なぜトランプ政権とIT企業は対立するのか?



出典:Reuters,Carlo Allegri

トランプ大統領がアマゾンを執拗に叩き続けています。トランプ大統領のアマゾン批判は、売上税の問題、郵政公社の負担、小売業への影響など多岐に渡りますが、いずれも妥当性に欠くものと言えます。アマゾンは既に全米で売上税を徴収しており、郵政公社の経営に貢献し、小売業は自由競争で淘汰またはアマゾンの利用をしているに過ぎません。したがって、アマゾンに対するトランプ大統領の攻撃は事業の妥当性とは別の政治的意図があるものと捉えるべきでしょう。

元々IT業界で働く技術者は経済的な自由主義的な側面と左派的リベラルな側面の特徴を備えている傾向があります。彼らは経済政策に関しては自由貿易を促進して労働法制の強化に反対しつつ、環境政策やダイバーシティなどの社会的政策については推進派であるという、共和党・民主党の両者の特徴を併せ持った特殊な政治傾向があります。この傾向はトランプ大統領が自らの支持基盤とする保護主義・労働者重視かつ社会的保守派というナショナリスト(=トランプ支持者)とはほぼ真逆の傾向を有した人々ということができます。したがって、IT業界に属する人々はトランプ大統領にとってはイデオロギー上の大敵ということができます。

また、アマゾンは小売業の労働者の一人当たりの付加価値を向上させたと言えますが、それは小売業の広範な労働者層から一部の高付加価値なIT技術者への労働者層の変更を意味しており、むしろ直接的な雇用者数では民主主義的な基盤は脆弱になったとみなすべきでしょう。ワシントンD.Cで大量のロビイストを雇ったところで、産業として雇用している労働者の絶対数が少なく、なおかつ巨額の売上を計上するIT企業という存在は、民主主義上の負の感情をぶつける対象としてはもってこいだと言えます。

IT企業の従業員たちの政治的傾向は少数派であり、なおかつ彼らが自由市場で駆逐してきた産業の人々よりも遥かに少ない雇用人数しか存在しません。トランプ大統領に対して、ゲーリー・コーン前国家経済会議議長は、トランプ大統領のアマゾンへの批判が的外れであることを論理的に説明したとされていますが、これらの攻撃は政治的なものであることは明らかであり、無駄な説明を行うコーン氏をトランプ氏が疎んだことは想像するに難くありません。

Facebookの個人情報を不正利用したケンブリッジアナリティカを巡る事件は、上記の特殊な政治傾向を持つIT企業が収集した情報をトランプ支持者のようなナショナリストの活動を欧米各国で支援するコンサルティングファームが利用したという政治的にハイブリットな事例です。その結果として、その両者との間に距離がある既存の政治的枠組みを代表する政党である共和党・民主党の双方から叩き続けられる政治的要素が存在しています。それらの企業に対して政治的圧力が高まっている背景には、ロシアの選挙介入やデータの不正利用以上とともに、欧米の政治パラダイムの変化に伴う既存の政治とのズレがあると言えるでしょう。

近年、GoogleやFacebookなどのIT企業は企業としては民主党を支持してきましたが、ピーター・ティール氏のようにリバタリアン的傾向が強い個人は共和党を支持してきました。前者はトランプ大統領誕生・共和党連邦議会支配の政治的現実の前にワシントンD.Cでの共和党関係者との関係修復を余儀なくされており、後者はリベラル色が強いシリコンバレーから距離を置かざるをえない状況となっています。また、業界全体の政治色は民主党色が強いにもかかわらず、シェアリングエコノミーを主導するUberのような企業は、民主党が擁護するタクシー運送などの企業の規制産業と対立し、経済政策の側面だけ見れば規制緩和を推進する共和党のほうが相性が良い状況です。このようなIT業界自体の内部的なハレーションも、実は彼らの政治的傾向にピッタリと寄り添う政党が存在していないことに起因しています。

メディアは、トランプVSアマゾン、をトランプ大統領とアマゾンのベゾス氏の確執、特にベゾス氏が所有するワシントンポストの反トランプの論調と結び付けて報道する傾向があります。しかし、この問題はそのような矮小化された単純な問題ではなく、欧米の政治が抱える根本的な構造変化にこそ原因があります。既存の政治の枠組みが新たに台頭したIT業界の人々やナショナリストの人々の受け皿として機能しておらず、一度歯車が逆方向に回転を始めてしまうと政治的圧力が止まらない状況が生み出されていると理解するべきでしょう。


渡瀬 裕哉
渡瀬 裕哉

パシフィック・アライアンス総研所長
早稲田大学大学院公共経営研究科修了。トランプ大統領当選を世論調査・現地調査などを通じて的中させ、日系・外資系ファンド30社以上にトランプ政権の動向に関するポリティカルアナリシスを提供する国際情勢アナリストとして活躍。ワシントンD.Cで実施される完全非公開・招待制の全米共和党保守派のミーティングである水曜会出席者であり、テキサス州ダラスで行われた数万人規模の保守派集会FREEPACへの日本人唯一の来賓者。著書『トランプの黒幕 共和党保守派の正体』(祥伝社)は、Amazonカテゴリー「アメリカ」1位を獲得。主なメディア出演実績・テレビ朝日「ワイド!スクランブル」、雑誌「プレジデント」「ダイヤモンド」など。

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