フィンテック最前線・第3回 金融リテラシーの本質


日本では桜も散り、春を感じる日々が多くなった。また、卒業、入学、入社など生活環境が変化する時期になっている。年末まで、もてはやされた仮想通貨関連の話題は、1月末のコインチェック(以下「CC社」という)での顧客資産流出問題により、一気にその環境が変わってしまった。2月中旬以降、財務局は金融庁と共に「みなし業者」16社への検査を行い、現在までのところ、「みなし業者」の5社が自主廃業となった。

思うに、「CC社のように仮に顧客資産流出があったとしても、自分の収益でその損害額をまかなえるような財務基盤がこの業界に進出するのは必須である」というような何らかの参入障壁を設けるスタンスを示したいのだろう。

仮想通貨市場の課題

確かに、仮想通貨取引所と言われる業態で、板情報などを見せて、そこでの売り手と買い手のマッチングをするという約定形態は、外為証拠金とは異なる。しかしながら、その決済は、顧客と対峙している取引所の財務状況により担保されている(はず)という信用リスクが存在する。従って、実態としては、マッチングによる約定形態としても、決済までの契約形態から鑑みるに、相対取引と全く変わらない。本来、顧客は信用リスクに関する説明を十分に受ける必要があるが、現状それを明確に説明している業者はない。

とはいえ、これを怠っているのは、法令や行政による瑕疵では、断じて無い。本来であれば、民間の事業者が、この部分を自分で認識して説明すべきだし、集客のみならず、積極的に財務情報を開示し、第三者による意見を付して、自己の主張のみで終わらないようにすべきだ。

残念ながら、この新しい分野では、広告・販売・営業というビジネスにおいてのオフェンス・チームが、「今日現在は違法じゃないから」という見解の下が優先している。最たるものは、適当なホワイトペーパーという目論見書に、実効性の全く見えないコンセプトを載せてトークンセールス(いわゆるICO)をオン・オフライン問わず行っていることだ。

本来、私企業には自由が存在しており、その自由は他人の財産権をはじめとする自由権を侵害しない限り、自由であるべきだ。しかしながら、道義的な部分を捨て去り、今は違法ではないからという理由だけで、このように多くの醜い取引に「ブロックチェーン」が使われてしまった。この結果、市民の自由権を制限する側にいる行政は、不特定多数の財産権始め自由を守るという趣旨で、失った時間を取り戻すべく、規制の度合いを強めている。

このモメンタムは、日本のみならず、中国・韓国そして東南アジアでも同様で、一般に国に権威がある国で顕著だ。香港にあるBinance はマルタに、同じくBitfinexはスイスのツーク州に拠点を移すとの公表もされた。

かつて、金融界でも同様のことが起こり、アマチュア投資家が、モラルを欠いたプロの金融機関に複雑な金融取引を売り込まれ、おびただしい犠牲を出した。その後、行政が規制に乗り出し取り締まった時期があったが、それが繰り返されているようにも見える。

「ブロックチェーン」関連のうち、特に仮想通貨となると、比較的小型のベンチャー企業や、この分野で真剣に頑張ろうと思っている人たちまで、こぞって規制を考えなくてはいけなくなった。今では銀行口座の開設やテナント契約すらも難しくなってしまった。この結果、実に数多くのビジネス機会の芽を摘んだ事実がある。

私見ではあるが、そもそもビジネスの評論・評価はできても、事業推進はできない行政に、未然に防ぐことを期待すべきではない。ベンチャーの多くは欧州の一部と米国の一部に存在し、国ではなくエンジェル投資家により支援を受けている。この手のエンジェル投資家を騙そうという悪い人たちも存在するが、エンジェル投資家の多くは、自分の判断の正当性を少なくともかなりの回数疑う。

エンジェル投資家が決して絶行わないのは、「焦らされての投資」である。例えば、「投資リターンは毎月20%、ただし、受け入れるのは明後日まで・・・」などというものには、縁遠い。エンジェル投資家に共通しているのは、「いつ、誰に、どうやって、いくら、投資するのか」は自分が決める、という主導権を維持しているのだ。

そもそも公権力が卓越していれば財政赤字にもプライマリー・バランスの劣化もあり得ない。そのため、自由を得るためには、公権力に頼ることなく、自己の研鑽と自分の判断に挑戦してくれるエンジェル投資家はじめ市井の挑戦者たちのほうが効果的ではないかと思われる。


鬼澤礼志
鬼澤礼志


明治大学卒業後、英National Westminster銀行(現RBS)にて当時最先端の金融工学に基づくトレーディングにてメッセンジャーとしてキャリアを始める。以降Swiss Bank Corporation, UBS, Deutsche Bank, Credit SuisseにてLondon, Singaporeなどでの勤務を経験。その間、日本に外国為替の電子商取引を導入し、当時のFX(外為証拠金)業界へのマーケットメイクを行う。これにより金融における電子化並びに効率化が高まった。引退後は豪州での資産管理会社などを通じ、ブロックチェーン関連業界に金融技術を導入している。

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