自治体シンクタンクが担うべき「真の役割」とは何か


地方自治体が政策立案力を高めるために「自治体シンクタンク」を作ってみたが・・・

現代社会では、地方自治体は様々な環境変化(都市間競争、財政難、少子高齢化、分権改革、市町村合併、その他諸々)のプレッシャーを受けており、それらの課題解決のための政策形成を実行することが課題となっています。

それらを解決するための方法論を見出すために、地方自治体独自の公共政策を立案・提言し、当該地方自治体の政策形成能力の質の向上などに資することを目的として、地方自治体が自治体シンクタンクを設立し始めて長い月日が経ちました。(○○研究所みたいな名前のものです)

自治体シンクタンクで一生懸命取り組まれている研究員の方がいることは存じていますが、私見では本来は企画課が実行すべき事業を外部にアウトソーシングしただけのように見えるものが多いことも実情です。

優れた外部研究者や知見ある住民を登用するための仕組みとしては有効な面もあると思いますが、そもそも本来のシンクタンクの設立目的が漠然としているために、今後の方向を思案しているのが現状といったところではないでしょうか。

そもそも「シンクタンクが何を研究すべきか」を分かっていないという課題

私は元々ブームのような形で設立された自治体シンクタンクが多かったと推測しています。そのため、自治体シンクタンクの研究内容も極めてバラバラの傾向があります。強いて言うならば、上述のとおり、本来は企画課が担っていたような計画・行革に関する研究領域のものが多い傾向にあります。

なぜなら、地方分権が叫ばれて久しい状況となりますが、実際には権限・財源などが中央に集まったままの状態が続いているため、地方自治体が自ら何をやるべきかを考えたところで大きなインパクトをもたらすことができないからです。自治体関係者は大きな声では言えないと思いますが、自治体シンクタンクが「何を研究すべきか」ということが最大の課題となっていても過言ではないでしょう。

これらの状況は我が国の地方分権が幻想のものであったことを反省することによって正していくことが可能です。そして、重要な権限・財源についてはほとんど分権化されていないという認識を持つことで、自らが何を世の中に問うていくべきかを自覚することができると思います。

自治体シンクタンクは「規制の隙間に存在するグレーな領域を合法化すること」が仕事だ

自治体シンクタンクが活躍すべきであった対象として、最大の好例は大田区で制定された民泊条例を挙げることができると思います。

民泊条例が制定される以前、既に日本国内ではネット仲介のAirbnbや単なる個人民家の貸出などを通じて、ホームシェア(民泊)は定着しつつありました。これらが旅館業法から見れば、違反スレスレのグレーな領域のビジネスではあるものの、新経済連盟の提言によると、日本全国で自由化・合法化した場合は10兆円の経済効果があるものと推計されており、ビジネスとして非常に裾野が広いものになるはずでした。

民泊を正式に法的に認める特区が制定されたとき、メディは「民泊解禁!」と大々的に報道しましたが、民泊の最低条件は6泊7日以上に限定されてしまったことで、従来までのネット仲介・個人運営の民泊は法的に禁止されることになり、むしろ新産業の芽が摘まれる結果が生まれました。

仮に自分が東京23区のシンクタンクを持つ区長であれば、当該自治体は大田区よりも短い1泊2日からの宿泊などを解禁する特区案を策定し、大田区と比べた経済効果・治安推移などを図ることを提案したと思います。そうすることで、区内に確立し始めた新たなビジネスの芽を守り、区民の経済・雇用を発展させていくための施策を実行することができるからです。

つまり、未だ地方分権が不十分な日本において、中央政府に対して政策の論理性で勝利し、経済的な自由を勝ち取ることが自治体シンクタンクの役割ということになります。

自治体シンクタンクを活性化するためには法人税・所得税の地方税化が不可欠

地方自治体が規制緩和などの構造改革に積極的に取り組まない問題は、経済成長に連動する法人税・所得税の大半が国税に入ってしまう現在の税構造に理由があります。

現状の税財政の構造は依然として地方自治体は国に多くの財源を依存しており、増大し続ける社会保障費に押しつぶされそうになっているだけです。そのため、自治体シンクタンクの研究内容は前向きで具体的なものではなく、いかにも企画課から生まれてきそうな抽象的で漠然とした即効性が薄いものばかりになるのです。

税財政の構造を変えて地域経済の成長と地方自治体の栄枯盛衰を連動させることで、初めて自治体シンクタンクが研究するべき内容が具体性を帯びたインパクトがあるものに変わっていきます。

真の地方分権・規制改革のためには、法人税・所得税の地方税化は不可欠であり、この方法でしか日本の都市経済が再活性化する方法はありません。日本の経済成長が停滞している理由は、中央政府が経済・雇用に関する権限を手放さずに、日本全体に画一的で無意味な経済規制を維持し続けていることにあります。

地方自治体の仕事は、国民に強いている規制の穴を見つけて拡大することであり、むしろ積極的に拡大していくための理論的な根拠を整備することです。民間人だけでは強力な規制権限を有する中央政府に太刀打ちすることは困難だからです。

社会保障に関する問題は中央政府によるものとして明確に切り分け、地方自治体は各地域の経済と雇用に関して責任を持つものとして再定義することが望まれます。


渡瀬 裕哉
渡瀬 裕哉

パシフィック・アライアンス総研所長
早稲田大学大学院公共経営研究科修了。トランプ大統領当選を世論調査・現地調査などを通じて的中させ、日系・外資系ファンド30社以上にトランプ政権の動向に関するポリティカルアナリシスを提供する国際情勢アナリストとして活躍。ワシントンD.Cで実施される完全非公開・招待制の全米共和党保守派のミーティングである水曜会出席者であり、テキサス州ダラスで行われた数万人規模の保守派集会FREEPACへの日本人唯一の来賓者。著書『トランプの黒幕 共和党保守派の正体』(祥伝社)は、Amazonカテゴリー「アメリカ」1位を獲得。主なメディア出演実績・テレビ朝日「ワイド!スクランブル」、雑誌「プレジデント」「ダイヤモンド」など。

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