「公文書管理すら出来ない国の外交」はあり得ない


引用:ジョージ・オーウェル『1984』真理省

民主主義国と独裁制国家の違いは沢山あります。そして、その大きな違いの1つが公文書の信頼性です。

独裁制国家の場合、公文書の修正を時の権力者が自由に行うことができます。

小説『1984』に登場する真理省のように過去に行われた行為に関する記録の改ざんを行い続けて自らも真実が何か分からなくなるというのは比喩ではなく現実に起こりうることです。(写真はひたすら過去の歴史記録を改ざんして辻褄合わせをしている真理省の様子)

今回の財務省による組織的な公文書改ざんは、他省庁などの行政機関の縦割り構造の問題によって確認されたわけですが、むしろ逆に1つの省庁内・部局内だけで完結する内容であれば幾らでも改ざん作業を行うことが出来ることが別の意味で証明されました。

国会で資料があっても存在しないと答弁し、たとえ仮に存在が発覚したとしても改ざんすれば良いという姿勢は、国権の最高機関である立法府=国会を愚弄しています。そして、このことは外交・安全保障に関しても深刻な問題をもたらすことになります。

私たちの日本人の多くは北朝鮮が自らに都合がよい何らかの過去の経緯に関する外交文書などを提示したとしても信じないでしょう。それは北朝鮮が独裁国家であり、支配者の一存で幾らでも公文書が捏造できる国だからです。

多国間交渉の基本は「力」と「信頼」です。非民主主義国の場合は「力の行使」に依存する傾向が強く、民主主義国の場合は「力」と「信頼」の両輪、小国の場合は「信頼」を基盤とした外交を展開します。

日本の場合は、自らの我を通したい場合、憲法によって軍事力の行使が著しく制限されており、基本的な資源を海外貿易に依存しているために経済制裁の実施なども控え目にならざるを得ません。したがって、日本に必要なものは「諸外国からの信頼」になるわけです。

しかし、その日本で公文書を国民に対して偽造・報告できる国と看做された場合、日本の外交文書に対する信頼性も著しく下がることになります。たとえば、本件が更なる広がりを見せれば、慰安婦問題などの歴史資料に関する日本側資料の信頼性が欠損することになってしまい、不利な立場に置かれる可能性すらあるのです。

したがって、日本という国の特殊性を考えた場合、民主主義国が有する国際的な信頼性を維持することは非常に重要なことなのです。公文書管理の基本である国会答弁すら虚偽塗れの政権には国家を代表する外交を行う資格はありません。

もちろん外交・安全保障に関する文書は直ぐには表に出せないものもあるかと思いますが、一定期間経過後に情報開示することは米国でも普通に行われています。日本の公文書管理法は米国の公文書管理の在り方を模範に作成したものであり、歴史資料として公文書を残すことを意図したものでもあります。

現在、与党、野党、メディアの議論は公文書改ざんの犯人捜しの様相を呈していますが、そのような政局上のゴタゴタよりも遥かに重大な問題が発生しているのです。公文書改ざんの犯人は当然に刑務所に入れるとして、本来行うべき議論は「公文書管理の信頼性」を担保するための基本的な仕組みに関するものでしょう。

国会で何らかの答弁を求められて、局長クラスの官僚が情報開示や答弁のラインを考えて資料の是非や記載内容を回答する慣行(≒茶番)は既に時代遅れであるとともに、国民からの信頼だけでなく大きな視点に立てば海外諸国からの日本への信頼を損ねるものだと考えます。

具体的な処方箋として、ブロックチェーンの仕組みなどを利用し、何の書類を誰がいつ作成・変更したのか、が一目瞭然となる体制を構築し、国会議員が参照しながら資料提出を要求できることが肝心です。役所側国会議員に資料を出すか・資料の有無について何と答弁するかを判断するなどナンセンスです。

「今」の時代に苦し紛れに行っている公文書の改ざん行為で「未来」の人々から見た資料価値を落とすことを許容する人々は、保守でも愛国者でも民主主義者でもありません。日本政府は自らが民主主義国の政府であることを自覚し、再発防止のための抜本的な仕組みを導入するべきでしょう。

 


渡瀬 裕哉
渡瀬 裕哉

パシフィック・アライアンス総研所長
早稲田大学大学院公共経営研究科修了。トランプ大統領当選を世論調査・現地調査などを通じて的中させ、日系・外資系ファンド30社以上にトランプ政権の動向に関するポリティカルアナリシスを提供する国際情勢アナリストとして活躍。ワシントンD.Cで実施される完全非公開・招待制の全米共和党保守派のミーティングである水曜会出席者であり、テキサス州ダラスで行われた数万人規模の保守派集会FREEPACへの日本人唯一の来賓者。著書『トランプの黒幕 共和党保守派の正体』(祥伝社)は、Amazonカテゴリー「アメリカ」1位を獲得。主なメディア出演実績・テレビ朝日「ワイド!スクランブル」、雑誌「プレジデント」「ダイヤモンド」など。

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