リーダーを信じられない、それはもう「組織」ではない~ハリルホジッチ監督解任に見る日本型組織


青天の霹靂・・・・というのはこういうことを言うのだろう。

サッカー日本代表監督のハリルホジッチ監督が解任された。
これまで解任がささやかれていたが、ワールドカップ2ヶ月を前にして、そのニュースは衝撃的だった。普通やらないタイミング。

しかし、ハリル氏解任への疑問も多かったことも事実。
なぜにこのタイミングということだ。例えば・・・

・これから百戦錬磨のハリルホジッチ監督の采配を見るチャンスを失った
・原因となった欧州遠征はテストだったのに・・・
・「おれたちのサッカー」>「ハリルのサッカー」・・・
・これではブラジルワールドカップ惨敗後の4年間の総括もできなくなる
・霜田正浩さん(現J2山口監督)が技術委員会から外れてしまい(外されて市しまい)、ハリルホジッチ監督を支える人材がいなくなり、選手とのコミュニケーションを取れなくなった
・監督の母国語ではないフランス語を使用、通訳もそうしたのがコミュニケーションをうまくとれなくした原因なのでは
・そもそも強化委員長の西野さんにも責任があったのでは
・日本サッカー協会の権力闘争に巻き込まれた面も
・田島会長にとってはどちらにしても責任を取らなくて延命できるのでは
・有力選手やスポンサーに配慮した
といった多岐にわたる意見が各方面から噴出した。多くをまとめると上記に分類される。どれが正しくて、正しくないのかは闇の中であろう。しかし、香川選手や本田選手がどうこうというのは陰謀論だろう。スポンサーの行動としてそんなリスクはとれない。

最新のニュースでは、ハリルは

すべてが金とビジネスでひっくり返った

とまで言っきった。風雲急を告げるとはこのことだ。

◆ハリルホジッチ監督のすばらしさ

ハリルの進めてきた取組みにはポイントがある。デュエル(球際の強さ)重視、ポゼッションよりもカウンター重視で前線へ縦に早く、コンディション重視の選手起用など、どれも日本に必要な要素であったといえる。

ブラジルでは日本のパスサッカーなんて世界に通用していなかったからだ。それは原博美さんや霜田さんらの強化委員会の分析もそうであり、その総括に沿ってハリルホジッチ監督が選ばれたわけだ。

 

【出典】ブラジルワールドカップ、コロンビア戦、コロンビア代表に翻弄されるサッカー日本代表(筆者撮影)

フェアな登用、厳しい物言いとベースにある選手への愛情、サッカー協会の監督部屋に毎日出勤する仕事ぶりは多くを語られている。ボスニアヘルツェゴビナ紛争で苦労しただけあって、自分にも他人にも厳しいが、分析的で「日本人はよく働くし、練習も熱心。でも勝利への執着心が足りない」といったように日本人を正しく理解していた。

キャプテンの長谷部選手はこう言っていた

「相手によってフォーメーションも変えるし、やり方も変える。プレッシャーの掛け方を一つ取っても、毎試合違うやり方をする。どんな相手にも臨機応変に、柔軟に対応していくサッカーだということが、はっきりと見えてきましたね」

知性派の評論家、中西哲生氏が言うように「伝家の宝刀が鈍っている」との指摘もあるものの、欧州で長年活躍する長谷部をうならせるそれなりの知識を持っていたのだろう。

さらに、控えのサイドバックから厳しい指摘でレギュラーポジションを得た槇野選手、予選突破の立役者となった原口選手、一度は外されても戻ってきた川島選手など多くの選手を育て上げたことは事実である。ここまで成長するとは!と思ったほどだ。

◆しかし、それでは組織はまわらない

しかし、だ。ハリルホジッチ監督との関係が微妙だった「ビッグ3」(本田選手、香川選手、岡崎選手)をはじめ、海外で活躍する有名選手だけではなく、多くの選手が不平をメディアに言うほどの末期症状だったということも確かなのだ。

そもそも、プレーするのは選手なのだ。選手が監督のいうことを聞けない、バラバラな状況は田嶋会長の言うとおりだったと聞く。

・監督と選手の方向性が違う
・選手が監督の方針に納得していない
・相互尊重の対話もできない

部長が全くとんでもないことをやりだしたら、部の最大の目標に向けて組織として機能しないなら、会社員として黙って入れるか?ということだろう。

監督と選手の心理的距離がこれほど離れていれば組織の一体感が保たれない。たしかに緊張関係や軽い対立がある方が双方がプライドを持って組織がうまく回り、結果を残すケースもある。しかし、日本的組織においては、それは滅多に当てはまらない。

日本の組織は、見た目での調和・協力は前提で、さらに、本当の意味での一体感こそ、日本的組織の真骨頂である。ある程度まとまる(ように見える)ことはこの国の組織には必須なのだ。いいか悪いかは別にして。

強調される「一体感」。「おまえそんな勝手なことを言うな」「まとまっていこう」という言葉が無意識的かつ自然に出てきてしまうのが日本的組織。

その意味で、日本サッカー協会は苦渋の決断だったと思うし、それは大変な決断であった。元代表の大久保選手も言っているように、このような思い切った決断をすることができるということは画期的で非常に良いことだと思う。

 

【出典】ブラジルワールドカップ、ギリシャ戦のサッカー日本代表(筆者撮影)

◆ハリルホジッチ監督の「フェアネス」は重要

ただし、ハリルホジッチ監督はレガシーになるような要素を残してくれたことも確か。特に、その選手起用はとてもフェアネス(公平さ)を感じられた。ネームバリューや実績よりも、コンディションを重視した抜擢はとても新鮮で、確かにスター選手にとっては厳しいとは思った。しかし、これまで日本サッカーにあったであろうか。この基準。

日本社会はどうしても実績、実力、肩書、序列、そういったものが選抜の際の要素に含まれてしまう。もうこれは文化みたいなものだ。だいたい、多くの人はそうした部分を見ていて、本質を見つめる人は少ない。

目的にあった「抜擢」をすると、

・過去の事例にない
・挑戦的過ぎる
・「和」はどこに
・失敗したらどうするのだ?

ということを言われる(笑)。つまり、思い切った起用がしにくい文化なのだ(非科学的な言い方だが)。失敗防止、リスクマネジメントが重視されるのは成功した組織ではある程度仕方がない面もある。

しかし、ハリルホジッチ監督はそこにこだわらなかった。こだわったのはフェアネス。これまでの日本だったら、抜擢してチャンスに一度「失敗」をしてしまったら、なかなか戻ってこれない。大島僚太選手のようなことは普通ありえなかった。その抜擢方法は見習うべきだろう。

◆日本サッカーを探していく勇気ある一歩

ポゼッションで圧倒する。その方向性が固まった。

個人的には2013年のU17W杯代表、吉武博文監督の率いるサッカーが理想なんだろうと思う。徹底的なポゼッションは大会で評価を受けた。今、清水エスパルスで活躍する北川航也選手(本大会には出場しなかったが)でさえ、DFで使われたり使い方も「GK以外全員がボランチ」と言っても過言ではないシステム。

徹底したポゼッションで相手を走らせ疲れさせる。世界の最先端の潮流とは違うが、オシムさんの走るサッカーとともに、日本の在り方として軸とする考えには賛成だ。

私は今回ロシアには行けないが、日本代表の活躍を心から祈っている。


西村健


人材育成コンサルタント、NPO法人日本公共利益研究所(JIPII:ジピー)代表、一般社団法人日本経営協会講師、未来学者。 慶應義塾大学院修了後、アクセンチュア入社。 その後、日本能率協会コンサルティングで行政・民間の業務改革、能力開発を支援してきた。独立後、プレゼンテーション向上、人事評価制度構築・運用、キャリアカウンセリングなどのコンサルタントとして活動中。

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