2020年度インド国家予算案


2020年2月1日、ニルマラ・シタラマン財務大臣が2020年度インド国家予算案を発表した。インドは現在5兆ドルGDPの規模を目指し、各種施策に取り組んでいる。主要テーマとして”Ease of living for every citizen”を掲げ、3つの柱(”Aspiration India”、”Economic development”、”Caring society”)をもってそれを達成すると述べた。財務大臣のスピーチの中では、2022年独立75周年の年にG20開催国であることにも触れており、世界経済に影響力を有する大国としてプレゼンスを発揮し始めている自信をにじませている。景気減速、インフレ率の増加、失業率の上昇など各種経済指標の悪化する中、各業界からも多くの期待をされるなか発表された予算だった。しかし、個人所得税の減税などで個人の可処分所得を増加させ需要を刺激しようという一定の配慮も見られたが、期待されたような景気回復へ向けた強いメッセージ性のあるものではなく、着実にこれまでの改革を継続するという従来の延長線上にある内容であった。

3つの柱には、それぞれ更に細分化されたテーマが設定されている。
①Aspiration India(農業、灌漑、地方開発、健康、水道、公衆衛生、教育、能力開発)
②Economic development(工業、商業、投資、インフラ、ニューエコノミー)
③Caring society(女性、子供、社会福祉、文化、観光、環境、気候変動)

製造業という観点で、電機製造産業(Electronic manufacturing industry)は、政府も雇用創出の受け皿として大きく期待を寄せている産業の一つである。携帯電話、電子機器、半導体パッケージング向けのスキームを発表予定。現在インド国内シェアの50%以上を供給する中国メーカー、韓国・台湾メーカー企業のプレゼンスは引き続き高まっていくことが予測される。医療機器分野についても同様に積極的に投資を呼び込みインド国内で製造、輸出拡大につなげていきたいと考えている。

今年度の国家予算案では、目立った外国投資規制の緩和は見受けられなかったが、配当分配税(Dividend Distribution Tax – DDT)の撤廃という象徴的な発表があった。従来から、配当支払時に配当支払企業が20.56%の配当分配税を負担しなければならず、それを加味した法人税の実効税率の高さが問題視されていた。特に外国投資家からは、資金還流の効率が悪く他国と比較した場合インドへの投資の優先順位が低くなる要因の一つでもあった。従来から外国投資家から強く希望されていた内容だけに、今後海外からの投資呼び込みが加速する可能性が高い。外国投資の呼び込みという点では、法人税率も従来の30%から、22%又は15%(新規の製造会社の場合)へ引き下げられており、その他のアジア諸国と比較しても遜色ない数値となっている。配当分配税撤廃、法人税率の引き下げなどは国際市場の中での投資先のインドという位置づけを意識したものであることは間違いない。

財務大臣は、直接税の改正と合わせて間接税であるGSTについても2017年7月の導入から一定の成果を上げていることを強調した。特に税制の簡素化・手続きの簡素化を強調したが、実務サイドとしてはGSTポータルサイトの頻繁なダウンや、各種申告書の提出方法にかかる事前アナウンスが不足しており多くの納税者に混乱が見受けられる。2017年度の年次申告も度重なる申告期限の延長が行われており、申告・手続き業務の混乱は当面続くと思われる。又、簡素化されたGST申告書の導入を2020年4月に導入を予定しているが、実際に運用が開始されるかは不透明だ。

今回予算案に盛り込まれた配当分配税の撤廃や、法人税率の引き下げは間違いなくインドの投資先としての魅力を高めた。今後、税制や税務実務の簡素化によってさらに、インドの”Ease of doing business”が促進され多くのビジネス機会を創出していくことに期待したい。


鈴木慎太郎
鈴木慎太郎


米国公認会計士。SGC(スズキグローバルコンサルティング)代表。2010年5月よりニューデリー(インド)在住。40社以上のインド拠点設立、100社以上のインド・会計税務にかかるコンサルティングに従事。2016年よりスズキグローバルコンサルティングを設立し独立。日本企業向けにワンストップでインドの拠点設立・会計・税務・法務をカバーする総合コンサルティング事務所を経営。 URL: https://www.suzuki-gc.com

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