選挙対策としてのティラーソン解任の意味合い



出典:Donald John Trump Twitter

ティラーソン国務長官が解任されて、マイク・ポンぺオCIA長官が後任に指名されました。大統領による異例のTwitterによる発表であり、同発表方式は国務長官の権威を損ねるものであったように思われます。当該交代劇の背景として、大統領及び国務長官の間でのイラン核合意及び北朝鮮交渉での意見の相違があったと伝えられています。

昨年末からティラーソン国務長官の更迭は取り沙汰されてきましたが、現在に至るまでその正式な人事発令は控えられてきました。一方、昨年末段階でのティラーソンに代わってポンぺオが国務長官になるという予測は、日本国内では北朝鮮との衝突に備えた人事と捉えられてきました。しかし、それらは昨年末や年明け直ぐには現実のものとはならず、北朝鮮との対話が正式決定した後に同人事が公表されることになりました。

トランプ大統領の意図を推測することは難しいものの、下記の状況変化が生じるものと思います。

イラン核合意見直しはほぼ確定的

トランプ大統領はイラン核合意見直しについて昨年言及したものの、連邦議会の反発も考慮して見直し決定を延期してきました。しかし、先月のCPACでは正副大統領が相次いでイラン核合意見直しに言及しました。ポンぺオは議員時代からイラン核合意に対して最も懐疑的な議員であり、核合意見直し表明に向けて事態が動き始めているものと予測されます。

対テロ戦争布陣の再強化

ポンぺオ氏の後任としてCIA長官になるジナ・ハスペルは、様々な問題を起こしつつも対テロ戦争における防諜活動に熱心であった人物であり、やはり中東への関心が比較的高い人物ではないかと推測されます。

北朝鮮との対話の前提としての圧力強化

ティラーソンと比べてポンぺオは北朝鮮に対する強硬派としても知られています。北朝鮮との対話決定後の人事変更であることを考慮すると、北朝鮮に対する強硬姿勢を原則として継続するというメッセージとして捉えるべきであり、北朝鮮に交渉に当たって甘い顔をしないという前提を作ったことになります。(ただし、ポンぺオ=半島有事という昨年末の構図については既に状況が変わったと捉えるべきであり、あくまでも対話のための強硬姿勢と認識すべきです。)

親ロシアからの反ロシアへの完全な政策転換

トランプ大統領は大統領就任当初は親ロシア的な政策を掲げていましたが、次々と親ロ派が更迭されてきました。今回のティラーソン氏の退任は親ロシア勢力がほぼ完全に政権内から消滅したことを意味しています。したがって、ロシアとの間で利害が衝突している中東地域での戦闘態勢の構築が大規模に進展するものと推測されます。今回の決定は下院情報委員会がトランプ陣営とロシアの共謀を否定したこととも同期しており、反ロシアでホワイトハウス・共和党が足並みを揃えた状況となっています。

ホワイトハウスからのリベラル派の追放

ゲーリー・コーン国会経済会議議長(辞任)が政権を去ったことで、主要閣僚内のリベラル派はムニューチン財務長官とティラーソンのみとなっていました。今後はムニューチン財務長官のみが残留することになり、クシュナー上級顧問の影響力が減退する中で、タカ派やナショナリストの影響が強まるものと予測されます。

筆者の見解では、共和党議員の中の主流派だけでなく、保守派の議員らもトランプ大統領とその支持者から距離を取りつつあります。そのため、トランプ大統領が重視している中間選挙の勝利に向けた議会共和党との連携が難しくなっています。

そこで、トランプ大統領は自身の影響力の下で11月の中間選挙を勝利することを意図し、世論調査上で低い評価しか得られていない外交政策の分野の手柄を立てることを必要としています。そのため、昨年までの国内政策(減税、オバマケア、最高裁判事人事、ネット中立性など)を重視する状況から一気に通商政策及び外交・安全保障政策などの対外政策で勝負に出る形となっています。

現状の手札の中で成果を比較的容易に上げることができる選択肢は、イランの核合意の見直し、そして駐イスラエル大使館のエルサレム移転でしょう。欧州、イラン、ロシアなどからは反発があると思いますが、米国の単独の決断で物事を動かすことが可能です。

しかし、それらを北朝鮮との対話の前に実施した場合、外交安全保障上の米国の関心事が中東に移ったことがバレてしまうために北朝鮮との交渉が不利になります。そこで、今年5月までに、つまりイラン核合意見直しの議会による次回報告時期よりも前に北朝鮮との交渉を行うことを望んでおり、時間がかかる慎重な事前協議を北朝鮮問題で要求していたティラーソン氏は邪魔になったということでしょう。

国内の権力基盤の確立ができていないトランプ政権の外交・安全保障政策は同国内の権力闘争・選挙情勢と密接に絡んでおり、外交・安全保障政策のみを独立した変数として捉えるだけでは本質を捉えることは困難です。

 


渡瀬 裕哉
渡瀬 裕哉

パシフィック・アライアンス総研所長
早稲田大学大学院公共経営研究科修了。トランプ大統領当選を世論調査・現地調査などを通じて的中させ、日系・外資系ファンド30社以上にトランプ政権の動向に関するポリティカルアナリシスを提供する国際情勢アナリストとして活躍。ワシントンD.Cで実施される完全非公開・招待制の全米共和党保守派のミーティングである水曜会出席者であり、テキサス州ダラスで行われた数万人規模の保守派集会FREEPACへの日本人唯一の来賓者。著書『トランプの黒幕 共和党保守派の正体』(祥伝社)は、Amazonカテゴリー「アメリカ」1位を獲得。主なメディア出演実績・テレビ朝日「ワイド!スクランブル」、雑誌「プレジデント」「ダイヤモンド」など。

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