政策シンクタンク論・第6回 日本にシンクタンクは必要か? 自身の経験から得たシンクタンク再考


1.はじめに

筆者は、これまで述べてきたようにいくつかの政策シンクタンクの設立および運営に関わってきた。その後、東日本大震災の際の原発事故の調査のために国会に時限的につくられた東京電力福島原子力発電所事故調査委員会(国会事故調)や塩崎恭久議員の大臣時に厚生労働省総合政策参与としても勤務する経験を得た。つまり、立法府の中や行政府での経験をすることもできたのである。

そのことは、筆者は、日本において、政策シンクタンクの経験も含めて、議員経験なしで、政党、立法府、行政府、民間などのような多様な立場で、広い意味での政策に関わってきた稀な存在であることを意味すると思う。そのような様々な経験を踏まえて、日本における政策シンクタンクの必要性と可能性について論じて、本稿を閉じようと思う。

2.政策シンクタンクの必要性および重要性

これまでも何度も述べてきたように、日本の政策形成は行政・官僚を中心に行われてきている。これは、1990年代の政治主導を目指した政治改革の多くの努力にもかかわらず、残念ながら大きく変わったとは言えない。もちろん、政治の力は、以前に比べれば、相対的には強くなったといえようが、そのことは、政治が完全に行政をコントロールできているとか、行政抜きで政策形成が行えるようになったことを意味しない。さらに、先述したように、行政中心の政策形成も、世界や社会で起きつつある大きな社会変化の今の時代状況に即しているとはいえない状況が生まれてきているし、それに代わる新しい仕組みが形成されつつあるわけでもない。

つまり、政治も行政も、政策形成のその能力は弱体化、劣化してきているといえるだろう。

民主主義は、民意(政治的要請)と複数の専門性のバランスを取りながらでしか、運営していけない仕組みだ。その意味では、行政以外にも社会の専門的人材が存在し、そこからの異なる政策的知見が絶えず社会的にインプットされることが必要だ。その意味で、政策シンクタンクの必要性は、AIなどのテクノロジーでその仕組みやアプローチは変貌していこうが、今後とも必要であるといえる。

社会や世界はますます複雑になり、専門性の重要性はさらに増大している。そこでは、選挙で選択された人財だけで、行政や政策形成をコントロールし、活用していくことは不可能だ。その意味でも正に、政策シンクタンクやその人財の重要性および必要性は増していると言えよう。

3.政策シンクタンクの可能性

その必要性や重要性は上記のとおりだが、現実に日本で政策シンクタンクがそれほど有効に機能しているとはいえない状況を考慮すると、一体どんな政策シンクタンクに可能性があるのだろうか。

それは、ある程度の独立の資金規模(注1)のある政策シンクタンクだ。筆者の政党シンクタンクの経験からすれば、それを運営する起業家的人財がいれば、その資金規模はかなり抑えられるかもしれない。

ただし、日本の政策形成過程は、クローズドで外からはわかりにくく、知見を社会的に共有したりできにくいので、民間の経験だけでは政策人財はなかなか育ちにくい。そのために、何らかの形で、行政内での経験(可能なら、何度も行政の内外を行ったり来たりしたことのある人財がベスト)(注2)があり、そこにネットワークのある人財が、その政策シンクタンクにある程度の数いることが望ましい。

また、日本の行政や官僚は、議員等を手取り足取りサポートする。そのような現実の中、政策シンクタンクがどんなに優れた政策代替案をつくり、議員等に投げても、賛成し評価してくれても、それ以上は進展し、政策が実現していくことはほぼない。そそのような政策シンクタンクは、国際的基準からすると本来の在り方ではないと考えるが、日本では、議員等がそれらの代替案を実現していくためには、それらを呈示する以上に踏み込んで、政策シンクタンク側からのその実現のための継続的なサポートが必要なのである。

そして、今後創られる政策シンクタンクは、自らの組織のことだけを考えるだけではダメだ。複数の政策シンクタンク(注3)が日本で誕生し、先に述べたように行政などとの勤務経験を重ね、それらシンクタンク等でも活躍できる政策に関わる人財のプールと流動性を生み出せる「政策市場」を創造していくことも、視野に入れていくことが必要だろう。同市場では、人財だけではなく、政策に関わる資金や政策情報の円滑な流れも生まれていくように、その他の関連組織や部門を協議、協調していくことが、望まれるところだ。

4.最後に

筆者は、自身の政策シンクタンクの創設・運営の経験、その他の政策絡みの様々な経験から、日本は、民主主義制度をとる国ではあるが、それを実態として落とし込み、活かし運営していく国にはなっていないと考えるようになった。その意味では、現在の日本を政策シンクタンク一つ創ったぐらいでは変えることはできないと考えている。

だが、その必要性や重要性はさらに高まっていると考えている。そのことからも、政策シンクタンクを今一度創設し、先述した「政策市場」の構築に向けて、今後も可能性を模索していきたいと考えている。特に、今後の日本そして世界を担い若い世代の方々とその可能性を探求したいところだ。

(注1) 民間に社会に関わる資金(パブリックマネー)が流れる仕組みを構想し、それを実現していくことも、その政策シンクタンクの重要な役割であろう。
(注2)ただし、元々行政にいた人財は、行政組織がベスト考え、現在の仕組や方向性を大きき変えることに消極的な面もあるので、その点も人財採用の際には要注意。
(注3) 複数の政策シンクタンクが、競争して、政策研究や政策活動などを行うのである。それにより、行政や政治・国会で政策の議論や審議が行われる前に、社会的に政策論議が先行し、それを通じてアバウトな社会的合意が形成され、それを受けて、立法府・行政府等で政策形成が正式に行われる。そこでは、正に国民・市民が政策論議に広い意味で参加することになり、日本がより民主主義的な社会になることが出来ると考える。


鈴木崇弘
鈴木崇弘


城西国際大学大学院国際アドミニストレーション研究科教授および「教育新聞」特任解説委員。宇都宮市生。東京大学法学部卒。マラヤ大学、イースト・ウエスト・センター奨学生として同センターおよびハワイ大学大学院などに留学。東京財団の設立に関わり同財団研究事業部長、大阪大学特任教授・フロンティア研究機構副機構長、自民党の政策研究機関「シンクタンク2005・日本」の設立に関わり同機関理事・事務局長、法政大学大学院兼任講師、中央大学大学院公共政策研究科客員教授、東京電力福島原子力発電所事故調査委員会(国会事故調)事務局長付、厚生労働省総合政策参与などを経て現職。91年―93年まで 米アーバン・インスティテュート兼任研究員。PHP総研主席研究員、日本政策学校代表、Yahoo!ニュースのオーサーなども務める。大阪駅北地区国際コンセプトコンペ優秀賞受賞。主な著書・訳書に『日本に「民主主義」を起業する…自伝的シンクタンク論』(単著)、『学校「裏」サイト対策Q&A』、『世界のシンク・タンク』(共に共編著)、『シチズン・リテラシー』(編著)、『アメリカに学ぶ市民が政治を動かす方法』(監共訳)、『Policy Analysis in Japan』(分担執筆)など。現在の専門および関心分野は、公共政策、民主主義の起業、政策インフラの構築、新たなる社会を創出していける人材の育成さらに教育や統治における新システムの構築。

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