東京大改革の今・第6回 ジャックナイフでは外郭団体は改革できない


既得権益に対してジャックナイフで鋭く切り刻む改革

こうした改革を期待し、望むのが、多くの人の「改革」イメージというものだろう。過剰においしい思いをしている人たちから権益を奪うべき、適正にすべきという主張であり、一見、正義感溢れるまっとうな主張ともいえる。

しかし、既得権益打破!という批判は、権力闘争という意味で、同じ穴のムジナである。税金獲得競争において、既得権益の分を削って、それを俺たちに私たちに回せ!よこせ!と言っているようにも解釈できる、その主張は、彼ら・彼女らの言う「既得権益」側と同じ土俵に立ってしまっているという時点であまり進歩はない。支持は広がらないだろうし、正統性も疑問だ。

既得権益を打破して、それがいったい何になるのか、既得権益が本当に存在するのか、どれがどれくらいなのか、それが本当に悪いといえるのか・・・という思考をしていないという意味で、「思考停止しています」と告白するようなものだ。なので筆者は心情的にひいてしまうし、多くの人もそうだろう。「既得権益打破」、そうしたシュプレヒコールをする自分に酔ったり、本気で主張する団体の方々はたいがい政治が持っている権力をいかに自分の利益団体に引き込むことしか考えていない。切り込む先の既得権益がどういう意味で「権益」なのか、その理由や問題点をわかりやすく説明してはくれない。

ジャックナイフでの改革が必要なのは、財政的に破綻しそうなとき、末期症状の寸前の状態である。つまり、「手術」が必要なときである。行政経営コンサルタントであった筆者が診断するに、現在は、自身の健康状況をまず理解し、それを踏まえた内発的な取り組みが必要な段階である。「手術」が必要な切羽詰まった状況ではない。

そもそもこうした状況でジャックナイフを振り回したら、血が飛び散り、誰かが傷を負い、継続してきた基盤に影響を与え、将来に禍根を残す可能性もある。ジャックナイフ改革に人は一時的に感情的な留飲を下げることはできても、関心を継続的には持ち続けないものである。

監理団体の「仕組み改革」

今回は東京都の監理団体改革に踏み込みたい。監理団体とは、耳慣れない言葉だが、簡単に言うと外郭団体のようなものである。定義は以下のようになる。

監理団体:都が基本財産に出資等を行っている団体及び継続的な財政支出、人的支援等を 行っている団体のうち、全庁的に指導監督を行う必要がある団体

具体的な団体としてどういったものがあるかというと
(公財)東京都人権啓発センター
(公財)東京都スポーツ文化事業団
(公財)東京都交響楽団
(公財)東京観光財団
東京都住宅供給公社
(株)東京国際フォーラム
多摩都市モノレール(株)
(株)東京スタジアム
などである。あわせて33団体。

都庁との関係性としては、総務局が全庁的指導内容を示し、それを踏まえて、所管局が指導監督を実施している。具体的には、運営状況、組織・役職員数、役員報酬、人事等に関する指導をしたり、経営目標評価、役員業績評価、情報公開やセキュリティなどの指導を行っている。

さて、今回の都民ファーストな改革で何が行われたのか。

29年度は、監理団体は、自らの団体の使命の確認、主要事業の経営状況の分析など自己点検を行ってきた。所管局は、団体へのヒアリングを実施し、存在意義の確認、役割分担の整理など団体評価を実施した。総務局は、経営目標評価制度を見直した(外部有識者の意見聴取の仕組み導入)。

問題意識からの出発

特別顧問が示した問題認識が「監理団体改革の検討状況について」にて示されているのであるが、これらが興味深い。主なものは以下の通り、

◇「成長戦略」が描けないなら株式会社である意味はない(法人税分の価値を毀損)
◇事業の経営単位が大きすぎて実態が見えない(会計、組織、情報公開)
◇理事会が形骸化しているのではないか
◇局全体の「官・民・団」の役割分担のあり方を見直すべき
◇恵まれた契約条件(特命随契等)
◇各団体の役員人事が都庁OBの役職の指定席化?
◇役員と幹部のほとんどが局のOB・現役派遣
◇役員や専門スキルを要するポスト(営業、財務、IT等)は、プロパーの登用や民間とOBの両方について
◇公募制を検討すべき
◇全体に都庁職員の派遣がかなり多い

これらが都政改革本部によるヒアリングの結果である。個人的にも同感である。所管局、団体・団体職員側は外部の人から色々な質問を受け、多くのことを考えることもあったかと思う。それなりに「気づき」を得たことだろう。

粛々と進められていく

なかでも、統括する総務局は改革の実施方針を策定した。その実施方針のポイントは
◇役割の再整理
◇在り方の見直し
である。そもそも何のためにあるのか、根本から見直すということだ。これは大変意義深い。単なるコストカットや人員整理ではない、「そもそも論」からの出発であるということだ。何のための組織か、その意味を問いなおし、再定義するというのは、組織ではなかなかできることではない。忙しい業務に追われているとそういった原点を見失いがちである。特に行政組織の場合はその傾向が強い。じっくり自己点検をさせて、自分たちで考えていくということ。

この方針の詳細を見てみよう。監理団体、所管局、総務局とそれぞれのレベルで以下図1のような取組を進めていく方向だ。

【図1】

(出典)平成30年1月31日 都政改革本部会議(第14回)資料

なぜこうしたやり方をやるのか。筆者が思うに、上山信一氏が発言したように「わりと本庁と比べてのんびりしている」組織にとって、外部からの改革はあまりに弊害が大きいのだろう。外部から目標を押し付けられて、素直に目標達成に邁進・行動できる組織でもなさそうだ。逆に、焦って混乱してしまうかもしれない。内部でじっくり話し合い、考えて、少し行動し、また考え、軌道修正・・・・する。少しづつ進めていくことがサービス向上につながるものなのだろう。

各団体は、30年度から自律改革プランに従って改革を進めていくことになる。
特に
◇経営目標評価制度
◇経営改革プランその進捗管理
◇団体役員人事に公募含め外部人材の活用
などが特徴的である。いきなり公募を実施するのではなく、「公募の試行実施」というのもなかなか分かってるという感じだ。行政経営の改革改善の中で大事なのは、この「試行」であるのだから。

そして、団体を所管する所管局は、在り方の見直しなどを整理し、「監理団体活用戦略」を策定する。さらに、特命随意契約(競争入札を行わず、特定業者を指定して締結する契約)の契約内容の点検を30年度に実施していく。

統括する総務局は、「32年度までに監理団体の常勤役員に占める関係者割合を2割削減」を目標として取り組む。具体的な手段として、各団体の役員ポスト数の再設定、監事・監査役への専門的人材の登用の原則義務化、公募を含めた民間人材・固有職員等の活用、監理団体向け公募実施ガイドラインの策定、都OBを段階的に削減・再任用職員や現役職員の派遣・出向にシフトを進めるなどに取り組む。

経営課題

こうした監理団体改革に対して、「具体的な目に見える成果は?」「漠然としすぎてはないか」「遅いし、成果が出ていない」「一律にズバッと改革できていない」という批判もあるだろう。天下り人数削減、無駄遣いカット・何%削減、人員整理・・・という短期的な目に見える改革を求める声も多いだろう。

しかし、団体は多種多様、業務範囲は広範囲に及ぶ。一律にはできない。それぞれの団体には様々な事情や状況がある。都の部局との関係や役割も様々。そんな簡単ではない。問題が自覚されてなく、課題が理解できない段階で改革を押し付けても、的外れな方向にいってしまうのがおちだ。

その意味で、都政改革本部の議論でもあったが、サービスの成果を出すためにどうするか、どう機能させるかという視点が今回強調されたことは意義深い。

これまで、国の外郭団体が「在り方」を検討しなおすということはあっただろうか。聞いたことはあっただろうか。その意味で、東京都の管理団体改革の意義が理解できるだろう。


西村健
西村健

人材育成コンサルタント、オムニメディア代表、NPO法人日本公共利益研究所(JIPII:ジピー)代表、一般社団法人日本経営協会講師、未来学者。
慶應義塾大学院修了後、アクセンチュア入社。 その後、日本能率協会コンサルティングで経営・業務改革、人材育成、能力開発を支援してきた。独立後、人事評価制度構築・運用、キャリアカウンセリングなどのコンサルタントとして活動中。最近はプレゼンテーション向上、モチベーション施策などに注力。

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