農泊は地方創生の意義を変えられるか


「農泊」というものをご存知でしょうか。農泊とは、“農山漁村において日本ならではの伝統的な生活体験と農村地域の人々との交流を楽しむ滞在(農山漁村滞在型旅行)” です。
農林水産省 農泊の推進より

これまでその効果や意義について賛否が分かれている地方創生政策ですが、「農泊」の成功がその方向性や概念を少し変えるかもしれません。農水省によると、これまでの農泊は「地域の生きがいづくり」や「公費に依存」したものという位置づけでしたが、これを「持続可能な産業」にし、「自立可能な運営」に変えていく、としています。

農泊が「持続可能な産業」になり「自立可能な運営」に変わるという意味は、「農泊を地域産業として確立させる」ことに他なりません。

アグリ・ツーリズムという言葉があります。これは、アグリカルチャー(農業)とツーリズム(観光)との造語です。欧米では農村に滞在しバカンスを過ごすという余暇の過ごし方が普及しており、これが日本における農泊のモデルケースとなるでしょう。農林水産省の「ファームステイの発展」によると、イタリアでは農家民宿数が18,121ヶ所(2014年)にのぼり、年間宿泊数は約1,080万泊にのぼります。さらにその直接消費額は約1,001億円(2002年アグリツーリスト加盟民宿のみ)にのぼるのです。イタリアの人口が約6000万人であるということを考慮すると、この数字がどれほど大きなものか分かります。

イタリアでは1985年に「アグリツーリズム法」が制定され、アグリツーリズムが大きく発展しました。しかし次第に収益率の低下や地域間の発展に偏りが目立ってきたことから、2006年に新たなアグリツーリズム法が制定されました。これはアグリツーリズムの開業や運営に、簡便化と柔軟性をもたらすものでした。つまり「規制緩和」です。

イタリアでアグリツーリズムが大きな発展を遂げた契機にはこの規制緩和と関連法の整備にあったとも言えます。

農山漁村部の農泊を活性化させることは、日本全体の魅力を高め世界に対する「日本の磁力」を高めることでもあります。既述したイタリアのアグリツーリズムの外国人比率はなんと44%にものぼるのです。

インバウンド促進、観光産業としての農泊、この両輪の成功が日本の地方創生に対する意義を変えていくかもしれません。

地方創生は便利な言葉です。これまで地方創生の名のもとに公費がつぎ込まれ、それが地域の経済再生・発展に結実しなくとも、まるで「つじつま合わせ」のようにこれまでは「先進国では人口が減少していくのが当然」、「地方で過疎化が進むのは仕方がない」と、国も地方もどこかで諦めてはいなかったでしょうか。

農山漁村部における農泊の成功例は、将来人口減少を迎える都市部にとっても重要な意味を持つものでもあるのです。


高幡 和也


1969年生まれ。28年に渡り不動産業に服務し各種企業の事業用地売買や未利用地の有効活用、個人用住宅地のデベロップメントなど幅広い数多くの業務を担当。不動産取引の専門士としての視点で、人口減少時代において派生する土地・住宅問題に対して様々な論考と提言を発信。

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