを遊んでくれる。そして、お金を払ってくれるという体験がとても楽しく勉強になったのです。

市場から見えてきたこと

当然、都市や職業、所得階層によっての差異はあるのですが、いわゆるボリュームゾーンに共通しているのは、ゲーム文化の浅さです。

日本はゲームウォッチ、ファミコン、PlayStation、ガラケー、と40年以上に渡るゲーム文化の蓄積があり、その上で今のスマホゲームの文化が存在しています。しかし、開発途上国の消費者が遊んだことのあるゲームは、スマホゲームを除いて、最新のものでもPlayStation2です。これは、先進国で回収された千万台単位のPlayStationが修理され、コピーソフトがかかるように改造され、開発途上国で販売されている恩恵なのかもしれません。

そのため、最新のPlayStation3や4のゲームは操作が複雑過ぎて遊べないというユーザーが多く見受けられました。また、日本で売れているスマートフォンのソーシャルゲームですが、日本で当たり前のガチャやカードの合成システムが理解できず、ただカードをめくるだけで何が楽しいの?と聞かれることも多かったです。最新のスマホゲームを遊ぶには、これまでの日本のゲーム文化、文脈を理解している必要があるのです。

評判の良かったゲームは、日本のアーケードゲームやPS2までのラインナップで、学習期間が短く、直感的に遊べるゲームでした。

また、街角にネットフェならぬPSカフェというPlayStationを貸してくれるお店もあるのですが、2013年はほぼPS2、2015年からPS3をみかけ、2017年からPS4の導入が始まりました。色々なゲームがあるにも関わらず遊んでいるのはほとんどがサッカーゲームであり、ここでも最新のゲーム性への理解には時間がかかりそうだと感じました。

テキ屋活動を行いながら、並行してどのキャラを知っているか聞くという日本のキャラクターの調査も行っていました。

地上波で無料で見られるコンテンツの知名度はほぼ100%ですが、比較的古いコンテンツに偏ります。また、違法に配信されている最新のアニメの場合、一部のコア層の認知に留まっています。通信速度の問題もあり、ダウンロード時間を耐えてでもコンテンツを見たいという強いニーズが無いと難しいのと、多くのコンテンツにユーザーが拡散してしまっている状況です。

日本の漫画についても同様で、現地で出版されている漫画の知名度は高いのですが、違法に配信されている最新の漫画であっても、知っている人は限られていました。

東南アジアの娯楽文化は、日本のように娯楽文化が成熟しコンテンツが細分化して行く段階の前の、皆の共通する時代背景となりうる大衆娯楽が受け入れられる段階なのではと考えられます。

テキ屋活動を通じて、ゲーム文化の成熟度、日本のコンテンツの浸透度について研究を行いながら、ゲームを遊んでもらいお金をいただくという活動も行なっていました。ここでの成果から、東南アジアでゲームビジネスは成立すると確信するに至った訳です。次回はこの点について掘り下げてみたいと思います。


大和田健人
大和田健人

Bazaar Entertainment Ltd.グループ CEO
慶應義塾大学政策・メディア研究科修了。大学院在学中より株式会社ソニー・コンピュータエンタテインメントでゲーム開発に従事。PlayStationの中国事業立ち上げメンバーとして2003年から約10年に渡り中華圏に駐在。マーケティング担当者として中国100都市、1000店舗の海賊版業者を訪問し、実態解明と正常化のための取り組みを実施。また、法律で輸入販売が禁止されていたPlayStationの合法化に向けて中国政府と交渉を行い、2012年に販売許可を獲得した後、同社を退社。1年間の放浪の後、2014年に開発途上国へのコンテンツ提供プラットホームを提供するBazaar Entertainmentを起業する。現在はインドネシア共和国バンドン市在住。

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