<インタビュー記事>新しいものづくりがつくる産業の未来・第4回「左手デバイス・Orbital 2」


連載「新しいものづくりがつくる産業の未来」、第4回目となる今回は、クリエイターの仕事革命・左手デバイス「Orbital 2」(以下、O2)を開発された、株式会社Brain Magic代表取締役、神成大樹さんにお話を伺いました。

Orbital 2
http://brainmagic.tokyo/ja/orbital2/

川島
はじめに、O2について教えてください。

神成
O2は、クリエイター向けの手のひらサイズのコントローラーデバイスで、現時点で一番機能を備えているインターフェースです。現在は販売に向けて、最後の仕上げを行っている段階です。

川島
なぜO2を開発されようと考えたのですか。

神成
元々私はイラストレーターなのですが、仕事をする中で、クリエイターの作業に対してコンピューターのインターフェースが最適化されていないと感じていました。そこで、自らインターフェースを作ってみようと思ったのがO2のはじまりです。
右手でペンを持って、左手でデバイスを持って、キーボードもユーザーインターフェースも触らないというのを、クリエイターのデファクトスタンダードにしたいと思いました。そこで、機能数や利き手、姿勢などの様々用件定義を組み合わせたり、視点観測をしました。コントローラーを作るなど多様なアプローチもしました。その結果、ブレイクスルーとして生まれたのがこのO2です。

川島
ご自身の経験から生まれたものだったのですね。
イラストレーターをされていて、デバイスの開発に関しては未経験でいらっしゃったと思います。どのように開発されたのでしょうか。

神成
デジタルハリウッド大学院で、香田夏雄教授のプロトタイピング演習という授業を受講して、Arduinoに触れる機会がありました。この時に、自分にもできそうだなと思ったので、すぐに教授に「こんなものを作ってたい」と相談しに行きました。
その後、インターネットで調べたり、詳しい人に質問しながら、回路設計、基盤設計などを自分でやりました。プログラミングは友人にお願いしたりして、周りの力も借りながら、1つずつ壁を潰して行きました。

川島
開発にはどのくらいの時間を要したのでしょうか。

神成
開発を始めてデジコレ6(※)で発表するまでに、約2年ですね。
※2016年に行われた、デジタルハリウッド大学大学院の成果発表会

川島
約2年で形になったですね。開発の過程で、どのようなことに苦労しましたか。

神成
デバイスの設計ですね。
悩んでいた頃、パスタにコショウをかけようとした時にうまく出てこなくて、コショウの瓶を違う方向に傾けたんです。その時に、「これだ」と閃きました。

川島
コショウの瓶を傾ける動きが、倒したり回したりして使用するO2の元だったんですね。

神成
はい。デバイスに関しては、今までもジョイスティックとダイアルを組み合わせている似たような設計のものは存在したんです。しかし、O2の特徴はそのコアの部分で、倒した方向によってダイヤルの機能と押しボタンの機能が入れ替わるようになっています。ですので、たった1つのホームポジションなのですが、一切持ち替えをせずに、8個のダイヤルを一緒に操ることを可能にしています。

川島
そもそも、なぜ今までこのようなデバイスは存在しなかったのでしょうか。

神成
クリエイターが使用する機能の数は非常に多く、純粋に機能を並べてしまうとデバイスが巨大なものになってしまいます。そうなると、キーボードで良いのではないかとなってしまっていたのですね。次に基盤を考えると、平らにセンサーキーを並べる方法と縦に並べる方法があるのですが、後者は生産効率とコストが悪いので手をつけたがらないんですね。

O2は採算度外視で、クリエイターをのニーズを満たすことを第一に考えた結果、基盤を縦に並べて設計を行っています。その結果、誰にも追随できない新たなデバイスを生み出すことができました。

川島
なぜそこまでの熱意を開発に注げたのでしょうか。

神成
元々私はイラストレーターですが、以前はこの先20年後も30年後も、ずっとイラストレーターを続けていくと思っていました。しかし、学生時代にイラストレーターとしてソーシャルゲームアプリの開発に携わった際、右手が腱鞘炎になってしまったんです。調べてみると、左手も1時間に1000回キーを連打していたことが分かりまして。

川島
1時間に1000回!すごい回数ですね。

神成
他の方も調べたのですが、これはあくまで平均値でして、整形外科の先生にクリエイターの作業風景動画を見て頂いたところ、腕や肘に負担をかける動作や姿勢が含まれている事がわかりました。それは長時間作業するクリエイターにとって大きなリスクになるので、これはインターフェースをもう一度考え直さないといけないなと思いましたね。

O2を使用すると、左手の腱鞘炎がなくなったのはもちろん、ペンを持つ右手にも効果がありました。まだまだ治験をして実際にデータを集める必要はありますが、少しでもクリエイターの健康にも役立ったら嬉しいです。

川島
O2を使用された周りの方の反応はいかがでしたか。

神成
最初クリエイターに使用してもらった時は、ボタンが足りないと言われ、改良したら今度はボタンが多すぎて使いにくいと言われ、試行錯誤の繰り返しでした。今のO2は7世代20種目のプロトタイプですが、上位概念を抽出してクリエイターの作業を網羅できるようになりました。

基本的にO2は主に3つのインターフェースから成り立っています。
一番上のオービタルエンジンは、「倒す・回す・押す」という3つの動作で、キーボードのショートカットやUIで行っていた操作をより直感的に実現することができます。

真ん中のフラットリングは、8つのスイッチをが搭載されていて、スイッチ1つに「ブラシ」「鉛筆」「消しゴム」など複数のツールを登録できるようになっています。

一番下のグロウリングは、ソフトを並行して操作するような場合に、今何を使っているかを任意の色で光って教えてくれます。

クリエイターはたくさんのソフトを切り替えながら作業するので、だいたいどのソフトでも使えるようにしているのがO2の特徴です。その際に、設定だけが切り替わっていくので、一瞬で分かるようになっています。
環境設定でここまでできるのはなかなか無いと思うので、そこは強みですね。また、学習コストが低くて、触りながら覚えられることも特徴です。
先日のラスベガスの家具見本市CES2018でも、非常に高い評価をいただくことができました。また、クラウドファンディングでは、クリエイター以外の方からも興味を持っていただき、積極的に質問もいただきました。

川島
実機でのデモンストレーションを拝見しましたが、O2を操作する手元はとても速くて、まるでクリエイターの頭とソフトが直結しているようなスピード感で、作業を行うことができるんですね。

ちなみに、今後クリエイター以外の方向けの製品も検討されていますか。

神成
一般の方に向けて、音楽のボリューム調整ですとか、動画、写真のスクロールのインターフェースとして使用できる廉価版の開発を検討中です。また、映像、建築、編集などあらゆる分野で使えるようなデバイス開発へ繋げたいと思っています。

川島
それは楽しみです。最後に、今後の展望を教えてください。

神成
O2開発にあたり、様々なクリエイターのデータを採取したのですが、その過程で今までブラックボックスだったクリエイターの作業を可視化することができました。今後は、そのデータを有効活用して、最適なプランの提案やデバイスへのフィードバックを行えればと考えています。
これは弊社のビジョンでもありますが、O2から始まって、クリエイターの仕事をよりはやく、より楽に、より高い水準にする支援をさせていただこうと思っています。

川島
神成さん、本日はありがとうございました。

神成
ありがとうございました。


川島京子
川島京子


1989年東京都生まれ。デジタルハリウッド大学院メディアサイエンス研究所リサーチアソシエイト。Creative Smash株式会社代表取締役。2008年、明治大学在学中に インターネット上の仮想世界「Second Life」にて音楽ユニットをプロデュースし、企業とタイアップしたバーチャルイベントを実施。メジャー音楽レーベルに勤務を経て、24歳で独立。国内最大級の3Dプリンタメディア等ものづくりやクリエイティブに関わる事業を展開。

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