インドの電気自動車(EV)の現状を知ってますか?


■ インドの電気自動車(EV)政策の現状

昨年インド政府は、2030年までに国内で販売される全ての乗用車をEVへ移行させると発表し、大きな注目を集めました。インドの政府系政策シンクタンク(Niti Aayog)によると、全ての乗客輸送をEVやシェアサービスで代替することにより、2030年時点の二酸化炭素排出量を37%、エネルギー消費量の64%を削減可能と試算しており、その効果は大きく無視できません。


※スズキ自動車ホームページより(コンセプトカー:イー・サバイバー)

インド政府がEVで狙っているのは、固定電話の普及を待たずに携帯電話・スマートフォンの普及が高まったようなリープフロッグ型の発展です。現在インドの自動車の生産台数は400万台規模になり、世界第5位の市場規模に成長しています。自動車の生産台数・普及率は毎年徐々に伸びていますが、同時に電動化、コネクテッド、自動運転、シェアという大きな産業構造の変革を必要とする時期に来ており対応を迫られています。

そこでインド政府としては、既存の化石燃料車を電気自動車で代替していくことにより、新たな産業を振興し積極的な外国資本・技術の受け入れ、雇用創出、エネルギー消費量の削減、二酸化炭素や各種排出ガスを削減することによる環境対策など、様々な課題に対応可能な政策として推進していると考えられます。特に自国経済が発展するに従ってエネルギー消費量が伸びていくのは必至です。インドはエネルギー資源の供給の多くを外国からの石油・ガスの輸入に依存しており、安全保障の観点から見てもエネルギー消費量削減は重要な課題です。

■ インドのEV政策の課題

各種主要政策をとりあえず打上げて、そこから細かな規制、枠組み、インセンティブ、インフラ整備などをできるところから進めていくのが、インド政府の一般的な政策実行スタイルです。そのため、本EV政策なども発表時にはほとんど中身がなく、各所(主に自動車メーカーなど)からその実行性について批判を受けているのが実状です。

・製造インセンティブ
インド政府がインセンティブとして2015年に導入したFAME(Faster Adoption & Manufacturing of Hybrid and Electric Vehicles)スキームは、2016年度は予算の20%程度しか消化されず、2017年度も未達とほぼ失敗に終わっています。今後政府は更にインセンティブ予算を増額するとともに、2017年7月から導入された間接税GSTを活用したインセンティブなども追加していく予定です。

・充電インフラの整備
EVを充電するためのチャージングステーションのインフラ整備は喫緊の課題です。ナグプールという人口250万人程度の都市で、シェアライドサービスを展開するOlaがEVのライドシェアサービスをパイロットプロジェクトとして提供しています。しかしながら、市内のチャージングステーションの設置数が十分でないため、各ドライバーが充電を受けるために長時間の待機を強いられていることが問題となっています。

・バッテリー規格の統一
インド政府は、特に2輪・3輪を中心として、バッテリーの使用量に応じた課金サービスへ移行していくことを計画しています。そのために、車両毎に異なる規格のバッテリーを搭載するのではなく、統一規格のバッテリーを製造し容易に交換が可能にすることを計画しています。現在は観光地や都市部を中心に電動のオートリキシャが普及しており、今後このような車両のバッテリーは規格が統一されていくことと思います。

・リチウムイオン電池製造工場
現状インドではリチウムイオン電池は製造しておらず、中国や日本からの輸入に頼っています。今後EVの製造台数が増加するに従って、輸入のみで供給を賄うことは難しく、インド政府は段階的に国内製造に移管するようなスキームを発表していくことが予想されます。

■ 今後のシナリオ

日本企業で最も現地化の進んでいるスズキ自動車は、インド国内の自動車市場の50%近いシェアを有しておりマーケットリーダーとして着々と布石を打っています。スズキ自動車(50%)、デンソー(10%)、東芝(40%)の3社でグジャラート州へ、自動車用リチウムイオン電池パック製造のための合弁会社を設立しています。同社では、2020年からインド市場へ投入予定のハイブリッド車向けに、電池パックを供給予定です。

※スズキ自動車ホームぺージより

またスズキ自動車は、ハイブリッド技術に関してトヨタ自動車と提携を行い、今後インドのEV市場の成長に向けて準備を整えつつあります。

一方で、EV市場の競争は既存の自動車メーカーのみならず、IT(アップル、グーグル等)、家電メーカー(ダイソン等)の参入も見込まれることから競争が激化、車両自体はコモディティ化していく流れにあるでしょう。また、電気自動車に強い中国のBYDなどとの競争に日本メーカーがどの程度ついていけるかも懸念されます。自動車製造ではこれまでインドで存在感のなかった中国ですが、上海汽車がインド撤退を決定したGM(米)から製造工場を買収し、2019年からインドでの製造を予定しています。

スマートフォンでは、既にインドで販売される5割以上のシェアを有する中国勢。自動車では同じ展開はないかもしれませんが、EVにおいては同じ流れになる可能性は否定できません。

日系自動車メーカーはこれまでと同様の、モノづくり的な発想ではインドのEV市場で存在感を発揮していくのは難しいでしょう。


鈴木慎太郎
鈴木慎太郎


米国公認会計士。SGC(スズキグローバルコンサルティング)代表。2010年5月よりニューデリー(インド)在住。40社以上のインド拠点設立、100社以上のインド・会計税務にかかるコンサルティングに従事。2016年よりスズキグローバルコンサルティングを設立し独立。日本企業向けにワンストップでインドの拠点設立・会計・税務・法務をカバーする総合コンサルティング事務所を経営。 URL: https://www.suzuki-gc.com

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