クールジャパン最前線~開発途上国のエンタメ難民の光景~ ・第5回 娯楽性と消費モデルの違い


Bazaar Entertainmentの大和田です。当社はスマートフォンが爆発的勢いで拡大する一方、通信や決済のインフラが立ち遅れている開発途上国でモバイルコンテンツを提供するBazaar Platformを提供しています。これまでの連載で、開発途上国ではゲームやエンタメに対するニーズがあるにもかからず、通信インフラと金融インフラの普及が進んでいないため、供給が限られている、いわゆる「エンタメ難民」となっている状況とその背景を紹介しました。

起業間もないころ、大手ゲームメーカーより、あるゲームをお預かりし、配信させていただきました。同社も、世界的に知名度のあるゲームで、グラフィックスも素晴らしく、一人で何時間遊んでも飽きない仕掛けがあり、ユーザーにトライアルとして遊ばせてみても面白いと言いました。私も、過去の実績では世界で数十億円の売上をあげているゲームであり、インドネシア一カ国でも年間数千万円の売上はあるだろうと考え取り組んでみました。

しかし、蓋を開けてみると、初日の売上は数百円しかなく、しばらく様々なマーケティング活動を行ったのですが、売上が改善するどころか、一ヶ月経った頃には売上はほぼゼロの状態になってしまいました。ゲームの出来は素晴らしいのに、なぜ結果が追いつかないのか。私が見てきた開発途上国の「エンタメ難民」は幻だったのか。深く悩む時間が続きました。

ある時、気分転換に映画館に行ったところ、様々なカルチャーギャップを感じました。まずはチケットを買うときです。ペアチケットの価格が非常に安く、パッケージになっているポップコーンの価格を考えると、一人で入るより二人で入る方が割安な状態になっています。また、チケットを購入する際も、係員に本当に一人なのか、と念を押される始末です。まるで一人で映画を見ることを想定していないような状況でした。

次に上映中の映画館の様子も衝撃的でした。皆がおしゃべりをしながら映画を見ているのです。日本では煎餅をかじるだけでもひんしゅくを買うのに、こちらではおしゃべりです。しかも、「あいつが犯人よ!」とか「あの服いいよね」とか、全く映画に集中できる状態ではありませんでした。また、翌日、現地の友人に一人で映画を見に行った話をすると、気味悪がられました。インドネシアでは、映画館は皆で行くものだと教えられました。男が一人で映画館に行くのは、よっぽどのマニアか、何か下心があって行くのではと思われるそうです。

この体験以降、開発途上国に行く度に映画館に通っていますが、だいたい共通して観客はおしゃべりをしながら映画を見ています。映画を見に来ているのか、おしゃべりをしているのか分からない状態です。ちなみにインドの映画館に行った時は、本当に劇場内で観客が踊っており驚きました。

このような体験から考えて、果たして私が届けようとしたコンテンツは、現地のニーズに合っていたのか、と考えるようになりました。誰も映画を鑑賞していないのに、お金を払って映画館に行っている姿を見ると、先進国とはコンテンツの楽しみ方の種類が異なっているのではないかと思ったわけです。

このようなことを言うと日本のコンテンツ・クリエイターの方から怒られそうですが、日本でコンテンツは鑑賞する対象であるのに対し、開発途上国ではコンテンツはコミュニケーションのツールなのではないか、という仮説に辿り着きました。

開発途上国では、一人で黙々と楽しむためのコンテンツよりも、コンテンツをきっかけにコミュニケーションが生まれ、感動を共有できるコンテンツが求められるのではないかと考えました。
そこで、向かい合った友達同士で同時に遊ぶという簡単なゲームを作ってみました。30秒の間に何回スマホをシェイクできるかという簡単なゲームです。

対戦ゲーム写真

実験は成功し、多くのユーザーに遊んでもらい、ゲームに対して課金が発生するという結果を得ることができました。しかも、現地のユーザーが遊ぶことができる金額を1回5円から10円という金額に設定することで、「なにくそ、もう一回!」と言って、継続的に遊んでもらえるゲームとなりました。ユーザーの声を聞くと、日本のコンテンツも凄いが、友達と一緒に遊ぶのがとても面白いという声を多く聞いています。盛り上がるし、次は勝てるかもしれない、というこれまでのゲームにはない、続けて遊ぶ楽しみがあるということです。

このようなコンセプトのゲームは、これまでの日本のゲームの開発モデルとは異なり、開発途上国の市場環境に適したゲーム開発モデルなのではないかと考えています。
今の日本のスマホゲームは、お客様の鑑賞に耐えられるように、グラフィックスに膨大なリソースを割いています。また、簡単に飽きられないように、様々な利用シーンを想定しながら多くのステージを用意します。さらに運営といって、継続して遊んでもらうために、日々のデータを見ながら飽きさせないための様々なイベントを実施したり数値の調整を行なったりしています。

つまり、作り手が自らの手でゲームの全てを担う、ユーザーは座って遊んでいればよい、という鑑賞型の作品制作モデルです。その結果、素晴らしいゲームは完成するのですが、非常にコストが高く、日本の10分の1の所得水準の国で提供する場合では採算割れしてしまいます。一方で、当社が開発したゲームは、これまで作り手が担いゲーム内にあった多様性や複雑さは切り捨て、それらはユーザーの手に委ねています。具体的には、先ほどのシェイクゲームですが、ステージは1つしかありません。継続して遊ぶ楽しさは、ゲームを介したユーザー間のコミュニケーションが担っているのです。非常に安価な開発コスト、運用コストとすることで、開発途上国の消費金額でも十分に回収できるゲームを開発することができました。

どのような商売でも、何をお客様が求め、何に価値を見出し、なぜお金を払っているか理解することは最も重要なことですが、ことコンテンツ生産国である日本人は、日本で出来上がったものをどう売るか、に頭が行きがちです。いわゆるプロダクトアウトの発想です。

他の業界の事例を見ても、開発途上国においてプロダクトアウトで成功した事業は少なく、消費者のニーズにあわせた商品の提供を行うマーケットインが多く成功しているように見受けられます。コンテンツにおいても、「Japan contents as No.1.」ではなく、マーケットとの対話を通じたコンテンツの開発が重要なのではないでしょうか。日本のコンテンツの企画力や開発力は世界一ですので、開発途上国を理解し、消費者に思いを寄せることで、必ず開発途上国のユーザーの心を掴むコンテンツを提供できると信じています。


大和田健人
大和田健人

Bazaar Entertainment Ltd.グループ CEO
慶應義塾大学政策・メディア研究科修了。大学院在学中より株式会社ソニー・コンピュータエンタテインメントでゲーム開発に従事。PlayStationの中国事業立ち上げメンバーとして2003年から約10年に渡り中華圏に駐在。マーケティング担当者として中国100都市、1000店舗の海賊版業者を訪問し、実態解明と正常化のための取り組みを実施。また、法律で輸入販売が禁止されていたPlayStationの合法化に向けて中国政府と交渉を行い、2012年に販売許可を獲得した後、同社を退社。1年間の放浪の後、2014年に開発途上国へのコンテンツ提供プラットホームを提供するBazaar Entertainmentを起業する。現在はインドネシア共和国バンドン市在住。

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