眞子様結婚延期が示したメディアのパラダイム変化


写真:宮内庁サイトより

連載のここまで、ネットメディアやネットニュースの普及とともに、ネットで形成される世論が、リアル社会、既存メディアで作られる世論の下地となったり、逆にカウンター的な存在となったりして影響力を増している傾向の一端はご理解いただけたと思う。

そして今回、ネットと政局の相関について深堀りしようとしたところで、またとないケーススタディが現れた。秋篠宮家の眞子様と小室圭氏の結婚延期が決まるに至るプロセスも、ネットニュースを抜きに語ることはできない。早速、この最新事例を振り返ってみよう。

「菊タブー」に圧されてきた皇室報道

日本社会、特にメディアにおいて「菊タブー」という言葉に代表されるように、長らく皇室を扱う際には、慎重を期す文化が醸成されてきた。皇室報道のメインストリームはいわずもがな宮内庁の記者クラブ(宮内庁記者会)。全国紙5社と東京、北海道の両ブロック紙、時事、共同の両通信社、NHKと在京民放キー局5社の15社が加盟している。

読売新聞で大阪本社社長などを歴任した中村仁氏の言葉を借りると、皇室報道は、「天皇の退位、新元号の決定、新天皇の即位、新しい皇室像、天皇制のあり方、それらにまつわる多数の儀式、段取り、関係会議、その報道や解説、識者たちの意見紹介などが最重要の課題」。もちろん、他の記者クラブと同様、担当領域の熾烈な特ダネ合戦はあるものの、「新聞、テレビにとって、皇室報道は最も神経を遣い、慎重を期す分野」(中村氏)だ。

一方で、同じメディアといっても、記者クラブに加盟しない雑誌が、ときに若い皇族たちのロマンス報道や皇室内のお家事情(例・皇太子妃雅子様のご病気等)を大胆に報じたり、あるいは小説家や芸能人が皇室をネタにした作品やネタを発表したりすることはあった。それらのコンテンツで、皇室をぞんざいに扱うものがあると、戦後の民主化が進んだ中にあっても右翼団体からの抗議を受けたり、出版物を回収したりといった事態も散見された。かつては「菊タブー」を恐れる空気が社会の隅々に醸成されていたのだ。

週刊誌に翻弄された末の結婚延期という異常事態

ところが、今回の結婚延期に至る過程は、これまでにない展開をみせた。昨年5月にNHKの特報で、眞子様と小室氏の婚約の内定が明らかになり、当初は記者クラブ外のメディアも含めてお祝いムード一色だった。しかし、その半月後に週刊新潮が、横浜市職員の小室氏の父親が自殺していた過去を報じたあたりから雲行きが変わる。記者クラブ加盟のメディアは例によって静観を決め込んでいたが、週刊誌やネットでは、法律事務所では弁護士ではなく、給料が高いとはいえないアシスタント的な仕事をしている小室氏の経済力への疑問が出始めた。週刊誌の取材もこの時期、本格的になっていた。

そして半年が経ち、女性週刊誌が、小室氏の母親が元交際相手と金銭トラブルになっていることを突き止め、さらに借りたお金が小室氏本人の学費になっていると報じられたあたりから、きな臭ささが一気に増す。相次ぐ週刊誌報道を受け、小室氏や母親が秋篠宮家、宮内庁に説明に訪れたことがのちに報じられたが、周知の通り、2月になり、差し迫っていた婚約行事が延期になった。

宮内庁は、結婚を延期した理由について週刊誌報道との関連は否定しているが、これは常識的にみて建前とみていいだろう。ただ、これが「菊タブー」の色濃い昭和後期や平成初期のことで、週刊誌が紙ベースの報道だけの時代であったら、同じ顛末になったかというと微妙ではないだろうか。

かつては、皇族のプライバシーに踏み込む週刊誌報道があると、右翼の街宣車が出版社の前で抗議活動をすることも普通だったが、小室家を巡る報道に関して、出版社周りの事件性を伴うような、目立ったトラブルは伝えられていない。戦前戦後を知る世代が少なくなり、報道側を威圧するような社会的な皇室タブーが薄れたことも大きいのだろうが、皇太子様や秋篠宮様がご成婚された1990年代と大きく違うのは、インターネットが隅々まで普及したことは特筆すべきだろう。

ネットで周知されてしまった「菊のカーテン」の裏側

2月6日の「Xデー」に至るまで、新聞やテレビでは小室家を取り巻く問題を(おそらく)全く報道されていなかった。週刊誌の部数も減少傾向にある。しかし、紙の週刊誌が読まれずとも、ネットに配信した記事やSNS等の拡散装置を通じて、若い世代を中心に多数の人たちが、眞子様の婚約相手の「異常」が周知されることになった。

実は、皇室報道の舞台裏すらあからさまにネットで報じられている。Xデー当日の宮内庁クラブの実情について報じた現代ビジネスの記事によれば、宮内庁はクラブ加盟社に対し、結婚延期の公表は翌日解禁の縛りをかけていたという。しかし、会見内容を把握した女性セブン編集部が18時にネットで速報し、数分後にはヤフートピックスに掲載された。

前回の記事でも書いたように、ネットニュース時代の王者は、コンテンツを作るメディア側ではなく、月間150億PVを誇るプラットフォーム、ヤフーニュースである。結婚延期の報がネットで瞬く間に拡散するのを受け、クラブ加盟社の記者は歯噛みし、宮内庁側は予定を変えてその日のうちに発表したという。

この裏事情ひとつを取ってみても、皇族のネガティブな話題が、ネットで加速度的に国民に周知されている実態に宮内庁が翻弄されていたことがわかる。そして、アゴラで私は厳しく指摘して35万PVもの反響を得たが(5年間で最多記録)、新聞はこの間、週刊誌報道がなすがままを許す状態で皇室の一大事を迎えるという顛末になってしまった。眞子様の結婚に際しては持参金を含め約1億6000万の公金が支出されるという著しい「公益性」もあるというのに。その意味では、新聞、テレビの影響力が空洞化しても、週刊誌とネットニュースの世論形成力だけで皇族の結婚延期が決まってしまったとも言える。

新聞、週刊誌に取れないネット独自の立ち位置

実はアゴラではおなじみの八幡和郎氏が、早くから小室家を取り巻く情報の一端を得ていて、小室氏の父親自殺の報があった5月下旬にはすでに皇室の行く末を案じる連載を始めている。その後、東京都議選や蓮舫氏の二重国籍問題の再燃といった政治日程にさしかかり、筆者も八幡氏もリソースをそちらに割かざるを得なかったのは心残りではある。

しかし、ややもすれば下世話な小室家の内情を暴くことに終始しがちな週刊誌とは少し距離を置いて、女性宮家を創設する場合の課題といった皇室制度の観点から、一連の事態を政策的に冷静に分析・報道していたのは、アゴラだけだろう。そのポジションは政策的知見においてできるはずの新聞が、赤裸々な小室家の事情に踏み込むことを良しとせず、逆に、赤裸々な皇室報道はできるものの、政策的観点で冷静に議論するのは得意とはいえない週刊誌にも取れなかった。そこは、速報性があり、タブーの少ないネットメディアならではの立ち位置だった。

眞子様の結婚延期は、メディアのパラダイム変化を示唆するに余りある「事件」だったといえよう。

P.S なお、異例ずくめの皇室報道の伏線といえるのは、2年前の夏の天皇陛下ご退位を巡る報道・情報戦だ。ネットの影響という本稿のテーマからは乖離するので、別の機会に譲る。

※本稿は新田個人の見解による外部メディアへの寄稿です。必ずしも所属先を代表するものではありません。


新田哲史
新田哲史


アゴラ編集長/株式会社ソーシャルラボ代表取締役社長 1975年生まれ。読売新聞記者(運動部、社会部等)、PR会社を経て2013年独立。大手から中小企業、政治家の広報PRプロジェクト参画を経て、2015年秋、アゴラ編集長に就任。数々のリニューアルを仕掛け、月間アクセス数も3倍増となる1,000万PVを1年で達成した。 著書に「朝日新聞がなくなる日 - “反権力ごっこ"とフェイクニュース」(共著、ワニブックス)、「蓮舫VS小池百合子、どうしてこんなに差がついた?」(ワニブックス)等。

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