スポーツ現場のリアル・第1回 スポーツ馬鹿では生きていけない?~脳科学とスポーツの関係


今月から新連載を始めます、西村健と申します。簡単に自己紹介しますと、脳科学や人工知能の研究を進める社会起業家です。まず初めに、今回このような機会を与えてくださった渡瀬裕哉編集長に心から感謝したいと思います。

スポーツ選手は頭が良い?

さて、五輪代表選手、スポーツ選手の話しぶりを聞いて、最近のスポーツ選手は理路整然と話すなあ、とか、頭がよくないといけないの?と思った方も多いのではないでしょうか。

20世紀末は、「スポーツ馬鹿」「スポーツバカ」「筋肉バカ」「脳が筋肉」という言葉が巷ではよく聞かれていました。その言葉には、「スポーツばっかりやって勉強しない」という意味の侮蔑的、嘲笑的な、偏見的な意味が込められていました。

たいてい、若い時、文科系、芸術系、オタク系男子からスポーツ系男子は言われるこの言葉。そこには、スポーツをして活躍し、目立っていることへの嫉妬や憧れが入り組んだ複雑な感情といっても過言ではありません。他方、スポーツ男子自身も「そうかもしれない」と半信半疑で信じていた人もいたことでしょう。


ブラジルワールドカップ、サッカー日本代表の香川真司選手のドリブル(筆者撮影)

しかし、個人的には、スポーツマンは馬鹿ではないと思います。音楽を聴いたり、恋愛してリア充生活を楽しんだり、アルバイトしたり、勉強する時間をスポーツに割いていただけだと思います。スポーツマン・スポーツウーマンとしてそれなりの業績を残した方はそれなりに頭がいいですし、仕事でも活躍する人も多いですから。 サッカー日本代表の香川真司選手のインタビューを聞いていれば、彼が頭脳明晰なことがわかります。

脳科学が解明するスポーツ選手の知性

個人的なことで恐縮ですが、そもそも自分はスポーツはやっておりましたが、高校まで部活で中途半端にプレーしただけで、誇れる勲章も実績もありません。どちらかというと勉強を優先していた人間です。

話を戻して、世間を見ても、名門大学ラグビー部の出身者が商社などで活躍する例はとても多いです。川淵三郎さん(元Jリーグチェアマンなどを歴任)も古河電工では社長になれるくらいバリバリ働いていたと聞きます。そもそも、スポーツで成功するには身体能力だけだと限界があるのです。頭がよくないと、人より抜きんでることはなかなか難しいものです。どのように動くか、体の使い方、ペース配分、作戦、戦術等々、コーチの話を理解し、自分のスタイルを確立するうえで頭脳は必要となります(筆者のように、思考せず、感覚だけでプレーするとスポーツ経験者と言うには恥ずかしいレベルの競技者に終わります)。

言葉や知識がないため言語化できなかったりするから、スポーツ選手は頭が悪いと勘違いされてしまうものです。知的なトレーニングを受けていないだけなのです。またしても個人的な経験ですが、一度勉強する習慣を身に着けた元スポーツ選手は、あっという間に仕事においても周りを抜き去っていくように思えました。彼ら・彼女らは深く思考していましたから。ちなみに、私は仕事において抜き去られた方だったのですが笑、スポーツに青春をささげた人は凄いと思ったものです。特に、その集中力、忍耐力は凄かったです。

ただし、すべての元スポーツ選手にこうした筆者の経験が当てはまるわけではないでしょう。スポーツを引退した人は、キャリア・トランジションが非常に難しいものです。それは、引退イコール長年の夢や目標を諦めることですから。私の主張が当てはまる人は、その踏ん切りをうまくつけた人に限定される話かもしれません。

スポーツと脳科学?

さて、スポーツ選手には、空間認知、状況判断などの複雑に高度な能力が必要です。現在、スポーツの能力を身体能力だけで説明するには不十分になっています。

20世紀後半から、スポーツについての研究が盛んになりました。まずは、筋肉・酸素の取り方などの運動生理学、動作についてのバイオメカニクス、その次は、スポーツ心理学、メンタルトレーニング・・・という形で研究は発展し、今では多面的な研究が行われています。そうした中で、最近注目を浴びているのが脳科学です。

スポーツ選手、無駄に脳を使っていないのです。プロのサッカー選手では、足を動かすときの脳領域はアマチュア選手より小さいことが明らかになっています。ネイマール選手(ブラジル代表、フランス「リーグ1」パリ・サンジェルマン所属、FW)はプレー中、脳領域がとても小さいことがNHKの番組で紹介されました。知っている方もいるでしょう。研究もなされているようです(参考)。話を戻して、トップアスリートは無駄に脳をつかっていないということなのです。


ベルギー代表、ケビン・ミララス選手のドリブル(赤ユニフォーム、背番号11/筆者撮影)

筆者が好きなベルギー代表のケビン・ミララス選手がドリブルし、相手を抜く際、そんなに多くのことを考えてはいないでしょう。相手の重心がどちらにあるか、などのいくつかのポイントはチェックしているとは思いますが。

このとき、脊髄(せきずい)の細胞が筋肉を支配するのです。よく「脊髄反射」という言葉がありますが、反射的に動くということなのです。何も考えないでも走ることができる、ぱっと動くということ。スポーツ選手はいちいちボールをトラップしてから、相手はどうか、さあどうするか、この筋肉を動かそうか等々、考えているような暇はないのです。何コンマ、一瞬一瞬で勝負しているのですから。

脊髄と指令を送る脳

脊髄は体のすべての筋肉群に運動プログラムを送ります。そして、その前段階において、脳から脊髄に運動プログラムの指令が送られます。瞬発力を高めるかはこのシステムがスムーズかつ迅速に作動する必要があります。そして、瞬発力があるプレーができるかのカギは、毎日繰り返される反復運動にあるのです。技を体に記憶させ、脳に記憶されることが大事で、それがいざという時の瞬発力につながるのです。

ある講演で、早稲田大学の彼末一之教授は
トップアスリートの要因は、
1.生まれつき(遺伝子)
2.環境(育ち、親、コーチ、チーム、トレーニング環境)
3.ハードトレーニング
である。トップアスリートのレベルまで行けるかどうかは「どれくらいハードトレーニングに耐えられるか、モチベーションを持てるかにかかっている」と、おっしゃっていました。

いかに自分を追い込む厳しいトレーニングを積み重ねられるのか。

脳領域をあまり使わないでプレーできるレベルまで反復練習を積み重ね、技術と瞬発力を高められるのか、そこにアスリートとしての勝負のポイントがあるようです。

次回もこうご期待。


西村健
西村健

人材育成コンサルタント、NPO法人日本公共利益研究所(JIPII:ジピー)代表、事業創造大学院大学 国際公共政策研究所 研究員・ディレクター、一般社団法人日本経営協会講師、未来学者。
慶應義塾大学院修了後、アクセンチュア入社。 その後、日本能率協会コンサルティングで経営・業務改革、人材育成、能力開発を支援してきた。独立後、人事評価制度構築・運用、キャリアカウンセリングなどのコンサルタントとして活動中。最近はプレゼンテーション向上、モチベーション施策などに注力。

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