東京大改革の今・第7回 は・じ・め・ての体験~都民の提案事業


都民が事業を提案できる。
都民が自分たちで事業主体となる。
こうした機会・チャンスを住民に提供する都政。

東京都は平成30年度予算編成において、「都民ファーストの視点に立ち、従来の発想に捉われない新たな視点から都政の喫緊の課題を解決すること」を目的として、都民による事業提案制度を試行的に導入した。

この事業、昨年末に応募がされ、業界的には非常に注目を集めた。「応募様式がしょぼい」「風ばかりみて住民におもねりすぎ」「本当に成果が出るの?」「組織票に乗っ取られる可能性は?」といった玄人たちの批判や疑問もあながち間違っているとは思えない。しかし、この事業の意義や取り組みへの姿勢を考えれば、「よいものはよい」と思うのだ。

具体的な事業は以下の図の通りである。


(出典)東京都予算案の概要 P4

挑戦すら生まれなかった「風土」

都政の中でも、こうしたことに「挑戦」すること自体が画期的である。こうした住民提案事業、行政であればやりたがらないし、普通やらない。政策の専門家としてのプライドもあるし、そもそも住民の能力を信用していない。特に、国レベルの大きさの自治体であればなおさらのことだ。住民提案事業は一時はやったものの、最近では聞かなくなっていた。最近では、矢崎裕一氏を中心とするcode for tokyo実施の(筆者も少しかかわった)品川区の「地域課題をITで解決するワークショップ」事業くらいであると思う。

意味は主に3つ。

(1)都民の皆様によるインターネット投票の「オープンさ」
審査の主体を有識者・関係者に絞るのが普通である。なぜなら、専門家に聞くのが安心だからだ。インターネット投票など不特定多数の投票に委ねるなんて、普通の行政職員にとっては驚愕の行為だ。オープンな投票を行った事例ほとんど聞いたことがない。

(2)1事業当たりの平均予算額が9500万円という「手厚さ」
地方自治体の事務事業を見てみると、1000万円を超える事業というのはあまり多くはない。しかし、今回の事業費はなんと1億近い。これだけの予算を住民に任せることになる。普通、事業には実施責任を伴う、公金が使われることには責任の重さが付随する。それゆえ、1000万円を超える事業を実施の時は、筆者がコンサルタントの時は慎重になったし、身震いしたものだ。その意味で、よほど思い切ったといえる。確かに、金額が1000万円を超えないと本当の「成果」もなかなかでないこともまた事実である。

(3)都民に事業提案のチャンスすら少なかった中での「異例さ」
これまでの都政を見ていても、こうした活動自体、そしてその規模を含めて、「異例」である。発想や提案や検討したことはあっても、実際、幹部は認めてこなかったのであろう。

中央政府より官僚体質が残るともある専門家に言われている「風土」においては、こうした挑戦は画期的なことである。

都民の期待に応えた事業

いくつか特徴的なものをピックアップしてみたい。

(1)「森と自洗を活用した保育等の推進」(2億円):子供の「生きる力」を育むため、自然環境を活用した園外活動を支援

都内の保育園を見てみると、建設反対運動などが発生するためか、外部の声に過敏になっていて、園児が大きな声を出すことすらはばかられる現状。しかも、ますます都会のジャングル化は進行し、ジャンルグルジムは公園から消える状況。裕福な家庭の子供は自然体験ができても、そうではない子供にとっては、自然環境溢れた中で遊ぶことは夢のまた夢。他方、小さいころからお受験だの、習い事だの、英語教育だの、自信を持てない保護者が期待を押し付けがちで、その犠牲になっている子供も都会では多い。そうした現状で、「自然の中でおもいっきり遊べる」という必要性は非常に高い。社会が期待している事業である。

(2)「⾷品ロス削減!区市町村連携事業」(5000万円)
「食品ロス」(フードロス)は大変な問題である。政府広報によると「まだ食べられるのに捨てられている食べ物、いわゆる「食品ロス」が日本では年間約632万トンにも上ります」とのこと。食品ロスは、食品メーカーや卸、小売店、飲食店、家庭など、「食べる」ことに関係する様々な場所で発生するわけだが、「日本の食品ロス」 の半分以上は食品製造の工場や飲食店から出る。


(出典)政府広報HP「もったいない!食べられるのに捨てられる「食品ロス」を減らそう」

賞味期限を迎える前の食品を福祉団体や施設に寄付するなどの活動する団体に寄付する取組を支援する事業だ。いわゆる「フードバンク」などを支援するというもの。日本の食糧事情の問題と困っている人をマッチングさせるという社会的にも意義深い事業である。まさに、公共的な事業である。

都庁職員の人材育成にも?

都庁の中にはいろいろな声もあるだろう。「成功しなかったら?」「混乱を生む可能性も」「やってことないのに」と思っている人も多いかもしれない。しかし、こうした事業に関わる担当局では、内容の検討を行っているし、ある意味委託事業みたいなものであるし、255提案の中から、競争率28倍で選ばれたものなので、そこは大丈夫だろう。
また、都庁職員が新たな挑戦的な取り組みに関わる中で、時代を先取りした事業を実施することで多くのメリットがある。その1つとして、職員に「気づき」を生むことが期待される。行政とは違った考え、行動様式、価値観を持った事業実施者との「かかわり」が都庁職員の視野を広げることは間違いない。

最後に、この事業のマネジメントにおいても、注目すべきポイントがある。それは「原則、単年度事業」であるということだ。都庁の財政課職員にヒアリングしたところ「しっかり事業評価します」とも言っている。進行管理もしっかりする覚悟のようだ。個人的に本音を言えば、こうした事業はもっと拡大・展開していくべきだと思う。

ただ1つだけ思うのは、こうした取り組み、8.5億円の事業費を既存の予算・事務事業の見直しから捻出していただいたら最高だったのだが。


西村健
西村健

人材育成コンサルタント、オムニメディア代表、NPO法人日本公共利益研究所(JIPII:ジピー)代表、一般社団法人日本経営協会講師、未来学者。
慶應義塾大学院修了後、アクセンチュア入社。 その後、日本能率協会コンサルティングで経営・業務改革、人材育成、能力開発を支援してきた。独立後、人事評価制度構築・運用、キャリアカウンセリングなどのコンサルタントとして活動中。最近はプレゼンテーション向上、モチベーション施策などに注力。

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