フェースブックがなぜ問題になっているか?~ケンブリッジ・アナリティカが開くオンライン上の「闘争」


フェースブックが大変なことになっています。株価は暴落、8兆円の資産が吹っ飛んだともいわれ、マーク・ザッカーバーグさんは釈明に追われ、連邦議会公聴会にも呼び出されました。

今回の問題は、選挙コンサルティング会社であるケンブリッジ・アナリティカ(CA)が数千万人のフェイスブックユーザーの情報を本人の同意なしに取得・保持していたことが原因。なんと非会員データを、友人のメールアドレスをアップロードする際、「クッキー機能」を利用する(サイトの流入を分析する目的?)などで収集するとも、会員のプライベートメッセージまで収集するという疑いさえも出てきています。

もともとは、アメリカ大統領選挙に大きく影響を与えたことが問題の発端であったのですが、イギリスのBrexitの選挙結果にも影響を与えたということで、データ保護管轄部局の情報コミッショナー事務局(ICO)が提訴する構えなど、大混乱の模様を呈しています。

■ケンブリッジ・アナリティカ(CA)という謎の会社

ケンブリッジ・アナリティカが何をやったのでしょうか。それはフェースブック上に公開した性格診断アプリケーション「thisisyourdigitallyife」(これがあなたのデジタルライフ)の利用者(30万人ともいわれる)の個人データを不正に取得・利用、さらにその友人5000万人の個人情報を取得したのです。

この情報をどのように利用したのでしょうか?

それは、利用者にあわせてカスタマイズし、感情や心に響く、選挙広告・選挙情報・メッセージを流してしてきたのです。

ケンブリッジ・アナリティカ、そもそもどのような組織なのでしょうか?

組織は、NY、ワシントン、ロンドンに事務所があり、渡瀬裕哉氏がよく言及するトランプの資金的な後ろ盾となる富豪のマーサー氏が出資しているマーサー財団が支援しており、バノンさんとも関係が深い組織のようです。ビジネスとしては、データ獲得、データ予測、視聴者の洞察・デジタルマーケティングの専門会社です。その人格分析をもとに、マイクロターゲティングを行なう画期的選挙マーケティング手法は、マイケル・コジンスキー博士の研究成果を使用したとされています。

■サイコメトリクス社会?

社会心理学の専門家である筆者は、性格診断アプリには詳しいのですが、「いいね!」を押した記事内容を分析すれば、大体どんな人かがわかってしまうものです。これらは心理統計学(サイコメトリクス)という学問の一端です。

ポイントは
・「心の物差し」を作り、「心を測る」技術
・物差しとなるのが心理尺度:複数の質問項目からなる質問群により、選択させて、心理特性を測定
・手法:なるべく直接的な質問は避けつつ、間接的な質問によって計測対象となる心理特性を浮き彫りにしていく
・特徴:消費者の認知特性を表す「深い情報」
です。

特に、今回は性格診断アプリケーションを利用したエッセンスは「ビッグ5」「OCEANモデル」と言われる性格分析です。それらは、開放性、誠実性、外交性、協調性、安定性という5つの側面から人格分析が可能になります。


*筆者作成

さらに詳細を示すと以下のような設問に7段階で選択していく(選択肢)ことで、あとは簡単な計算をして5つごとに点数がでます。

【設問】
・活発、外向的
・批判的、もめ事を起こしやすい
・しっかりしていて、自分に厳しい
・心配性で、うろたえやすい
・新しいことが好きで、変わった考えを持つ
・無口で、静か
・同情しやすく、やさしい
・だらしなく、うっかりしている
・冷静で、気分が安定している
・独創的ではなく、平凡な人間

【選択肢】
1:かなりあてはまらない
2:ほぼあてはまらない
3:どちらかというとあてはまらない
4:どちらでもない
5:どちらかというとあてはまる
6:ほぼあてはまる
7;かなりあてはまる

あなたもやってみると自分をしる練習になります。

こうした現実を「怖い」「気持ち悪い」と思われる方もいるでしょうが、すでにこうした社会のリアリティになっているのです。無料でアプリを利用する対価として、個人情報を売っている形になるのですから仕方ないのかもしれません。

我々の情報環境は、既に「こういう性格を持った顧客をターゲットにしたい」広告主の広告にさらされています。「あなたには●●がおすすめですよ」といったレコメンド機能もその一環。我々の痒い所を知った情報がタイミングよく提示され、我々は「よく俺のことをわかっているなあ」「気持ちいいなあ」と無意識的に感じる情報環境。アルゴリズムが行動環境を規定している現状を今更変えられないのが恐ろしいところです。

■問題の深層

今回問題になったのは、情報が流出し、利用者の知らないところで勝手に使われたことです。それは今後、アメリカ議会で規制が議論されるでしょう。さらに問題を大きくしたのは、企業のマーケティング手法が政治的な領域に入ってくることへの感情的な反発であろうと思われます。

こうしたことに対して「マーケティングによって選挙結果が左右されるなんて危ない」なとど大騒ぎをする人がいます。私も一瞬同意します。

しかし、普段の選挙運動でも似たようなことはされていたのです。程度の差はあれ。あの人はこういう傾向からアプローチしても仕方ない、こういった文言なら響くからこういったメッセージを打ち出していこう。などメッセージを練って考え、アプローチを変えてきたことでしょう。科学的ではないにしても。

政治マーケティングについては、政治情報に触れられ、より政治を身近にするという意味でメリットもあります。他方、広告費用を出せる陣営のほうが有利になるといった、公平性を棄損するデメリットもあります。

マーケティングに活用すること自体は今後、一層進化することは現実的に避けられないでしょう。それが我々の知らないところで「可視化」され、利用され、その程度が行きすぎたことが問題なのでしょう。

この問題、筆者の所属する日本公共利益研究所でも情報の消費行動について研究していますし、今後もウオッチしていきます。


西村健
西村健

人材育成コンサルタント、オムニメディア代表、NPO法人日本公共利益研究所(JIPII:ジピー)代表、一般社団法人日本経営協会講師、未来学者。
慶應義塾大学院修了後、アクセンチュア入社。 その後、日本能率協会コンサルティングで経営・業務改革、人材育成、能力開発を支援してきた。独立後、人事評価制度構築・運用、キャリアカウンセリングなどのコンサルタントとして活動中。最近はプレゼンテーション向上、モチベーション施策などに注力。

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