新しいものづくりがつくる産業の未来・第6回 「日本うんこ学会」会長・石井洋介先生インタビュー


連載「新しいものづくりがつくる産業の未来」、第6回目となる今回は、医師であり「日本うんこ学会」会長の石井洋介先生にお話をお伺いしました。石井先生は、課金の代わりにうんこを報告するゲーム「うんコレ」の運営や、便の検査分析を行うシンギュラリティトイレ「GAIA(ガイア)※仮称」の開発にも取り組まれています。そして今年2月24日に開催されたデジコレ8(デジタルハリウッド大学大学院 2017年度成果発表会 デジコレ8)に登壇され、オーディエンス賞とMVPをW受賞を果たしました。

うんコレ
http://unkore.jp/

日本うんこ学会
http://unkogakkai.jp/

川島
本日はよろしくお願いします。
はじめに、石井先生の現在のご活動について教えてください。

石井
肩書きは「流浪医」を名乗っています。平日のうち3日は在宅医療、残りの2日は病院の外来と病院の経営コンサルティングを行っています。昨年までは厚労省で政策にも携わっていました。医療には大きく「臨床」と「経営」と「政策」の3つのレイヤーがありそれぞれの文脈を理解することが重要であると言われています。しかし、実際はその3層全てをしっかりと経験し理解している人間は少ないため、自分はそうなりたいという思いがあり現在の流浪活動に繋がっています。
そして、週末は「うんコレ」とシンギュラリティトイレ「GAIA」等の製作に注力しています。「うんコレ」は、課金の代わりにうんこを報告するソーシャルゲームで、擬人化した腸内細菌の萌えキャラが登場し、遊びながら楽しく医療情報に触れるゲームになっています。「GAIA」はトイレに行くだけで便の検査分析を行ってくれるセンサーで、様々な病気のリスクを予測して知らせてくれるプロダクトです。

川島
医師としてのお仕事をされながら、新しいプロダクトの開発にも取り組まれているんですね。なぜこのような活動をされるようになったのでしょうか。

石井
先ほどお話しした3層のレイヤーの話はこれまでの医療界の話で、これから更に高齢化が進む日本で、社会保障費をはじめ医療資源は有限でを感じているのが現状です。現状の資源を最大限有効活用する一方で、まず労働集約的な産業構造を脱却するために、医療界にイノベーションを起こさなくてはならないと思いました。そんな時に、他の産業を見渡してみると、テクノロジーを使って労働集約から解放されている事例が多くある事に気が付きました。「テクノロジー×医療」でより効率的に医療が提供されることで、社会保障費を抑えられるのではないかと考えたことが、現在の活動の契機になっていますね。

川島
なるほど。「うんコレ」は可愛いキャラクターが印象的です。病気や症状について様々な伝え方があったかと思いますが、なぜゲームというかたちになったのですか。

石井
まず、「うんコレ」の始まりは、大腸癌を主に扱う消化器外科医をやっていた時に多くの末期の患者さんに直面したことでした。大腸癌はSilent killerと呼ばれ、なかなか早期に発見する事が出来ません。出来るだけ早めに大腸癌の症状に気づいてもらうには、どうすれば良いかと考えた時に、たまたまSNSで「うんこ」がバズワードである事を知りました。大腸癌の症状はうんこから出るので、これを使ってバズコンテンツを作ることを思いついたのです。そして仲間とブレストしながら色々ないアイデアを考えて行く中で、擬人化ゲーム「うんコレ」としてコンテンツ制作を行うことにしました。

川島
実際にゲームを公開されて、反応はいかがでしたか。

石井
最初、半年かけてポスターと簡単なモックを制作してインディーズのゲーム展示会に出しました。その際に、あるメディアが記事を書いて取り上げてくださったのですが、それがいきなり拡散されまして、ありがたいことにアングラから一撃で認知していただくことができました。
今まで、SNSではフェイクニュースが拡散されることが少なくなかったのですが、私たちのコンテンツは、一見ふざけているようで実はすごく真面目な内容である事を売りにしています。コンテンツもフックの部分で勝負していますが、従来とは全く異なるセグメントへ伝えることが出来ていると感じることができました。

 

川島
そして「うんコレ」に続き、最近は「GAIA」というプロダクトの開発も手がけられているんですね。

石井
「うんコレ」は、課金の代わりに毎日自分のうんこを報告をするコンテンツで、異常が見られる場合にはアラートが出る仕組みになっているのですが、そもそも便をした瞬間に健康状態を判断してくれて、トイレに装着できるようなIoTデバイスを作れないかと考えていました。そんな時に、農学部で豚の健康を見るために赤外線をお尻に当てる技術を持っている教授と知り合いまして、赤外線の技術を便にも応用できないかと思いました。結果、お互いの知らなかった知識が様々に融合しあって、「GAIA」の開発開始に至りました。

 


(GAIA プロトタイプ)

川島
便を赤外線で認識しているということですか。

石井
そうですね。赤外線の特殊技術と画像解析で判断しています。現在はデジタルハリウッド大学のトイレ内にプロトタイプを設置し実証実験中です。約50の検体が集まったのですが、一般的な便潜血検査と同じ精度で判定出来ており、結構いい結果が出ています。

今後ですが、日本で医療機器として発売するとなると診療報酬が取れないとビジネスとして成立しないのが現状で、ハイエンドな製品にするのか、医療機器ではなく、体温計のように誰にでも持てる安価なものを作るのか、その意思決定をする必要があると考えています。

川島
ちなみに、このようなプロダクトの開発をされるにあたって、ご専門の医療以外のことはどのように学ばれたのですか。

石井
大学時代に映像を作っていたこともあり、Adobeのソフトを触ったりするのは好きだったのですが、OJTで身に付けてきたため、改めてクリエイティブやテクノロジー、エンターテイメントを体系立てて学びたいと思いデジタルハリウッド大学院に通うことにしました。
大学院ではコミュニケーションデザインというものに出会えたことが良い経験でした。これまで医療は面白く伝えることができないものだと思っていましたが、コミュニケーションの歴史を学んで、文脈を理解すればもっと面白く伝えることができるかもしれないと思いました。コミュニケーションのタッチポイントが変わるだけで伝わり方が全然変わるということが分かり、テクノロジーに加えてコミュニケーションデザインは自分の中の大きな研究テーマにもなりました。

ちなみに、医学の歴史は長いですが、エビデンスベースドになってきたのはここ数十年くらいの話です。オールドファッションな産業だから変えられないと思い込まず、仮説を持って新しいことに挑戦し、まだまだ変わる余地があるという希望を持つことが大切だと思っています。GAIAやうんコレのようなコンテンツが薬の代わりに処方されるような未来がきたら、面白いと思いませんか。

川島
ぜひ、石井先生にはそんな未来を作っていただきたいです。これまでの取り組みを伺わせていただき、コミュニケーションデザインによって私たちの医療の捉え方、関わり方が大きく変わっていきそうな予感がしますね。
最後に、今後の展望について教えてください。

石井
コンテンツやデバイスを開発してきて感じたのは、発信した情報が伝わった後に患者さんがどうなったのか分からないことです。患者さんがもし不安を覚えた時に、完全に引き取ってあげるのは結局医師なんだな思いました。医療へのアクセスのポイントを変えて色々と挑戦してきたのですが、今は一周回って、病院を作りたいと思っています。コミュニケーションデザインやテクノロジーのエッジが効いた、誰かの居場所として機能する地域包括ケアの中核になるような病院作りをしてみたいと思っています。誰か病院下さい(笑)

川島
石井先生、本日は貴重なお話をありがとうございました。

石井
ありがとうございました。


川島京子
川島京子


1989年東京都生まれ。デジタルハリウッド大学院メディアサイエンス研究所リサーチアソシエイト。Creative Smash株式会社代表取締役。2008年、明治大学在学中に インターネット上の仮想世界「Second Life」にて音楽ユニットをプロデュースし、企業とタイアップしたバーチャルイベントを実施。メジャー音楽レーベルに勤務を経て、24歳で独立。国内最大級の3Dプリンタメディア等ものづくりやクリエイティブに関わる事業を展開。

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