日本ネットメディア20年史・最終回 ネット世論から首相は誕生するか


出典:内閣府サイト

はやいもので筆者の連載も最終回。ネットメディアが近年、リアルの政治に与える影響が増してきたケースの紹介や分析をしてきたが、新聞やテレビなどの既存メディアには影響力でまだまだ及ばないのも事実だ。ネットから生まれる言論が、それこそ総理大臣誕生の流れをつくるような世論形成や社会的プレゼンスをめざす上で、どのような課題があるのか。新聞社と言論サイトの両方を知る立場から、最後に述べてみたい。

都議選のパワーシフト:アゴラの4人が全員当選

第3回寄稿でも述べたように、SNSとスマートフォンの普及によって、ネットメディアの比較的大手とされるプレイヤーは、マスメディアに継ぐ「ミドルメディア」と言うべき立ち位置を占めるようになってきた。同記事で言及した都知事選のように選挙情勢に一定の影響を与えたとみられるケースも増えている。

また、音喜多駿氏のように、マスコミの力を借りず、自らブログで直接社会に発信する政治家も増えた。地方議員が不特定多数向けにわかりやすく地方議会・行政の問題点を連日のように書き続ける事例はこれまでになく、今ではマスコミが音喜多氏のブログを取材のヒントの一つにしている。その音喜多氏のブログの発信のあり方を批判するライバルの都議会自民党、川松真一朗氏もまた手法こそ違えど、自民党の視点から小池都政カウンター世論をネットから作り上げてきた。


左上から時計回りに、音喜多駿氏、川松真一朗氏、柳ヶ瀬裕文氏、上田令子氏

アゴラには4人の都議のブログを掲載しているが、メディアのパワーシフトを象徴したのが昨年7月の都議選だった。当時は小池陣営にいた音喜多氏、上田令子氏の楽勝は予想するまでもなかったが、逆風で選挙戦に突入した川松氏、埋没気味だった維新所属の柳ヶ瀬裕文氏の2人も生き残ったことで、ネットから継続的に一定の文字数で政見を披露し続ける意義が実証された。

特に川松氏は自民の先輩議員に対し、わずか103票で上回る17,507票での当選。報道機関の選挙戦序盤の情勢調査では5人の候補の中で最下位だったが、そこから終盤にかけて無党派層の支持をじわじわと集めた。党内では、アナウンサー出身の知名度による無党派の「受け皿」としての位置付けで、組織団体票に頼れない中で再選が危ぶまれたが、それまでの1年近く、アゴラ等の言論サイトで唯一発信する自民党の都議会議員として、若い世代やマスコミの注目を集めてきた積み重ねはあった。当然選挙中も応援弁士の演説起こし文などを精力的に投稿。推測でしかないものの、17507票のうちの103票は、川松氏がブログ等でコンバージョンした無党派層だったといっても過言ではないだろう。

ネットメディアは「個人プレー」から「組織戦」に昇華できるか

第4回機構も含め、局所的に注目例が出てきたことからネットメディアの今後に期待したいところだが、現実的な課題は大きい。ひとつは、現状のネットメディアは、書き手個人の力にあまりにも依拠している点だ。アゴラでいえば、朝日新聞の慰安婦誤報問題を再燃させた池田信夫、蓮舫氏の国籍問題を提起した八幡和郎氏、そして本サイトの主筆でトランプ当選を的中させた渡瀬裕哉氏が挙げられるが、結局はアゴラ編集部の組織としての媒体力があったとはいえない。

アゴラはオーナーである池田を除くと、日頃の運営実務は編集長である私と、編集アシスタントを兼務した技術スタッフ、動画スタッフの3人しかいない。品質管理の手間暇も、転載ブログを除くと執筆者に任せるのが原則だ。編集体制の脆弱さはアゴラだけではなく、一部の大手を除く大半のネットメディアにも当てはまる。速報のニュース対応や各種企画の推進、あるいは校閲担当など、安定的に質の高いコンテンツを生み出すには、大手の新聞社ほどには行かなくても企画力や人脈のある編集者が1人でも多いに越したことはない。

その点、NewsPicksが成功するかは注目している。300万の会員のうち、有料会員も6万人にまで伸びていることもあって(ユーザー課金月額1,500円からの単純計算で月商9,000万円の推計)、新聞、出版から人材が続々と集結。東洋経済出身の佐々木紀彦編集長のもと、編集部員は数十人体制になっている。2年前には週刊ダイヤモンドから3人の中堅記者を引き抜き、特ダネも定期的に出している。ネットでは珍しい校閲専任の編集者(業界紙出身)も過去に置いていたこともあり、零細サイトの運営を預かる私にはとても羨ましい布陣になっている。

しかし、これは私の持論だが、ネットであろうと、紙であろうと、メディアは世の中にリアルのインパクトを与えてナンボというものだ。NewsPicksはスマホ主体でコミュニティーが閉じている分、いささか外部への拡散力に弱いと思う。一方、同じく既存メディアから記者をかき集めている外資系リベラルのネットメディアもあるが、野党第1党党首の「クビを初めて取った」ネット媒体が零細経営のアゴラだったことは、絶対的な強者がいないネットメディアの面白いところかもしれない。

2031年、小泉氏が安倍氏の首相初就任時と同じ年齢に…

出典:復興庁サイト

東京オリンピックが終わった後の日本で、メディアと政治の風景はどうなっているだろうか。2025年は団塊世代が後期高齢者になる一方で、学生時代からネットを使いこなしていた「ネット世代」はアラフィフとなり、年功序列の色が濃い日本社会の様々な組織でようやく意思決定層に浸透してくる。2031年には小泉進次郎氏は52歳となり、安倍晋三氏が初めて首相に就任したのと同じ歳になる。

総理候補として本命視される小泉氏は、もともとメディア露出が多く、ネットの力を借りずとも首相になる可能性は高いが、小泉氏の前後に首相になる政治家で、ネットを使ってゼロから知名度や存在感を高めて宰相の椅子に座る者が出てくるのかどうか。個人的には“進次郎世代”のほかの若手議員の動向にこれからも注目していきたいし、その頃、還暦に近づく私自身も良い意味で老獪さを増しながら、メディアの立場から新しい政治の潮流の一端に関われたらいいなと思っている。

※本稿は新田個人の見解による外部メディアへの寄稿です。必ずしも所属先を代表するものではありません。


新田哲史
新田哲史


アゴラ編集長/株式会社ソーシャルラボ代表取締役社長 1975年生まれ。読売新聞記者(運動部、社会部等)、PR会社を経て2013年独立。大手から中小企業、政治家の広報PRプロジェクト参画を経て、2015年秋、アゴラ編集長に就任。数々のリニューアルを仕掛け、月間アクセス数も3倍増となる1,000万PVを1年で達成した。 著書に「朝日新聞がなくなる日 - “反権力ごっこ"とフェイクニュース」(共著、ワニブックス)、「蓮舫VS小池百合子、どうしてこんなに差がついた?」(ワニブックス)等。

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