東京大改革の今・第4回 東京都スポーツ振興のビッグジャンプは?


東京都は「2020改革プラン ~ これまでの取組の成果と今後の進め方 ~(素案)」を発表。これまでの都政改革の成果をまとめたもので、それなりにしっかりしたものである。ページ数は146ページ。そこで強調されている「2020改革」の基本理念は

○一律に「削る」・「減らす」ことを主眼とせず、投資すべきところには、積極的に先行投資
○IoTやAIに代表される最先端の科学技術を積極的に活用
○現場に根差し、局自らが主体となった改革を推進し改革マインドを醸成
○毎年度、実状に応じた期間設定による必要な改革の取組を追加

ということにある。現実をみながら前進していく、先端技術を活用しつつ、職員の主体性を尊重する、そんな手堅い進め方だ。
この中でも、「見える化改革」は2020改革の基盤である。現状分析という比較的地味目の取組みに焦点を当てることで、見えてくるものがある。

今回は、東京都出身の5人の日本五輪代表(しかもモーグル原大智さんのような都会の中心の出身者から冬のメダリストが!)に敬意を示してスポーツを事例にして考えていきたい。

行政がスポーツ振興にかかわる意味とは?どこまでかかわる?

平昌五輪真っ盛りの今、やはりスポーツのすばらしさ、楽しさを改めて感じる。競技スポーツとはいえ、人間としての超人的なプレーに感嘆する毎日である。

どうしたらあんな超人的なプレーができるのか、美しい演技ができるのか、陰でどれくらいの練習・我慢をしたのか、代表選手の裏にはどれだけ多くの挫折した人がいるのか、陰でどういった人が支えていたのか・・・・。

私と同じことを思う人も多いだろう。ますます東京五輪への期待も高まる。

しかし、行政の役割はまた別問題である。競技アスリートを育てることを推進するのか?スポーツに触れ合う人を増やすのか?楽しむ習慣づくりのきっかけを与えるのか?

こうした住民レベルでの議論・対話を深め、どのレベルまでかを話し合い、合意をしている自治体はほとんどない。本来なら政治家同士に議論させて、予算や優先順位含めて政策議論をしてもらいたいところだが、そうした政治家を輩出できないのは我々の責任だろうけど。

【図1】

(出典)「2020改革プラン ~ これまでの取組の成果と今後の進め方 ~(素案)」P82

話を戻して、スポーツ振興についての「見える化」分析の要旨は図1の通り。「スポーツの力を広く浸透させ、都のスポーツ振興を飛躍的に発展させる絶好の機会」だそうだ。東京五輪がなかったとしても、健康の保持増進や青少年の人格形成への寄与などの効果があるためスポーツ振興を行政施策として実施することの目的妥当性と目的合理性は多くの人が納得するだろう。
都は、2020年の達成目標として、スポーツ実施率70%を目標に設定。その達成に向け、「機会の創出」「場の確保・ 活用」「多様な主体との連携」の三つの柱で施策を展開していくそうだ。

政策を実施する前の現実は?

しかし、都民のスポーツの実施状況を見るとそこには驚愕の数字が横たわる。

【都民のスポーツの実施状況】
都民のスポーツ実施率は、平成28年度調査で初めて低下し、前回調査比4.2ポイント減の56.3%

なのである。補足すると、スポーツ実施率とは、週1回以上、スポーツや運動を実施した人の割合のことである。目標の70%からは程遠い現実。
さらに詳細を見ると、

【スポーツ実施率低下の要因分析】
・高齢者世代は、前回調査に比べ、スポーツ実施率が男女ともに大きく低下、スポーツを実施しない理由は、「年をとったから」の回答が多い
・働き盛り世代は、他世代に比べスポーツ実施率が低い。
スポーツを実施しない理由は、男女ともに「仕事や育児等により忙しいから」との回答が多い。 ・20~30代の女性、20代の男性のスポーツを実施しない理由は「好きでない」との回答が多い。
・また、学齢期においては、学年が上がるに連れてスポーツ嫌いの児童・生徒が増加する傾向であり、特に女子はその割合が高い。

とのこと。だから何?(So what?)こんなのデータから見える「現状把握」のレベルで「要因分析」じゃね-だろとの突っ込みは置いておいて、(我々のような専門家は知っていたものの)世間的には知られていなかった現実を明らかにしている意味で大変意義がある。

さらに詳細をこの資料の出典「都民のスポーツ活動・パラリンピックに関する世論調査の集計結果について」にあたってみると。以下図2に示すように、全国的にスポーツ実施率は低く推移(全国では24年度から28年度に5.2ポイント減)している背景、60歳以上の高齢層の実施率が大きく低下(60歳未満の実施率は、ほぼ横ばい)。男性の働き盛り世代(30~40歳代)の実施率が上昇したことが明らかになっている。

【図2】

(出典)「都民のスポーツ活動・パラリンピックに関する世論調査の集計結果について

政策を実施する前の現実は?

施策別の課題と今後の検討の方向性としてて、スポーツを実施する機会の創出をしていき、今後の検討の方向性としては 「全体的」から「重点化」という方向性を考えている模様だ。特別顧問等からの助言も正論を述べている。「今後はソフト施策に重点を移すべき」という方針転換をアドバイスしている。とってもまっとうな方向性だと思う。

ただ、1点、尊敬するジャーナリストが書いた記事の内容に心から同感したので少し紹介したい。その記事ではJリーグ、浦和レッズの元監督ゲルト・エンゲルス氏の発言(THE ANSWER誌、加部究氏著作記事)が話題になっている。

エンゲルスさんは兵庫県の高校サッカーの名門、滝川第二高校サッカー部(プレミアリーグ、レスターで活躍する岡崎慎司さんの母校)のコーチ時代にある疑問を持った。

競技スポーツの競争でプロになれるのは学年で1人いるかどうか。多くの子供たちにとって一番大切なのはサッカーを楽しむことであり、サッカーを生涯の遊びにして欲しかったと述懐する。

「サッカーを好きになってもらうのも大切な結果だ」。この言葉は、部活・体育など前近代的な遺産から脱却していない日本のスポーツの現場の課題を如実に表す。

スポーツをいかに楽しむか。人とスポーツとの関係、東京五輪に向けて問われるのはそこなのではないか。


西村健
西村健

人材育成コンサルタント、NPO法人日本公共利益研究所(JIPII:ジピー)代表、事業創造大学院大学 国際公共政策研究所 研究員・ディレクター、一般社団法人日本経営協会講師、未来学者。
慶應義塾大学院修了後、アクセンチュア入社。 その後、日本能率協会コンサルティングで経営・業務改革、人材育成、能力開発を支援してきた。独立後、人事評価制度構築・運用、キャリアカウンセリングなどのコンサルタントとして活動中。最近はプレゼンテーション向上、モチベーション施策などに注力。

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