日本政府は「核武装の可能性」を声高に叫ぶべきだ



出典:『イランが核兵器作ればサウジアラビアも「すぐそうする」=サウジ皇太子』BBC,2018年3月16日

朝鮮半島情勢の急展開を受けて、安倍首相はトランプ大統領や文大統領に拉致被害者の救出をお願いしてきました。しかし、このままでは拉致問題についてリップサービス以外の成果を得ることは極めて困難でしょう。いずれの国も自国の一大事に際して他国の拉致被害者に関して配慮する余裕があるとは思えません。(日本政府は穏便なやり方でトランプ大統領を動かしたいならば中間選挙に直接的に影響を与える手法を取るべきです。)

そして、何よりも問題なことは、表面上の非核化宣言を通じて「朝鮮半島に日本を標的とした核兵器が残存するにも関わらず、米中朝韓の間で実質的な平和協定が締結される事態」が発生しそうだということです。南北首脳会談について、安倍首相は「北朝鮮を巡る諸懸案の包括的な解決に向けた前向きな動きと歓迎する。北朝鮮が具体的な行動を取ることを強く期待している」という寝ぼけた評価をしています。

朝鮮半島と日本の対比すべきケースとして、中東における核問題であるイランの核問題に対して、その脅威にさらされるサウジアラビアがどのように反応したのかを見てみましょう。

イランが核兵器作ればサウジアラビアも「すぐそうする」=サウジ皇太子(BBC)

BBCによると、CBSのドキュメンタリー番組「60ミニッツ」でムハンマド皇太子は、核兵器を手に入れたいわけではないとしながらも、もしイランが核爆弾を開発すれば、我々もできるだけ早く同じようにするというのは、疑いようがないと述べた、とされています。

これが自国の安全保障に関して当たり前の感覚を持っている責任者の感覚だと思います。日本が朝鮮半島情勢でスポイルされている状況になっているのは「言うべきことを何も言わないから」に他なりません。隣国に核の傘を提供する同盟国までが実質上容認した敵性国家の核が残ろうとしている状況であり、それに対して日本が核武装の可能性を示唆することは当然の権利です。

これだけ自国に不利な国際環境が生まれつつあるにも関わらず、未だに国内では憲法解釈や安保法制の是非のようなくだらない議論を行う勢力が残存しており、自国の安全保障に対してサウジアラビアが主張している極めて妥当な発言すらできないのです。実際に東アジア地域の核ドミノを発生させるかどうかはともかく、敵対国の核を容認するなら自国も当然に核武装する、というブラフとも本気ともとれる発言を行うことで、日本の存在を無視する他プレイヤーの行動に決定的な影響を与えることができるのです。

米国が日本の核武装を容認しないだろうけれども、敵対国と平和協定を結んだ上で更に核を認めつつ、同盟国の核を認めない国は日本の同盟国とは言えません。むしろ、安倍首相がトランプ大統領に伝えるべきことは、日本の核武装の可能性についてでしょう。それによって、米国は拉致問題などについて本当に重い腰を上げざるを得なくなるものと思います。現在の関係国すべてに舐められているコバンザメスタイルの外交姿勢ではこの時局に影響を与えることはできないでしょう。

米国大統領にひたすら追随する外交姿勢は、日本で長期間政権を維持するためには必要な御作法なのかもしれません。しかし、自分の地位を守るために他国に尻尾を振り続けた挙句、自国の安全保障上の脅威が目の前に残る状況を歓迎する、とは何事でしょうか。現在の日本政府が行うべきことは、朝鮮半島情勢について中途半端な強面外交を継続するのではなく、より踏み込んだタカ派姿勢を見せることで各国が日本に配慮せざるを得ない状況を作ることです。

安倍首相には弱腰の外交姿勢を見直し、日本の首相として主張するべきことを述べる勇気を持ってほしいと思います。交渉のテーブルは行儀良くしていれば相手が用意してくれるものではありません。


渡瀬 裕哉
渡瀬 裕哉

パシフィック・アライアンス総研所長
早稲田大学大学院公共経営研究科修了。トランプ大統領当選を世論調査・現地調査などを通じて的中させ、日系・外資系ファンド30社以上にトランプ政権の動向に関するポリティカルアナリシスを提供する国際情勢アナリストとして活躍。ワシントンD.Cで実施される完全非公開・招待制の全米共和党保守派のミーティングである水曜会出席者であり、テキサス州ダラスで行われた数万人規模の保守派集会FREEPACへの日本人唯一の来賓者。著書『トランプの黒幕 共和党保守派の正体』(祥伝社)は、Amazonカテゴリー「アメリカ」1位を獲得。主なメディア出演実績・テレビ朝日「ワイド!スクランブル」、雑誌「プレジデント」「ダイヤモンド」など。

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