オープンガバメント通信(第1回) 


(オバマ大統領(当時)の大統領覚書)

「オープンガバメント通信」と題して、これから全6回の予定で、オープンガバメントに代表される電子行政や電子政府と呼称される分野における動向について紹介していきたい。

まずは、多くの読者には「オープンガバメント」という用語自体が初見である可能性もあることから、この用語について言及することから始めたい。

オープンガバメントは、オバマ前大統領が大統領就任時に署名した覚書「Transparency and Open Government」 を始原とする。それまでも、政府を開かれたものにするという趣旨で情報公開制度の整備という文脈の中で「open」と「government」が関係付けられて語られることはあったが、明確に政府の方針として「open government」が掲げられたことでオバマ政権は注目を集めた。この覚書の冒頭で、「unprecedented level of openness in Government」を創ると宣言している。前例のない公開性が民主主義を強化し、政府の効率性と有効性を向上させると言うのである。
以後、このオープンガバメントの語は世界的にも使用されるところとなる。例えば、日本政府にあっては2010年の「新たな情報通信技術戦略」の中で、オープンガバメントの推進が謳われている。

開始時が鮮烈であったこともあって、オープンガバメントはオバマ政権特有の取り組みに過ぎないと思われてしまうこともある。実際、トランプ大統領の就任時には、オープンガバメントの一環として取り組まれた施策は止めてしまうのではないかという声も聞かれた。しかし、そのような認識は大きな間違いである。トランプ大統領になったからと言って、全面的に停止されるような性格の取り組みではない。というのも、オバマ政権におけるオープンガバメントは、それまでの歴代の政権の取り組みの蓄積の上に成立しているものであり、大統領が変わったからと言って直ぐに全て否定されてしまうような底の浅い取り組みではないからである。その証左として、オープンガバメントの代表的な施策の一つであるデータカタログサイト「data.gov」は、トランプ大統領就任後も稼働を続け、収録されるデータセット数も着実に増加している。

覚書で謳われた民主主義の強化と政府の効率性や有効性の向上は歴代の大統領も何らのかたちで標榜していたものであり、トランプ大統領もそれは否定していない。むしろ、政府の効率性や有効性の向上はことある事に強調されている。

オバマによるオープンガバメントの取り組みは、クリントン政権下で開始された電子政府の取り組みが土台には存在している。端的に、電子政府とは政府におけるICTの利活用の促進であるとここでは定義しておくが、電子政府の延長線上にオープンガバメントは位置付けられるのである。

ここも日本では誤解されているところで、電子政府の取り組みはクリントン政権から次のブッシュ政権への政権の交代で断絶したと思われがちだ。しかし、実態としては、その取り組みは歴代の政権下で継続され、特にブッシュ政権では省庁内での電子化の取り組みの深化が見られた。政府の組織内の取り組みであり、外からは分かり難かったため、その評価はアメリカ国内でも高くないようだが、ブッシュ政権下で行政の電子化が着実に進められていたのである。次回以降に紹介するオープンデータの取り組みは、オバマ政権下の代表的な施策となるが、これもクリントン政権からブッシュ政権へと政府内におけるデータの収集や管理が的確に行われてきたという土台があってこそ実現した取り組みである。

この12月に、日本政府はオープンデータの取り組みの一環として行政保有データの棚卸し結果を公表した。行政が保有するデータを改めて確認したわけだが、このような行政による保有するデータの洗い出しはブッシュ政権で既に行われていた。さらに付け加えると、アメリカでは1900年代初頭から、各種の記録や報告書、郵便物などの文書の効率的な処理が模索されるなど、政府における情報管理のあり方が常に検討されてきた。各種法律の制定などもなされており、後のクリントン政権下での電子政府政策にも影響を及ぼすことになる文書業務削減法は1980年に制定されている。

先日、安倍総理が行政手続における添付書類の廃止を目指すと表明したが、これもアメリカでは1980年の文書業務削減法の制定に至るまでに議論されたことであり、1998年には政府書類業務排除法が成立したため、行政手続における添付書類の有無といったことは既に議論の対象ではない。日本では数週遅れた議論がなされていると言えるだろう。

いずれにしても、オープンガバメントがオバマ大統領になってから突然降って湧いてきた話ではないことに注意が必要である。

オープンガバメントについては、以下の三つの原則が掲げられた。
・透明(Transparency)
・参加(Participation)
・協働(Collaboration)

ICTを最大限活用することにより、上記の三つの原則を満たすことが目指されたのである。しかし、先に紹介した「data.gov」が注目を集め、その結果、世界的にもオープンデータの取り組みが浸透していったため、上記の三原則では透明性の部分が着目されがちであるが、オープンガバメントとは、三つの原則から成るものであることを改めて確認する必要がある。

・オープンガバメント通信(第1回)
・オープンガバメント通信(第2回)
・オープンガバメント通信(第3回)


本田正美
本田正美


東京大学法学部卒、東京大学大学院学際情報学府博士課程単位取得退学。島根大学戦略的研究推進センター特任助教を経て、現在、東京工業大学環境・社会理工学院研究員、東京大学大学院情報学環セキュア情報化社会研究寄附講座客員研究員。専門は、社会情報学・行政学。電子政府に関する研究を中心に、情報社会における行政・市民・議会の関係のあり方について研究を行っている。

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