ロンドン発、スマホ診療・AI診断が世界の医療を変える


ロンドンに医療保障機関、NHS(国民保健サービス)と協同してスマホ診療・AI診断アプリを提供するBabylon Healthというスタートアップ企業がある。社会保障費の削減、医師不足対策や医療の質の向上を目的にサービスは導入され、拡大を続ける。

創業は2013年で、現在、社員は約300人(そのうち、約200人がAIエンジニア)。イギリス、アイルランド、ルワンダなど、世界で約200万人が使用し、また120社以上が従業員の福利厚生としてサービスを活用する。Googleに買収されたAI企業、Deepmindの創業者からも出資を受け、2015年にAppleの最も有望なアプリに選出、また2015-16年のヘルスケア領域のイノベーター賞受賞など様々なAwardを受賞してきた。ビジネスは急速に拡大し、社員は月に数十人単位で増加、2-3年で数十か国への展開を計画する。

アプリをダウンロードし、テキストで症状を入力すると、AIがチャットでの会話を通して診断結果を提示する。さらなる診断や治療が必要となれば、電話・ビデオ通話での医師・専門家との診察が可能となる。そこから必要に応じて処方薬の宅配や薬局での受け取り、また対面での診療の予約も行える。チャットは無料だが、医師・専門家への相談の料金は一カ月5ポンドの定額、あるいは一回25ポンドでのサービス利用が可能となる。また、計測機器から記録された血圧や脈拍などのデータを用いた健康状態のモニタリングや、家族の健康状態を確認できるサービスもある。

通常の診療では、NHS側のコストとしては、医師の診察では約45ポンド、看護師では約13ポンド発生するが、このアプリのAI診断では何のコストも発生しない。また、数億のデータ、数千のテストを経て実装へと至っており、一人の医師は1年で約7000回の診断しか行えないことを考えると、精確性への期待も大きい。さらに、診察数が減ることによる医師の負担軽減にも貢献する。

心配なのはAI診断の質だが、医療から介護まで広いサービスを評価するCQC(Care Quality Commission)という独立した第三者機関によって標準化や質の担保が審査されており、Babylon Healthは無事に合格している。(同様のサービスを提供するPush DoctorやMD Directは同様のCQCの審査で不備が指摘された)

イギリス人のクラスメート数人に聞いてみると、社名や、こうしたIT化の取り組みは聞いたことがある、という程度だったが、面白いことにその夕方、彼らから「広告を見つけたよ!」と次々と写真が送られてきた。こうして駅や地下鉄に多くの広告を掲載していることからも、NHSの本気度が伝わってくる。

イギリスはP2P融資プラットホームやこの医療アプリなど、新しいツールを使って社会問題、政府の課題を解決しようという姿勢、実行力に長けている。Babylon Healthのサービスは医療やインフラが未発達な途上国だけでなく、社会保障費の増大に苦しむイギリスや日本のような先進国への貢献にも期待が大きい。文字通り、世界を変える医療サービスがロンドンから生まれ、躍進を続ける。


山中 翔大郎
山中 翔大郎


国際機関等でのインターンシップや難民支援の社会起業立ち上げを経験。急速に進化するテクノロジーの活用による国内外の様々な課題解決を目指す。一橋大学大学院社会学研究科修了。外資系投資銀行、ケニアの投資ファンド勤務を経て現在はロンドンビジネススクール、ファイナンスコース在学中。

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