「トランプの貿易戦争」の現状を概観する


トランプ大統領が鉄鋼とアルミに関する関税引き上げを実施することに署名しました。そして、保護主義に反対を貫いてきたゲーリー・コーン国家経済会議議長が辞任する事態に発展しています。

トランプ大統領が鉄鋼とアルミに対して関税を引き上げることは、昨年からのトランプ政権の行動をチェックしていれば明らかでした。一例を挙げると下記の通り。

1.大統領令:Presidential Executive Order on Establishing Enhanced Collection and Enforcement of Antidumping and Countervailing Duties and Violations of Trade and Customs Laws

2.大統領令:Addressing Trade Agreement Violations and Abuses

3.大統領令:Establishment of Office of Trade and Manufacturing Policy

4.大統領令:Presidential Executive Order on Assessing and Strengthening the Manufacturing and Defense Industrial Base and Supply Chain Resiliency of the United States

5.USTR:USTR Releases Annual Reports on China’s and Russia’s WTO Compliance

6.商務省:Secretary Ross Releases Steel and Aluminum 232 Reports in Coordination with White House

など、対中国を念頭に安全保障を名目にした保護主義の動きが活発になっており、米国国際貿易委員会でも中国からのステンレス管、アルミ、ポリエステル繊維、その他様々な物品が問題視されていれます。

既に年明け早々に太陽光パネルや洗濯機などが保護の対象になったことで動きが現実化してきていました。今後は中国への投資時における知的財産権の不当な要求などについて、徹底的な攻勢がかけられていくものと想定されます。

トランプ大統領がこの時期に鉄鋼とアルミの関税に踏み切った理由は、来週頭に11月の中間選挙を占うペンシルヴァニア州での下院補欠選挙が行われることが影響していると見ることが妥当です。現在、共和党・民主党の両候補者の支持率差は非常に拮抗しており、同選挙区に多く居住しているものと推測される鉄鋼産業従事者向けのPRの側面もあったものと推測されます。

現在米国内では軍事費増の予算取りを背景として、軍部を中心に反中機運が高まりつつあります。クシュナー上級顧問の最高機密へのアクセス権が制約された理由は、一部メディアによるとクシュナー上級顧問と中国との関係が指摘されています。軍人が重要な位置を占めているホワイトハウスの現状に鑑み、クシュナー上級顧問が連れてきたゲーリー・コーン氏の影響力が低下しているのも当然の流れと言えます。

一方、共和党は軍需産業を支持基盤としてきましたが、トランプ政権が推進する鉄鋼やアルミなどの関連産業も安全保障産業だとみなす思考方法には付いていけておらず、自由貿易を掲げる伝統的な立場からトランプの貿易戦争に反対している状況です。筆者は共和党議員らの伝統的な立場を支持しますが、オバマ時代にヘルスケア産業が民主党の支持基盤として蔓延ってしまった米国の産業動向を見ていると、中長期的にはそれらに対抗するために共和党の支持基盤が製造業を含めた軍需産業へと変質していく前兆と捉えることもできそうです。

いずれにせよ、米国の政治情勢が非常に興味深い状況となりつつあり、当方では今後も追加で情勢を分析していきます。


渡瀬 裕哉
渡瀬 裕哉

パシフィック・アライアンス総研所長
早稲田大学大学院公共経営研究科修了。トランプ大統領当選を世論調査・現地調査などを通じて的中させ、日系・外資系ファンド30社以上にトランプ政権の動向に関するポリティカルアナリシスを提供する国際情勢アナリストとして活躍。ワシントンD.Cで実施される完全非公開・招待制の全米共和党保守派のミーティングである水曜会出席者であり、テキサス州ダラスで行われた数万人規模の保守派集会FREEPACへの日本人唯一の来賓者。著書『トランプの黒幕 共和党保守派の正体』(祥伝社)は、Amazonカテゴリー「アメリカ」1位を獲得。主なメディア出演実績・テレビ朝日「ワイド!スクランブル」、雑誌「プレジデント」「ダイヤモンド」など。

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