クールジャパン最前線~開発途上国のエンタメ難民の光景~ ・第3回 決済インフラの抱える課題


Bazaar Entertainmentの大和田です。当社はスマートフォンが爆発的勢いで拡大する一方、通信や決済のインフラが立ち遅れている開発途上国でモバイルコンテンツを提供するBazaar Platformを提供しています。

東南アジアのゲーム市場

2013年頃の東南アジアのゲーム市場は、売上も少なく、ゲーム市場の暗黒大陸のように言われていました。しかし、私はそのようなことは無いと考え、1年かけて、ラオス・カンボジア・ミャンマー・ベトナム・タイ・マレーシア・フィリピン・インドネシアを歴訪、合計30都市にある主要な学校や駅前等で、ゲームのテキ屋を営みながら、市場調査を行いました。

結果、東南アジアのユーザーは、ゲームは好きだし、接触頻度の高い日本のコンテンツの知名度も高いことが分かりました。では、なぜ売上も少なく、課金単価が低いのか?本来は、日本との所得水準の差を考えても、課金単価が100分の1ということはあり得ないはずです。そこで、1プレイごとに10円、50円や100円などとゲームと相手を見ながら値段を変え、実際に現金での課金を試みました。

現金で回収するという課金モデルながら、1プレイで10円程度は払ってくれ、継続して3プレイ、5プレイと遊ぶ人もあり、中には毎日顔を出してお金を払ってくれるユーザーも存在しました。統計を取ってみたところ、一週間の全ユーザーの平均課金単価は50円程度、月間想定では200円程度ならゲームにお金を払ってくれるということが見えてきました。

なお、この10円という単価は国や都市により変えたのですが、誰もが気軽に払うトイレのチップの価格や現地で売られているコーラの4分の1~5分の1 (日本円なら20円~30円程度の金額感)の価格を目安として設定しました。

開発途上国の金融事情

ならば、なぜ、ゲーム市場の調査では、課金ユーザーのいない暗黒大陸のように言われていたのでしょうか。

いくつかの理由が見えてきました。テキ屋に来てくれるユーザーのうち、スマホユーザーに、なぜゲームにお金を払わないのかと聞いたところ、大半のユーザーが答えたのが「クレジットカードが無いから」ということでした。

世界銀行の統計を見ても、開発途上国のクレジットカードの平均保有率(15歳以上人口をベース)は3~5%です。日本の平均保有率は80%以上と言われていますので、大きなギャップがあります。先進国では当たり前のクレジットカードという決済インフラに依存したビジネスモデルの限界を垣間見た瞬間でした。

一部の国ではGooglePlayのプリペイドカードがコンビニ等で販売されています。しかし、コンビニでの最低販売価格が1,500円~2,000円と、開発途上国の若者にとっては高額な商品です。プリペイドカードの流通はコストがかかるため、このような値段にせざるを得ないのです。このような高価なプリペイドカードを購入できるのは、一部のお金持ちか、よっぽどのゲーム好きということになります。

この開発途上国の消費者のキャッシュフローが薄いのには、銀行口座の普及率、雇用形式が影響してると言われています。開発途上国での銀行口座の普及率は20%程度であり、そもそも銀行という最低限の金融インフラにアクセスできない人が80%もいるのです。

例えば、インドネシアでは一次産業、日雇いや自営業の割合が高く、80%以上の人が現金で収入を得ており、お金を貯めて高額な商品を買おうという状況にはありません。消費者のキャッシュフローが少ないため、ボトルでまとめて買った方が割安なのに、シャンプーや洗剤などの日用品は、少ない金額で購入できるよう小分けされて販売されています。

また、そもそもゲームのプリペイドカードを買うというのは、既に強いニーズがある商品か、常習性のあるゲームに対して有効な手段です。ちょっとこのゲーム買ってみようかなと思い立って、コンビニに移動し、そこで欲しいと思ったゲームの課金単価の20倍ものプリペイドカードを買うというのは、現実的ではありません。

課金については、携帯電話での決済、キャリア決済が可能なのではないかというご指摘もあるかもしれません。事実、各開発途上国の携帯電話会社が自前のアプリストアを立ち上げており、サードパーティのアプリストアがキャリア決済を提供していることもあります。

ただ、日本と開発途上国との間で大きく違うのは、携帯電話料金の支払い方式です。日本の場合、大半がポストペイド(後払い方式)ですが、開発途上国の場合、95%以上がプリペイド(前払い方式)です。これは、先ほどのクレジットカードや現金払いの人が多く、全国的な与信の仕組みを作れないことが原因と言われています。

しかもユーザーのキャッシュフローが薄いため、プリペイドといっても、多額の金額をチャージするのではなく、手元のキャッシュフローの許す範囲で、こまめに少額をチャージするという使われ方としています。

そのため、ゲームをキャリア決済で支払おうとしても残高が足りないという状況になることが多く、キャリア決済の課金成功率は高くないと聞いています。実際にビジネスの相手としてキャリアと組んだ際の様々な問題もよく耳にします。

金融事情のこれから

将来、開発途上国は、中国のようにオンライン決済が発展するのではないか、というご意見も聞くのですが、私は見解を異にします。20年以上前にチベットやタクラマカン砂漠の奥地を旅したことがあるのですが、どこでも目にかけたのは中国電信、中国郵政、そして、中国銀行です。現在の中国の先進的な金融インフラは、これまで共産党が威信をかけて中国全土に整備したインフラに依存しています。また、共産党の配給制度を背景とする月給制度が発達している中国とは異なり、月給制度の少ない開発途上国において急速に月給化が進み、全国的な与信ネットワークが構築されるには、相当の時間が必要なのではないでしょうか。

テキ屋活動を通じて、日本では当たり前の決済モデルが通用しない状況を目の当たりにしました。ユーザーのニーズは強く、少額であれば支払えるのに、開発途上国に最適化した課金・決済モデルが提供されていないがために、開発途上国のゲーム市場は暗黒大陸のように言われていたのです。

では、ユーザーの母集団は減るかもしれないが、何らか開発途上国に最適化された既存の決済モデルを提供すれば市場は獲得できるのでしょうか?さらに先進国の常識が通用しない世界が、開発途上国には広がっていました。


大和田健人
大和田健人

Bazaar Entertainment Ltd.グループ CEO
慶應義塾大学政策・メディア研究科修了。大学院在学中より株式会社ソニー・コンピュータエンタテインメントでゲーム開発に従事。PlayStationの中国事業立ち上げメンバーとして2003年から約10年に渡り中華圏に駐在。マーケティング担当者として中国100都市、1000店舗の海賊版業者を訪問し、実態解明と正常化のための取り組みを実施。また、法律で輸入販売が禁止されていたPlayStationの合法化に向けて中国政府と交渉を行い、2012年に販売許可を獲得した後、同社を退社。1年間の放浪の後、2014年に開発途上国へのコンテンツ提供プラットホームを提供するBazaar Entertainmentを起業する。現在はインドネシア共和国バンドン市在住。

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