クールジャパン最前線~開発途上国のエンタメ難民の光景~ ・第4回 通信インフラの課題


Bazaar Entertainmentの大和田です。当社はスマートフォンが爆発的勢いで拡大する一方、通信や決済のインフラが立ち遅れている開発途上国でモバイルコンテンツを提供するBazaar Platformを提供しています。

2013年に行ったASEAN30都市でのテキ屋活動を通じて、開発途上国のユーザーにはゲームに対する強いニーズがあり、少額であればゲームに対してお金を払うことが分かりました。ユーザー獲得に際して対象となるユーザーの母集団は減ってしまいますが、現地の決済モデルを使えば良いのではないかと考えるのですが、そうは上手く行きません。それだけならば、既にキャリアストアやキャリア決済に対応した第三者ストアが大成功しているはずです。しかし、成功した現地のキャリアストアや第三者ストアは見つかりません。その理由を探ると、開発途上国の劣悪な通信事情があったのです。

開発途上国の通信事情

開発途上国でも最近では4G回線が増えてきていますが、未だに多くのユーザーは3G回線を使っています。日本では20秒弱でダウンロードが完了する50MBのゲームは、3G回線を通じてダウンロードするには平均で5分ほどの時間がかかります。夜のピークタイムでは10分以上かかることもあります。また、バックボーンの整備も進んでいないため、雨が降り利用者が殺到すると、通信できなくなることも度々発生します。そのため、Google Playからゲームを配信しても80%近くのユーザーがインストールに辿り着くことができません。国際通信連合は世界の40億人が未だにナローバンドの通信を使わざるを得ない状況と報告しています。

また、比較的高速な無料のWifiスポットもあるのですが、「ゲーム欲しいな」と思った時にダウンロードするためだけにWifiのある喫茶店に移動してダウンロードする、というのは現実的ではなく、多くのゲームが売り時を逃している状態です。さらに通信速度に加えて大きな問題が通信料金です。国際通信連合は先進国と開発途上国との間で通信料金は20倍以上の価格差があると報告しています。

開発途上国のユーザーはプリペイドカードを使って携帯電話代金を支払っており、使い放題というような料金パッケージは存在していません。インドネシアを例にあげると、キャッシュフローの薄い学生がよく購入するデータ通信パッケージでは、300MBのデータ利用で200円、1GBのデータ利用で500円ほどです。例えば2本のアプリをダウンロードすると、パッケージによっては50円~60円のコストが発生します。

では、この日本円での50~60円が現地ではどのような金銭価値なのか、というのが問題です。インドネシアで50~60円あると、コーラが1本買え、インスタントラーメンが1袋買えます。インドネシアの50~60円は日本の感覚で150円くらいに相当するのではないでしょうか。CMで「無料ダウンロード!」と言っても、開発途上国のユーザーは「じゃあ通信料はいくらかかるのよ」と冷静に計算しているのです。ユーザーのスマホを見せてもらうと、多くのユーザーがデータ通信をOFFにしています。バックグラウンドで通信をされて、無駄にパケットを使われたくないのです。

このように通信料金が高額だと、面白いかどうか分からないゲームをダウンロードするより、コーラやラーメンを優先してしまうでしょうし、5分以上のダウンロード待ちに耐えられるだけの好奇心を持っているユーザーは稀なのです。このように開発途上国では通信速度と通信料金が課題のため、不正な方法で入手したゲームのファイルをPCに入れ、ユーザーのスマホに転送するという、モバイルゲームに特化した海賊盤ショップをみかけます。

また、ユーザーのスマホを見せてもらうと、一部のゲーム好きを除いてスマホのアプリのインストール数が少ないことに驚かされます。ほぼ初期出荷状態で、SNSとコミュニケーション系のアプリが入っている程度の状況です。Googleの統計では、開発途上国のユーザーのスマホにインストールしているアプリの数は、先進国の半分以下と報告されています。このような状況は、スマホのストレージ単価が下がっているため、容量の問題ではなく、通信速度と通信料金に問題があると推測されます。

通信事情が良くない理由

開発途上国の通信速度が遅く、通信料金が高価なのには、いくつかの理由があると考えています。

1.プリペイドカードの高コスト構造
開発途上国の携帯電話利用者の97%がプリペイドカード方式を利用しています。複雑な流通経路を辿るプリペイドカードの流通コストは40%以上であり、通信料金の引き下げが進まない理由の一つと言われています。

2.地理的要因
多くの開発途上国は過酷な自然環境に面しており、均質な通信環境を整備することは困難と言われています。バングラデシュでは毎年のように洪水が発生しますし、1万以上の島嶼を抱えるインドネシアで島々を繋ぐ通信インフラを整備するのは困難です。

3.設備投資
現在、携帯電話の通信基地局を提供するメーカーは欧米メーカーと中国メーカーに限られています。開発途上国には自国の通信設備メーカーが少なく、先進国と同等の価格で海外からの輸入に頼らざるを得ません。結果として、開発途上国では人口あたりの基地局の設置台数は非常に低いのが実情です。

4.帯域制限
開発途上国では軍隊の影響力が強く、3G回線や4G回線で使われる通信帯域を軍が専有していると言われています。例えばインドネシアで民間に開放されている通信帯域は、通信先進国である香港の3分の1となっています。結果、狭い帯域を多人数で利用することとなり、一人あたりの割当て帯域が少なく、同じ通信方式でも通信速度が出ないという問題が生じます。

通信環境のこれから

将来、時間が経てば開発途上国の通信速度は改善するのでしょうか?私は楽観しておりません。先進国では常に新しい通信規格が開発されており、基地局がコモデティ化しコストが下がる前に新しい規格が誕生し、各国のキャリアは最新の設備を導入します。結果、開発途上国の通信会社は、先進国で不要となった一世代前の中古の基地局を購入するか、高い最新の設備を購入せざるを得ない状況が続くものと見られています。

また、GoogleやFacebookが通信衛星や気球を使った開発途上国向けの通信システムを提案しています。気象条件は無視したとしても、物理的に高い位置から通信を行うため、基地局のカバー領域が広く1ユーザーの利用できる帯域は限られていると推測されます。加えて、仮に、現在、開発途上国で40億人と言われているナローバンド利用者が、先進国と同等の通信環境になった場合、その40億人のトラフィックを制御し、コンテンツを配信するためには、さらなる技術革新が必要になります。

開発途上国は開発途上国ゆえに最新の通信環境から取り残されているという状況がある一方で、現在の技術的限界から取り残さざるを得ないという残酷な現実が存在しています。持続可能な開発目標(SDGs)で掲げられている「誰も置き去りにしない」世界を通信でも実現するためには、様々なブレイクスルーが求められています。


大和田健人
大和田健人

Bazaar Entertainment Ltd.グループ CEO
慶應義塾大学政策・メディア研究科修了。大学院在学中より株式会社ソニー・コンピュータエンタテインメントでゲーム開発に従事。PlayStationの中国事業立ち上げメンバーとして2003年から約10年に渡り中華圏に駐在。マーケティング担当者として中国100都市、1000店舗の海賊版業者を訪問し、実態解明と正常化のための取り組みを実施。また、法律で輸入販売が禁止されていたPlayStationの合法化に向けて中国政府と交渉を行い、2012年に販売許可を獲得した後、同社を退社。1年間の放浪の後、2014年に開発途上国へのコンテンツ提供プラットホームを提供するBazaar Entertainmentを起業する。現在はインドネシア共和国バンドン市在住。

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