米中エネルギー覇権競争、グリーンの中国、石油とガスのアメリカ


米国が中国の知的財産権を巡って1,300の品目に25%の関税をかける旨を公表しました。ただし、実際の関税導入まで2か月のタイムラグがあるため、米中の間で急速な手打ちが行われる可能性が存在しており、実際には比較的親中的とみなされているムニューチン財務長官が前面に立っていることからも、これらの関税がそのまま実施されることはなく中国に対してドスをきかせたものであると看做すべきでしょう。先月中旬に導入が決定された鉄鋼・アルミに関する関税措置は、トランプ政権の通商政策関係者らが鉄鋼関連産業の代理人であること・上院の中間選挙対象州が製造業州であることから、当然の成り行きであったように思われます。

参照:渡瀬裕哉『トランプの貿易戦争の現状を概観する』The Urban Folks,2018年3月9日

参照:渡瀬裕哉『日本が鉄鋼・アルミで制裁された理由:日米関係は本当に良いのか?』アゴラ,2018年3月30日

米国による中国への貿易政策の中で、筆者が注目しているものは今年1月に署名された太陽光パネルに対するセーフガードの発動です。もちろん、知的財産権を巡る対中制裁は、トランプ政権発足前から共和党保守派が長年問題視してきたものであり、大規模で重要なものであることは疑う余地もありません。しかし、太陽光パネルへのセーフガードの発動は、米中の世界におけるパワーバランスを左右するエネルギー覇権に向けた鍔迫り合いの一端として捉えると、実態より大きな米中衝突の氷山の一角と見ることが出来ます。

トランプ政権はCo2排出規制に関して、火力発電に課せられたクリーンパワープランの見直しやパリ協定からの脱退などの規制の見直しに着手してきました。リック・ペリーエネルギー庁長官(元テキサス州知事・パイプラン関連会社取締役)ライアン・ジンキ内務長官(国有地での資源開発に前向き)、スコット・プルイット環境保護局長官(クリーンパワープランに反対、水圧破砕法規制に反対)などを閣僚に並べており、米国内におけるシェールガス・シェールオイルの開発を積極的に進める姿勢を見せています。オバマ政権が止めていたパイプラインの建設許可も大統領就任早々許可を与えています。米国のシェール開発などの地域的な偏りなども指摘されているものの、その潜在的生産見通しは今後10年程度で現在の約2倍の2,000万バレル(日産)とも言われてます。もちろん天然ガスの利用を進めることによってCo2排出量の改善は図ることはできるものの、中長期的なエネルギー産出・輸出国としての地位を築いていく見通しとなっています。

一方、中国は石油・ガスについて将来的に予測される米国への輸入依存を回避するため、反米産油国への投資を進めてきましたが、結果は芳しくありません。その結果として、中国は急速にグリーン関連産業への補助金投入及び優遇政策を実施し、太陽光パネルの圧倒的な生産量を実現して国内の再生可能エネルギー比率も増加しつつあり、更には国内での電気自動車市場も拡大しつつあります。更に世界最大の排出権取引市場も立ち上がり、世界のグリーン市場を率いる存在となりつつあります。中国は米国をはじめとしたエネルギー産出国に対して、エネルギー資源消費国側のアライアンスを構築する中心的な存在に浮上しつつあります。

つまり、米国は石油とガス、中国はグリーン、という構図で、エネルギー政策を巡る主導権の奪い合い、を開始している状況となっています。米国に優位性がある従来からの天然資源に基づくエネルギー秩序を中国は覆すことを目指していると言えるでしょう。中国は国家戦略として太陽光パネルの生産・輸出を実施していますが、今後は電気自動車や蓄電池などについても世界を主導するべく力を傾けるものと思います。これに対して、米国による年明け早々の太陽光パネルへのセーフガードの発動は米国からの軽いジャブのようなものと捉えるべきです。

一方、中国は米国からの制裁を回避するため、米国からの貿易赤字を埋めるための方法として天然ガスなどの輸入を増やすことで応じる構えとなっています。中国は米国の国益への餌を戦術的に巻きつつ、戦略レベルでの逆転を狙った動きをしていると言えるでしょう。

トランプ政権が実施する行動は一見して合理性がないように見えますが、少しだけ深堀りしてみると様々なポイントが見えてくるかと思います。個別の関税の是非を論じることはあまり意味がない行為であり、米国及び中国が各々どのような国家戦略に基づいて何をしているのか、という点に注視すべきです。


渡瀬 裕哉
渡瀬 裕哉

パシフィック・アライアンス総研所長
早稲田大学大学院公共経営研究科修了。トランプ大統領当選を世論調査・現地調査などを通じて的中させ、日系・外資系ファンド30社以上にトランプ政権の動向に関するポリティカルアナリシスを提供する国際情勢アナリストとして活躍。ワシントンD.Cで実施される完全非公開・招待制の全米共和党保守派のミーティングである水曜会出席者であり、テキサス州ダラスで行われた数万人規模の保守派集会FREEPACへの日本人唯一の来賓者。著書『トランプの黒幕 共和党保守派の正体』(祥伝社)は、Amazonカテゴリー「アメリカ」1位を獲得。主なメディア出演実績・テレビ朝日「ワイド!スクランブル」、雑誌「プレジデント」「ダイヤモンド」など。

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