いよいよ民泊営業の届出開始、注目すべき都市民泊


本年3月15日より民泊(住宅宿泊事業)を営む届け出の受付が始まりました。今、世界の都市でスタンダードな宿泊スタイルになりつつある「民泊」ですが、民泊は都市の未来に一体何をもたらすのでしょうか。

観光庁が本年1月に公表した観光統計「訪日外国人消費動向調査」によると、平成29年の訪日外国人旅行者数は2869万人、消費額は4兆4,161億円で、年間値の過去最高となりました。この数字からも日本経済に対して「インバウンド」が持つ影響の大きさをはかり知ることができます。政府は平成28年3月に「明日の日本を支える観光ビジョン」を策定し、その中で訪日外国人旅行者数を2020年に4000万人まで増やすことを目標としています。これに伴い国内宿泊施設の不足が懸念されており、その解消の一助となると考えられているのが民泊です。

昨年11月15日に観光庁が公表した「平成29年7-9月期 訪日外国人旅行者の宿泊施設利用動向」によると、日本滞在中の宿泊施設利用率の割合は「ホテル」が75.1%で最も多く、次いで「旅館」が18.2%、驚くのは「有償での住宅宿泊(※民泊)」が12.4%と高水準であったことです。合法・違法の別は問わず、民泊がここまで増えた背景には、その高い収益性にあると言えます。例えば一般的な賃貸相場で月額10万円の家賃で募集されている住宅があるとします。その住宅を2ベッド(常時2人宿泊)で民泊事業を営む場合で、1人当たり1泊の宿泊料を5,000円とし、1か月のうち20日間貸し出したとすると、月の収入は20万円となり通常賃料の倍の収入を得ることができます。ベッド数を増やし宿泊者数を増やせばさらにその収入が増えることになります。(※ここでは貸し出しに掛かる諸経費は考慮しないものとします)

今後、民泊新法が施行され合法的に民泊事業を行う場合、その営業日数は年間で180日を超えることができません。上記の例を基にその収入を計算してみましょう。「180日×5000円×2人」とすると、180万円が年間収入となります。ベッド数を増やすことが可能ならさらにその年間収入を増加させることができます。つまり民泊事業の営業日数が180日に制限されても上記のケースに当てはまるような場合、一般的に賃貸住宅として貸し出すよりも収益を増やすことができるのです。もちろん180日の営業可能日数すべてに宿泊利用者が確保されるわけではありませんが、今叫ばれているように将来に渡り宿泊施設が不足していくようなら、好立地で低額な民泊施設は自ずと営業上限日数に限りなく近い需要が見込まれると思われます。その結果、インカムゲインを目的として住宅を所有している投資家や事業者はこれまでのような一般的な賃貸住宅としての活用だけでなく、高い収益性が見込まれる民泊への転用を検討する場合が増えることが十分に想定されます。特に利便性の高い立地にある「都市の住宅」は民泊事業で収益を上げるには最も適した住宅であると言えます。

マンション等の管理規約や各自治体の条例による規制などにより、すべての住宅が民泊に転用できるわけではありませんが、世界の民泊事情を見ると、各都市が民泊に様々な規制をかけても違法な民泊施設が後を絶たない現実が見えてきます。以下はニューヨーク州の民泊規制と問題点の事例です。
引用:観光庁・第4回「民泊サービス」のあり方に関する検討会

規制について
ニューヨーク州では2010年に州法が改正され、居住を目的とした共同住宅では、連続30日以上の居住が求められることとなり、3戸以上の共同住宅では居住者が不在の場合に、30日未満の短期滞在は違法となった。上記の共同住宅以外の建築物であっても、市条例により、許可なしに使用用途の変更はできず、短期滞在は違法となる。

問題点について
2013年州司法長官がAirbnbに対し全貸主の個人情報提出命令。訴訟となり、個人を特定しない情報提供で和解。その後、州調査で登録物件の7割が違法と判明。不法賃貸に対する市当局の取り締まりが積極化している。(摘発件数:2014年1月~4月 310件→2015年同期568件に増加)

このようにニューヨーク州では厳しい規制の下においても、Airbnbに登録された7割の物件が違法であるという現状が生まれているのです。これは今後の日本においても十分想定出来る事態です。

シェアリング・エコノミーの典型例と言われる民泊の登場によって、既存の旅館業や不動産賃貸業が変化していくことは日本のみならず世界の潮流なのかもしれません。特に「空き家」が社会問題化し、今後もその増加が懸念されている日本において、民泊が空き家の解消にも寄与するだろうという声も少なくありません。しかし、都市の空き家の種類のうち、その多くは「賃貸用住宅の空き家」です。生活の拠点となるべき長期居住用の住宅が短期滞在型の民泊施設へ数多く転用されれば、長期にわたり都市に住まう人、若しくは都市に住みたい人の「住まい」の選択肢を減らすことになるかもしれません。

世界の各都市が民泊に対する規制と課題に手探りで取り組む中、本年6月15日に施行される「住宅宿泊事業法」がどのように機能していくのか、しばらくはその動向に国内外から注目が集まることになりそうです。


高幡 和也


1969年生まれ。28年に渡り不動産業に服務し各種企業の事業用地売買や未利用地の有効活用、個人用住宅地のデベロップメントなど幅広い数多くの業務を担当。不動産取引の専門士としての視点で、人口減少時代において派生する土地・住宅問題に対して様々な論考と提言を発信。

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