10年前に読売新聞が報道した「工作員の迫撃砲発見」が真実かどうか知る方法を考える



引用:三浦瑠璃Twitter

スリーパーセルの存在の有無

国際政治学者の三浦瑠麗さんがワイドナショーで、有事の際のスリーパーセルによるテロリズムの可能性を指摘した発言を巡り、そのソースを巡って様々なやり取りが行われています。特に、テロを行うようなスリーパーセルの存在の有無が議論の中心となっており、三浦さんがその根拠として「警察白書」及び「読売の記事」の記述を根拠に持論を補強している状況となっています。

ところが、読売の「迫撃砲発見」の記事は信憑性がイマイチである可能性が取りざたされています。筆者は警察白書のほうは(テロを行うかはともかく)潜在工作員がいるというソースとしては成り立つと思っているので、本件あまり興味ありませんでした。ただし、後追いして少し調べてみた結果、後者の読売の記事について疑問が残っていることも事実です。
問題の記事は下記のとおりです。

国内で複数テロ発生

20XX年X月X日深夜、山口県西部の広範囲の地域が停電となった。一部の変電所で爆発が起きる一方、ほぼ同時刻に複数の送電線が切断されたのだ。変電所の焼け跡からは、ハングルが書かれ、外国製と見られる時限爆破装置が見つかった。

翌日午後、首相官邸で緊急会議が開かれた。警察庁の警備局長は「訓練されたプロ集団によるテロ活動であるのは明白です。標的は、米軍基地と考えられます」と報告した。そして、こう付け加えた。
「実は5日前、島根県の海岸で潜水服姿の5、6人の男が目撃されています。北朝鮮の特殊工作員の可能性も否定できません」
しかし、北朝鮮のテロ活動と断定する根拠はなかった。自衛隊の出動は見送られた。官房長官は、重要施設の警備強化を警察庁に指示するにとどまった。
福井県内の原子力発電所に数発の迫撃砲が撃ち込まれたのは、その10日後だった。

朝鮮半島有事などの際には、北朝鮮の特殊部隊が日本で破壊活動を行う事態が想定される。陽動作戦のため、全国各地で複数のテロが発生する恐れもある。

日本政府の極秘資料は、約10万人に上る北朝鮮の特殊部隊のうち約2,500人が人民武力省偵察局所属の日本専門の工作員と推定。うち500人前後が日本に向かうと分析している。

陸上自衛隊は、
1.特殊工作員の上陸・入国阻止
2.重要施設の警備
3.潜入工作員の撃破
の3段階のテロ対処活動を想定している。
日本に向かう北朝鮮の工作員は通常、偽装漁船や小型潜水艇を利用する。航空・海上自衛隊の航空機と艦船が日本海で厳戒態勢を取る。陸自は日本海沿岸で、警戒網をすり抜けた工作員の上陸を阻止する。過去に工作員が上陸した形跡のある個所は40~60か所程度。最終的に上陸する工作員は数十人との見方もある。

日本に長年潜入中の休眠工作員(スリーパー)もいる。政府関係者によると、阪神大震災の時、ある被災地の瓦礫(がれき)から、工作員のものと見られる迫撃砲などの武器が発見されたという。

陸自は、警備対象施設として首相官邸や国会、原子力発電所、石油コンビナートなど計135か所を選定し、重要度に応じて3段階に区分している。
工作員の撃破には、警察と連携し、大がかりな包囲網を敷く。徐々に包囲網を狭め、最後は約300人の対テロ専門部隊「特殊作戦群」(千葉・習志野)などの精鋭部隊を投入する。
包囲網の構築には大量の隊員が必要となる。1996年9月、韓国で起きた北朝鮮武装兵上陸事件では、特殊工作員26人の掃討に韓国兵最大約6万人が約1か月半も動員されたほどだ。

一連の作戦では、どの段階で陸自にどんな出動を命令するかが、武器使用の問題を含め、課題となる。北朝鮮が「宣戦布告」せず、工作員が国籍不明の段階では、武力行使が可能な防衛出動の命令は難しい。治安出動は、警察力で治安が維持できない場合に限られる。武器使用も、相手の武装や抵抗の度合いに応じる「警察比例の原則」に縛られる。警護出動は、対象が自衛隊と在日米軍の基地に限定される。
防衛省幹部は語る。
「重要施設を警備していた警察から突然、『もう我々では対応できない。後は任せた』と言われても、陸自は対応できない。平時から緊密に連携する態勢を築くことが急務だ」 

引用:『“核の脅威”20XX年 北朝鮮が…連載第3回 重要施設を警備せよ <第1部>陸自いつ出動、武器使用は』 東京読売新聞2007年01月19日(原文ママ)

日本政府の「極秘資料」なるものによると、日本に500人前後の工作員が向かう可能性があり、自衛隊と警察がテロを念頭に連携することの必要性を認識し、北朝鮮との戦争時のテロに備えなければならないという問題意識を持っているとのことです。この事自体は良いことだと思います。
一方、今回、三浦さんがソースとして同じ記事中の極秘資料の工作員に関する記述ではなく「政府関係者による阪神淡路の時に工作員のものと見られる迫撃砲発見」であり、なぜ記事中でこちらを強調するのかは不明ですが、この迫撃砲の話の信憑性については多方面から疑問が投げかけられています。
筆者は読売がここまで断言している以上、三浦さんに限らず様々な人がそれを信じる合理性もあることは認めますが、一応追加で2つの記事について触れておきたいと思います。

西宮・撤去中発見 11日午前10時半ごろ、阪神大震災で倒壊した兵庫県西宮市津門川町の木造アパートのがれきをパワーショベルなどで撤去していた作業員が、迫撃砲弾の不発弾1発を見つけ、西宮署に通報した。陸上自衛隊第三師団司令部(同県伊丹市)第三武器隊が回収し調べたところ、81ミリ迫撃砲弾(長さ63センチ)で、安全装置がかかっていた。旧日本陸軍のものとみられる。

引用:『阪神大震災 がれきの下から81ミリ迫撃砲弾を発見-兵庫・西宮市』 毎日新聞1995年3月12日

筆者が見つけた阪神淡路大震災の時の「迫撃砲」に関する読売以外のメディアによる記事は上記の毎日新聞のもののみでした。不発弾は旧日本陸軍のものだとされています。工作員のものではなさそうです。
そして、もう1つ。

4日午前9時15分ごろ、伊丹市の無職女性(80)方の倉庫で、掃除をしていた造園業者が砲弾2個を見つけ、伊丹署に届けた。処理を要請された陸上自衛隊第三師団の隊員が約3時間30分後、爆発しないことを確認したうえで回収した。
第三師団によると、迫撃砲弾(長さ約30センチ、直径約8センチ、重さ約2.8キロ)と、てき弾(長さ約15センチ、直径約5センチ、重さ約640グラム)。ともに鉄製でさびついており、火薬は入っていなかった。てき弾には信管が付いていた。旧日本軍が使用していたものと見られる。
女性は「何でこんなものがあったのか分からない」と話している。

引用:『伊丹の民家倉庫で迫撃砲弾など2発見つかる 旧日本軍使用?ー京阪神』 大阪読売新聞2004年6月5日

こちらは阪神淡路の震災から10年後に発見された迫撃砲の不発弾ですが、やはり旧日本軍の不発弾です。

つまり、何が言いたいかというと、関西地域では「迫撃砲の不発弾」(旧日本軍のものと見られる)が何度も見つかっているものの、読売の記事にある「工作員の迫撃砲」が見つかったという他紙の記事は無さそうだということです。工作員の迫撃砲が見つかった場合、他紙も追いかけるはずですが、そのような記事は当時の読売の記事も含めて一切見当たりません。

そのため、阪神淡路の震災の約13年後、現在から10年前の読売新聞の記事に登場する「政府関係者」は誰か分かりませんが、旧軍の迫撃砲を工作員のものと勘違いして取材に答えた可能性があると思います。「工作員が日本に向かった」と「工作員の迫撃砲発見」と同じ記事中で取り上げられていますが、特に後者については読売のエビデンスがやや怪しいのではないかと推認されます。

そして、読売の記事中の問題の「政府関係者によると」ということについては「公的に確認することが可能」かもしれません。具体的には国会議員は「質問主意書」を提出して政府に読売新聞の記事中の「工作員のものと見られる迫撃砲」が発見されたかどうかを確認することができるはずです。

読売によると政府関係者からの証言があったことになっていますし、国会議員の先生の実際の質問主意書の作り方は難しいかもしれませんが、上手に質問主意書を仕上げればしっかりとした回答が得られる可能性があります。(「極秘資料」のほうの工作員潜伏状況については、資料が特定できないor特定できても回答してくれないと思いますが・・・)

重要なことは教訓を得ること

筆者は、震災時や有事の際には多くの混乱が生まれる(記憶の面も含めて)ものだと考えます。まだ読売の記事も怪しいだけでデマだとは言い切れないと思います。
そのため、現在重要なことは、工作員が実際にいるかどうか、というよりも、エビデンスとして用いられている阪神淡路の震災から10年後の読売の記事に流言飛語であったかどうか、ということの確認を通じて、危機管理下におけるメディアリテラシーの教訓を得ることだと思います。

「政府関係者」からの情報というエビデンスとして、様々な人に度々引用される同記事内容の「工作員の迫撃砲」の真偽を確認することには公的価値があります。既に問題は三浦さん個人の発言の信憑性を問う以上の、有事の際に真贋情報を切り分ける「安全保障に関する民度を向上させる議論のケーススタディ」になっているわけですから。内容の真偽を確認して大いに議論したら良いと思います。

今年、北朝鮮情勢が緊迫することが予想される中であるからこそ、事実かどうかが怪しい情報が溢れることは極めて問題であり、本件についてはしっかりとした事実確認が必要です。


渡瀬 裕哉
渡瀬 裕哉

パシフィック・アライアンス総研所長
早稲田大学大学院公共経営研究科修了。トランプ大統領当選を世論調査・現地調査などを通じて的中させ、日系・外資系ファンド30社以上にトランプ政権の動向に関するポリティカルアナリシスを提供する国際情勢アナリストとして活躍。ワシントンD.Cで実施される完全非公開・招待制の全米共和党保守派のミーティングである水曜会出席者であり、テキサス州ダラスで行われた数万人規模の保守派集会FREEPACへの日本人唯一の来賓者。著書『トランプの黒幕 共和党保守派の正体』(祥伝社)は、Amazonカテゴリー「アメリカ」1位を獲得。主なメディア出演実績・テレビ朝日「ワイド!スクランブル」、雑誌「プレジデント」「ダイヤモンド」など。

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