良いポピュリズムと悪いポピュリズム


議会制民主主義の限界について

観念的に言えば、民主主義は多数決で物事を決めるプロセスであり、自由主義は個々の意見を尊重する考え方(小さな政府に繋がる)のことです。

議会制民主主義は議会における議決によって民主主義を担保し、議会における自由な質疑応答によって自由主義を担保してきました。しかし、行政国家化によって議会自体が骨抜きにされることによって、議会は行政当局による法案の追認機関と化してきました。

行政権を見張るはずの立法府は政府からの利権を求める行政府に陳情を代弁するだけの組織に堕しており、議会制民主主義は既に死に体であるということも間違いありません。

したがって、政治的な意思決定と切り離された人々の苛立ちが高まることによって、世界中でポピュリズムが発生していることには同意します。そして、それらは議会制民主主義というよりも直接投票による大衆の歓呼によって出現しやすい状況となっています。

この状況はナチスドイツが出現した際にも見られたものであり、この大衆の歓呼をしてポピュリズムと看做すのであれば、ポピュリズムが危険なものであることは同意します。

悪いポピュリズムと良いポピュリズム

しかし、既に行政国家化とそれに反発するポピュリズムの発生という政治的状況について、私たちはそれらから逃れることはできません。この状況は所与のものであり、その中でベストを尽くすことを考えていくべきだと思います。

したがって、悪いポピュリズムと良いポピュリズムは何か、ということを考えることが重要です。

筆者が考える悪いポピュリズムとは、行政国家が残されたまま、為政者が民衆の願望を叶えるために、政府組織・権限を際限なく肥大化させていくタイプのものです。つまり、ナチス・ドイツが典型的な行政国家ということになります。

現在の日本も与党も野党も「空気を読みながら」バラマキ・増税志向の大きな政府を志向しているので、既に議会制民主主義は死んでいて静かなポピュリズムが進行しているとも言えます。日本では、政府に対する自由とは何か、ということがほとんど政治的なテーマにすらならい状況です。

既に行政国家として肥大化の極致に達しつつあるからこそ政策論争などが起きず、毎日のようにどうでも良いセクハラスキャンダルの話を国会で行っていることになります。

これは悪いポピュリズムの典型だと思います。

筆者が考える良いポピュリズムとは、行政国家を解体過程に乗せて民衆が自分の生活の自己決定権を取り戻すタイプのものです。残念ながら、既存のポピュリズムではあまり見かけることがないタイプではあるものの、私たちが目指すのはこちらのタイプのポピュリズムであるべきでしょう。

むろん、良いポピュリズムは、ハイエクが主張する「法の支配」のような考え方を重視するものであり、悪いポピュリズムに走らないように民衆が歴史や思想を深く理解することが重要になってきます。

少々理想的に過ぎるかもしれませんし、それが歴史上困難なプロジェクトであっても、そちらを志向する人々がどれだけいるかで人々の盛衰は変わるものと思います。

民衆の中に保守主義を根付かせることができるか

議会制民主主義がある程度機能してきた国では、民衆の代表がポピュリズムによって政権を取ったときに行政国家に対する歯止めを機能させようとする動きが出るかもしれません。

代表的な国は米国であって合衆国憲法の構造も然ることながら、合衆国憲法を信棒する米国民は必然的に法の支配を志向する傾向があるからです。

実際、米国の共和党保守派を中心に腐敗している立法・行政の双方の権限を縮小し、人々の自己決定権を取り戻そうとする主張が激しく喧伝されています。これらは良いポピュリズムとして議会制民主主義の機能を取り戻していくことにも繋がるかもしれません。

一方、欧州のポピュリズムは行政国家化が非常に進行している上に、EUによる更なる中央集権化後の社会に起きているものです。また、その国々の根幹にも自由主義や法の支配が必ずしも共有されているわけではありません。したがって、悪いポピュリズムに走る可能性が高いです。

その結果として極右や極左が台頭することで、EUから自己決定権を取り戻すと同時に、多くの国民が自らが選んだ為政者によって自国内で人生の意思決定権が奪われていくことを体験することになるでしょう。

悪いポピュリズムに走る国は歴史の流れの中で衰退し潰れていくしかありません。これは避けようがない現象であり、ポピュリズムは行政国家化した政府に対する一つの薬でしかなく、その結果が薬物依存患者の国になるのか、それとも健全な人々の国になるのかは、同国民の意志にかかっています。

つまり、民衆の中に保守主義を自生的に根付かせることができるかどうかが重要なのです。

 


渡瀬 裕哉
渡瀬 裕哉

パシフィック・アライアンス総研所長
早稲田大学大学院公共経営研究科修了。トランプ大統領当選を世論調査・現地調査などを通じて的中させ、日系・外資系ファンド30社以上にトランプ政権の動向に関するポリティカルアナリシスを提供する国際情勢アナリストとして活躍。ワシントンD.Cで実施される完全非公開・招待制の全米共和党保守派のミーティングである水曜会出席者であり、テキサス州ダラスで行われた数万人規模の保守派集会FREEPACへの日本人唯一の来賓者。著書『トランプの黒幕 共和党保守派の正体』(祥伝社)は、Amazonカテゴリー「アメリカ」1位を獲得。主なメディア出演実績・テレビ朝日「ワイド!スクランブル」、雑誌「プレジデント」「ダイヤモンド」など。

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