メディアのいい加減さ、米国世論調査協会・報告書「隠れトランプは根拠薄弱だった」という事実


今日は「トランプ大統領当選」という少し前の出来事にさかのぼって話をしたいと思います。何故かと言うと、現在の我が国のワイドショーに出演している学者やジャーナリストのいい加減さについてもう一度振り返える良い機会が訪れたと思ったからです。

2016年大統領選挙直後、「隠れトランプ支持者」(本当はトランプを支持していたけれども、世論調査ではトランプ支持とは答えずに嘘をついた投票者)が存在していた、という、それっぽい話が一部学者やジャーナリストの間で「トランプ勝利」の理由として喧伝されてきました。

三浦瑠麗×古市憲寿がトランプ勝利を徹底分析 日本人が困ることは“ない”(2016年11月9日)
1年前に直感 木村太郎氏「トランプ大統領誕生」なぜ予言できたのか(2016年11月10日)
報道の敗北、トランプの勝利 「世論調査」はなぜ外れた?(2016年11月9日)
取材で感じた”隠れトランプ”の切実さとメディア不信(2016年11月10日ハフィントンポスト)

それに対して筆者は一貫して「隠れトランプ支持者」などは存在していない、と主張してきました。

「隠れトランプ支持者によって勝敗が決定した」は大嘘(2016年11月12日)
トランプ支持者は「白人ブルーカラー不満層」という大嘘(2016年11月1日)

その後、選挙から約半年後2017年5月4日に世論調査に関する主要な大学・研究所の2000人以上専門家で構成される「米国世論調査協会」(the American Association for Public Opinion Research)による大統領選挙時の世論調査が正確でなかった(ヒラリー優位がなぜ覆ったのか)理由についてまとめたレポートが発表されました。

その中で「隠れトランプ」仮説は「根拠が薄弱」として棄却されています。

“An Evaluation of 2016 Election Polls in the US”
http://www.aapor.org/Education-Resources/Reports/An-Evaluation-of-2016-Election-Polls-in-the-U-S.aspx

一部の投票者が選挙直前に投票先を決めたことの若干の影響は認めるものの、隠れトランプ仮説については「隠れトランプ支持者はインタビュー形式と自動音声形式の世論調査で回答が異なるはずであるが、その差に有意な差が見られなかった」ために根拠薄弱と断定されています。

その上で、同報告書では世論調査と選挙結果の差異が生まれた理由として「大卒者の世論調査傾向が実際の投票者の世論調査傾向よりも高く反映されたこと」と説明し、世論調査のモデルの修正の必要性について指摘しています。筆者が記事中で指摘していた学歴面での支持傾向の差をうまくモデル調整できなかったことが結果との相違を生み出したことが触れられています。

ちなみに、筆者の私見では選挙の終盤に投票を決した人が多かった理由は保守系団体のトランプへのエンドースメントが遅れて選挙直前期からマキが入ったからではないかと推測していますが、その辺りは世論調査の範囲を出る話なので今回はあまり触れようとは思いません。

いずれにせよ、現在でも日本国内では「公定力」を持って通用している「隠れトランプ支持者」に関する言説ですら「大統領選挙直後に米国メディアが取り上げていた理由」の後追いでしかなく、しっかりとした解説者独自の分析を踏まえた上での報道とは言えないものだったことになります。米国の世論調査協会によって根拠薄弱と断定された「隠れトランプ支持者」仮説をいまだ多くの日本人が信じていることは、ネタバレすると焦って米国メディアの報道を見て理由をでっち上げた有識者とされる人々による「後付け説明」でしかなかったのです。

その日のニュースについてワイドショーなどで解説するためには、実はよく知らないことでも即興芸人として「以前から知ってました」感を出すことが大事であるため、専門性が低くくても見栄え・ネーム重視の人々を揃える必要があります。彼らの多くは上記の米国世論調査協会の報告書の存在すらいまだ知らないままでしょう。

見た目や話術などで面白おかしくて御尤もに思える有識者をテレビメディアや新聞メディアは取り上げがちです。視聴者や読者は自分の頭で考えるメディアリテラシーの涵養が必要だと言えます。


渡瀬 裕哉
渡瀬 裕哉

パシフィック・アライアンス総研所長
早稲田大学大学院公共経営研究科修了。トランプ大統領当選を世論調査・現地調査などを通じて的中させ、日系・外資系ファンド30社以上にトランプ政権の動向に関するポリティカルアナリシスを提供する国際情勢アナリストとして活躍。ワシントンD.Cで実施される完全非公開・招待制の全米共和党保守派のミーティングである水曜会出席者であり、テキサス州ダラスで行われた数万人規模の保守派集会FREEPACへの日本人唯一の来賓者。著書『トランプの黒幕 共和党保守派の正体』(祥伝社)は、Amazonカテゴリー「アメリカ」1位を獲得。主なメディア出演実績・テレビ朝日「ワイド!スクランブル」、雑誌「プレジデント」「ダイヤモンド」など。

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