日本に先行する「インドのキャッシュレス」社会


■インドデジタル決済市場の現状

クレディ・スイスのレポートによると、インドのデジタル決済市場の規模は、2018年の2000億ドルから2023年までに1兆ドルまで成長すると予測されています。うちモバイル経由の決済は100億ドル程度です。同程度の人口規模の中国は2017年の時点で既にモバイル決済で5兆5000億ドルの規模を有するとされており、それと比較すると今後爆発的な成長余地があることが容易に予想できます。

インドではまだまだ現金取引が主流で、決済金額ベースで9割、決済取引ベースで7割が現金決済となっています。この数値は世界的に現金決済比率が高いと言われる日本と比較しても非常に高い数値ですが、スマートフォンの普及、デジタル決済に抵抗のない若年層の多さなどを背景に今後も順調にデジタル決済へ移行していくと考えられます。

■デジタル決済市場のプレイヤー

伝統的な決済手段であるビザ、マスターなどの各種国際クレジットカード会社が、クレジットカード、デビットカードなどを発行していますが、ここ数年はモバイル決済を中心に新たなプレイヤーが台頭しています。ここでは代表的なプレイヤーの何社かをご紹介します。

1. Paytm
ソフトバンクが出資していることで日本でも有名な、インド最大のモバイル決済プラットフォームです。ウォレットアプリでは、あらゆる公共料金(携帯、ガス、電気等)の支払いを一括して行えるだけでなく、航空券やタクシーの手配も可能になっており非常に利便性の高いアプリです。また、ウォレットアプリをダウンロードしているユーザー間での送金や、QRコードを活用した店舗の決済などにも活用でき、インドの都市部では手放すことのできないアプリの一つと言っても過言ではありません。Uberなどのシェアライドの決済にも利用できます。2016年にインドで高額紙幣を廃止する政策が発表された際には、市中で紙幣が枯渇し、本アプリが非常に力を発揮しました。


※写真は、街中のキオスクで利用されているPaytmのQRコード決済

2. WhatsApp(フェイスブック)
インド人の中で圧倒的な普及率を誇るメッセンジャーアプリWhatsApp。インドのスマートフォンユーザーの9割以上が使用しているとも言われるWhatsAppにモバイル決済機能が搭載されました。WhatsAppはインド政府が推進するデジタル決済プラットフォームUPIに接続する形でそのサービスを提供しようとしています。UPIの詳細については後ほどご紹介します。
3. Tez(グーグル)
グーグルが2017年に発表したインド発の決済アプリ。他のアプリと同様にユーザー間での代金決済や支払いが可能となっています。既に1200万ユーザーを獲得したとも言われていますが、後発でどこまで普及するのかは不透明です。

■インド政府が推進するデジタル決済プラットフォーム

統合決済インターフェース(Unified Payment Interface – UPI)と呼ばれる、モバイル決済に特化した決済プラットフォームがインド決済公社(National Payment Corporation of India – NPCI)によって開発されています。UPIは、インド準備銀行(RBI)を中心として普及が図られています。上述のWhatsAppなどはUPIに接続しユーザーに決済サービスを提供しています。NPCIはインド準備銀行と主要銀行のコンソーシアムとして形成されているため、その他の決済規格も開発されています。

今後モバイル決済に導入されていくことが予想されるのは、Bharat QR(バーラットQR)と呼ばれるQRコード決済の統一規格です。現在Paytm、MobiKwikなどはQRコードをスキャンしてウォレットで決済させる機能を実装していますが、店舗側では複数のアプリに対応するとその数だけQRコードの表示を増やさなければならないデメリットがあります。QRコードの統一規格を普及させ、各社がその規格を使用することにより、あくまでもQRコードの表示は単一にしようという動きです。

■インド政府の主導するキャッシュレス政策

インドは、2016年の高額紙幣廃止を契機に、キャッシュレス経済を目指して各種政策を発表しています。キャッシュレス経済は、民間の経済活動を活性化するだけでなく、インド政府が抱える、ブラックマネーの撲滅、偽札対策、課税ベースの拡大などの各種課題にも対応できる実利の大きい政策の一つです。また、広大な国土に紙幣を流通させるにはATMなどへの設備投資も必要となり、銀行に負担がかかります。インド準備銀行では、現金の流通量を削減するために3つの対策を掲げています。

1. B2Cのモバイル決済インターフェースとしての普及
2. 料金所での電子決済導入
3. 公共交通機関での電子決済導入

地方都市や農村部ではまだまだATMの普及率も低く、移動ATMなどもあるほどです。また、銀行口座を持っていないインド人はいても、携帯電話を持っていないインド人はいません。そんな状況を鑑みると、eコマースの発展とともにモバイル決済を中心としたデジタル決済経済へ発展していくことは必然と言えます。

しかしながら、現状各種ウォレットにはインド準備銀行が月間・年間の決済上限を設けており、これらの規制が緩和されない限り、インドのデジタル決済市場は中国ほど爆発的に伸びることは難しいでしょう。


鈴木慎太郎
鈴木慎太郎


米国公認会計士。SGC(スズキグローバルコンサルティング)代表。2010年5月よりニューデリー(インド)在住。40社以上のインド拠点設立、100社以上のインド・会計税務にかかるコンサルティングに従事。2016年よりスズキグローバルコンサルティングを設立し独立。日本企業向けにワンストップでインドの拠点設立・会計・税務・法務をカバーする総合コンサルティング事務所を経営。 URL: https://www.suzuki-gc.com

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