新自由主義批判に社会主義の処方箋を用いる古代人へ


【出典】avaxhome.ws

世の中では新自由主義批判が花盛りとなっています。民営化に反対する、緊縮財政に反対する、弱者切り捨てに反対する、果てはグローバル化は国際金融資本の陰謀だ、まで実に様々な批判が飛び交っているものです。

たしかに、短期的に見た場合、自由主義改革を行う移行過程において問題が生じることはあるかもしれません。むしろ、過度に肥大化した政府自体や規制体系を解体していくプロセスにおいて、国有化されていた資源または規制緩和に伴う寡占ビジネスの収奪を政府関係者が行う縁故資本主義に自由主義改革が堕してしまうことも少なくありません。

しかし、そのような過渡的な問題や縁故資本主義の発生をこれ見よがしに取り上げて、「ほらみろ、新自由主義改革はだめじゃないか。国営化しろ、規制強化しろ、政府が補助金を出せ」という社会主義的なソリューションを提示する人が多いことに呆れます。これらの社会主義的なソリューションは新自由主義の問題を解決しないどころか、遥かに酷い惨事を世界各国の人々に与えてきたことは歴史を紐解くまでもなく常識です。まあ、それを言わないと本当は無用な仕事に従事している人々の立場がなくなるので気持ちは分からないこともありませんが。

筆者が言っていることの意味が分からない人は「自由主義者による新左派批判 前編:何が社会不公正をもたらしたか」(劉軍寧 ハーバード大学客員研究員)を読むと分かりやすいでしょう。論稿は中国の話となっていますが、本文の内容は日本にもそのまま当てはまります。政府の肥大化は政治的強者を生み出し、その閨閥と取り巻きだけが富を集中的に得るようになります。北朝鮮や中国らの独裁体制はその分かりやすい見本ですが、正直なところ日本の国・地方のいずれにおいても政治的な世襲勢力とその取り巻きによって実質的に治められている現状も十分に恥ずかしいものです。むしろ、独裁や寡頭制による明白な腐敗という形式を取らず、疑似的な民主主義の形式を採用する日本(政党幹部が小選挙区の候補者を決めた段階で事実上の選挙終了)のほうが性質が悪いとも言えます。政府に頼る=社会主義手法の適用を求める行為は、それらの人々の温情に期待するという不毛な作業に過ぎません。(この文章をRIETIで掲載しているところがシュールなところです。)

さて、自由主義ないし新自由主義に基づく改革が徐々に貧困自体を消滅させていくにしても、多くの人々は時間をかけた変化の過程に満足することができません。したがって安易に社会主義的な解決策、政府機関による強引な解決策を選ぶことで幾度も失敗を繰り返してきました。程度の低いギャンブラーが自制ができなくなって強引な賭けにでるようなものです。明らかに間違っていると分かっていても人間は我慢できないものです。

それでは、このような誤ったソリューションを採用したい人たちに、自由主義者はどのような処方箋を提示するべきでしょうか。それは技術革新を促進するということに尽きます。現在起きている問題は過去には解決策は存在しないのだから、解決策を創るために少しでも多くの社会的な資源を技術革新に投じることが必要です。

私たちの手元には携帯電話が存在していますが、ほんの20年前に現在の高機能携帯はいかなる権力者が1兆円払っても手に入らなかったはずです。ところが、いまや多くの人々の手元にはiPhoneが行き渡っています。これは自由経済下でイノベーションが繰り返された成果であり、世界的な自由市場経済に人々が参加したことによる結果です。そして、現在も次々と世界中の人々が新たに市場にアクセスすることで財やサービスが豊かになるスピードが増し続けています。

世界の食糧生産量は増大しており、エネルギー効率も更に高まり、少し前までは小さな漁村だった新興国の地域には巨大な現代都市が誕生しています。世界の絶対的貧困比率も低下しており、多くの人々が市場と接合したことで溢れかえる生産物の恩恵を受けて飢餓から救われました。仮に超長期的に食糧生産を人口増加が上回った場合(筆者は生産技術の革新によって起きないと思いますが)でも市場経済が穀物の消費が激しい肉食の価格調整を行うなどして持ち堪えることになるでしょう。

一方、現代の先進国においてはゴミとして捨てるほど食糧が溢れており、その社会的課題は食糧不足ではなく廃棄される食糧をどのように必要とする人々の手に届けるのか、という問題に移っています。現在は同問題について政府機関のフードバンクなどへの関与が行われている状態ですが、それらも中長期的には企業、非営利法人、人々の間の自発的なコミュニケーションで解決される、技術的・社会的仕組みのイノベーションのみで解決されていくことになるでしょう。

さらに、シェアリングエコノミーの進展は、政府の規制によるレントの恩恵を受けてきた非効率な業界によるサービス提供を改善し、従来までは市場に未接続であった私物を貸し出し市場に接続したことで、より効率的で豊かな生活を送る方法を人々に提供しています。政府が統制する規制産業ではなく技術革新が人々の生活環境を改善することに寄与した良い事例と言えます。

つまり、現代社会には極めて非効率で無駄の多かった社会主義的なソリューションの出る幕などもはや存在しないのです。生産力を高めている自由市場の社会的課題をより自由主義的なテクノロジー及びソリューションを用いてどのようにに解決するのか、ということが真の課題です。いまや、人々が資源の効率的な配分や人権への配慮など政府を通すことなく相互に自発的な形で行う文明の段階に入っているとも言えます。

この時代において社会主義的な解決策を提示する人々は一体いつの時代に生きているのでしょうか。それとも現代の発達した情報システムによって、特定の権力者の手から離れた市場経済を超克できる高度な中央集権体制を構築できる、という見果てぬ夢を追っているのでしょうか。もしかしたら、テクノロジーが進化していく過程で、そのような時代が未来に訪れる可能性は否定しませんが、少なくとも現代社会において古びた社会主義的手法を掲げて自由主義ないし新自由主義を批判することは古代人の所業と言えるでしょう。


渡瀬 裕哉
渡瀬 裕哉

パシフィック・アライアンス総研所長
早稲田大学大学院公共経営研究科修了。トランプ大統領当選を世論調査・現地調査などを通じて的中させ、日系・外資系ファンド30社以上にトランプ政権の動向に関するポリティカルアナリシスを提供する国際情勢アナリストとして活躍。ワシントンD.Cで実施される完全非公開・招待制の全米共和党保守派のミーティングである水曜会出席者であり、テキサス州ダラスで行われた数万人規模の保守派集会FREEPACへの日本人唯一の来賓者。著書『トランプの黒幕 共和党保守派の正体』(祥伝社)は、Amazonカテゴリー「アメリカ」1位を獲得。主なメディア出演実績・テレビ朝日「ワイド!スクランブル」、雑誌「プレジデント」「ダイヤモンド」など。

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