「Edtech連載・第4回」生活保護世帯でも「スマホ」で学習塾に通える社会に


Edtech特集の第四弾は、日本最大級のスマホ学習塾「アオイゼミ」を展開する株式会社葵代表取締役の石井 貴基さんとの対談記事をお届けします。
イグジットが難しいとされるEdtech業界で、昨年11月にZ会グループによりM&Aが実施されたことも話題となりました。

伊藤
本日はよろしくお願いします。
まず、教育分野で起業されたきっかけを教えてください。

石井
前職がファイナンシャルプランナーで、様々な年収帯のご家庭の家計についてアドバイスをさせていただいておりました。年収帯によって家や食費あるいは衣服など、様々な選択肢がありますが、教育費、特に学習塾費用となると、いきなり2万円〜3万円必要になります。
月収10万円のシングルマザーからすると、とてもじゃないけど払えない現実を目の当たりにしました。学習塾費用に関して選択肢が乏しいことを知ったのが、起業のきっかけです。

学習塾の場合、どうしてもテナント代や人件費がかかるため、生徒一人あたりのコストは高くなりがちです。YouTubeもありましたが、単純に動画で一方的に学習する仕組みでは生徒が継続させることは難しいと思っていました。

2011年に盛り上がりつつあったライブストリーミングという技術を使えば、リアルタイムに先生に質問したり、一緒に勉強している生徒と励まし合いながら勉強する体験が実現できると考え、2012年に会社を設立しました。

伊藤
Edtech業界では、AIなどデータを活用した学習効率の向上、あるいはSTEM教育が大切だと言う方が多く、家計、コストの面からアプローチされているのは珍しい印象です。サービスの料金を教えてください。

石井
基本的には無料でご利用いただけます。無料プランでは、生放送の授業への参加、先生へのコメントができます。
有料プランは3,500円からお届けしています。アーカイブの閲覧、オフライン環境での動画閲覧、教材のダウンロードや個別質問できる機能が使えるようになります。
全科目閲覧可能で、中学、高校の横断も可能です。例えば、中学生で高校生の内容を先取りすることもできますし、高校生で基礎が弱い生徒が中学を見直すこともあります。

伊藤
中高の横断など、スケジュール通りに単元が進んでいく学校が苦手なところですよね。また、価格も魅力的です。

石井
どのような生活環境でも勉強できる環境ということにこだわっています。極端な言い方をすれば、生活保護世帯でもスマホやネット環境を持つことができるため、勉強することができると考えています。実際に生徒や保護者の方からも経済的に助けられたという声も届いています。有料プランであっても学習塾の5分の1程度の価格です。

伊藤
中学受験などに対応されていませんが、何か理由はありますか。また、この価格で最初からビジネスとして成立するイメージはお持ちでしたか。

石井
東京のマーケットを想定すると中学受験なども入ってきます。私自身が地方出身なのですが、こうしたニッチな産業ではなく、どのような地域でも、経済的な環境に関わらず、本人が頑張りたいと思った時に高校や大学に行けるようなインフラを作ることがミッションです。

学習塾自体の市場規模は約1兆円あります。スマートフォンやタブレットというデバイスや通信環境が改善していくことは予想していたので、そこに可能性を感じていました。

伊藤
アオイゼミさんのアプリは、タイムライン機能などスマホの特性を活かしたものになっていますね。

石井
自宅でスマホやタブレットを見て、一人で画面に向かって勉強するということに、孤独な印象をお持ちの方もいらっしゃるかもしれません。しかし生徒からは、全国の仲間とつながっているという声をいただいています。
また、匿名なので発言しやすいというメリットがあり、授業に参加する時もアクティブラーニング的な要素もあります。

伊藤
授業ではどのような講師の方が活躍されているのでしょうか。

石井
講師は、他の学習塾や予備校で活躍していた方しか採用していません。映像授業はオフラインとは異なり、画面を通して双方向での指導に長けている方で、どちらかと言えば若い方が多いです。他の予備校さんと比べ、若手の第一線で活躍されている方を積極的に採用しています。

伊藤
確かに、若い方ほどオンラインに慣れていますね。
Edtech業界では珍しいM&Aを決断されましたが、どのような点がプラスに働きましたか。

石井
例えば、中1から育てた生徒が大学受験する時にどのようになっているのか、これを何千人みてきたかというノウハウが重要です。大企業の場合、時間をかけることで教材の作成や指導に関するノウハウが蓄積されています。
これまで丁寧に指導されてきた、Z会さん、そしてグループ傘下の栄光ゼミナールさんのノウハウは非常に魅力的で、スタートアップで弱かった教材の量、質、指導法を今回のM&Aで使わせていただけるようになったことは本当に心強いです。

伊藤
一方で、公教育について、民間のお立場からどのように見ていらっしゃいますか。

石井
学校の現場では、校務が大変だなと感じています。教科指導、生活指導、部活の3つだけであればまだ良かったのかもしれませんが、保護者対応や新しい教育への対応のために自己研鑽の時間も確保しなければいけません。教員の人員が増えているわけでもなく、教員にもっと余裕がなければ、いまの状況は改善しないと考えています。
アオイゼミでは生活指導はできないので、そこは学校の先生が担っていただきたいです。それぞれの立ち位置で世の中に還元できることは違いますし、職務分担をしていくことで、負荷軽減や業務効率の改善ができると考えています。

伊藤
時代の流れを捉えた優れたサービスを提供されているので、自治体から声がかかることもあると思いますが、いかがでしょうか。

石井
北海道や富山県などの自治体で導入されたこともあります。いずれもあまり塾がない地域です。他にも、大阪市さんの塾代助成事業において、オンライン学習塾として初めて採択いただきました。

伊藤
自治体でも教育へICTを取り入れる動きがありますが、行政が気をつけなければならない点などありますか。

石井
学校の先生などの管理者に向けて作ったサービスなのか、実際の使用者に向けて作ったサービスなのかによってプロダクトデザインは異なってしまうという点です。これまでは教育現場へテクノロジーが導入される際、自治体や教育委員会のオーダーで仕様が決まってしまい、それを生徒に提供しようとしても、現場の状況によって導入しても使えない場合があります。
これからは、生徒たちに向けて作られたものを、教育行政で使えるものへと変えていくという発想でつくった方が、良いものができるのではないかなと思っています。大阪市の塾代バウチャー制度の場合は、民間のサービスを利用者自身が選択し、使っていただけないと業者にお金が入ってこないところは優れていると感じています。私たちも頑張らないといけません。

伊藤
せっかくICTの導入が決まっても教育委員会が発注しやすいシステムになってしまうと、児童・生徒のためになりません。私もスタートアップとバウチャー政策については、可能性を感じています。
非常に重要なヒントをいただくことができました。本日はありがとうございました。

石井
ありがとうございました。


伊藤陽平
伊藤陽平

新宿区議会議員
30歳最年少の新宿区議会議員。立教大学経済学部経済政策学科卒業。大学在学中にIT企業を設立し、代表取締役に就任。Webアプリケーションの開発やWebマーケティング事業を展開。 ブロガー議員として365日年中無休でブログを更新し、多数のメディアへ寄稿する。また、日本初のAI議員として機械学習を議会活動で活用している。

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