シーズ志向で市場の創生を目指す・第1回 死の谷とハイプ・サイクル


The Urban Folks読者のみなさん、はじめまして、エヴィクサーの瀧川と申します。現在、筆者自身、シーズ志向でビジネスに取り組んでいる真っ只中の当事者です。エヴィクサーは、音の信号処理をコア・コンピタンスとする技術ベンチャーで、10数名程度のエンジニアがアルゴリズムから独自に研究開発に取り組み、ACR(自動コンテンツ認識)、音響通信といったソリューションを提供しています。

「シーズ志向で市場の創生を目指す」と題した本連載では、かねてよりMOT(Management of Technology)やエフェクチュエーション(※2008年にサラス・サラスバシーによって提唱された、起業家にとって有効な市場創造の実行理論であり、発表以来注目を集めている)などで議論されてきた、技術や特徴を起点としたビジネスをどう進めるかについて、当事者ならではの視点で考えていきたいと思います。

第1回のタイトルは「死の谷とハイプ・サイクル」です。
これは、少しアンチテーゼ的なタイトルです。

「死の谷」とは、新しい技術を世に出す困難さを、カリフォルニア州のDeath Valleyにちなんで呼んだのがはじまりとされていますが、今では技術ベンチャーの立ち上げでよく指摘されるキーワードです。

もう少しお金があれば、もう少し早くユーザーが見つかれば、もっと早く事業を始めていれば等、事業が中座する要因や理由は、社内外に、そのケースごとにいろいろ存在するでしょう。たとえば、その際に、「死の谷」を乗り越えられずに失敗した、という表現をされたりするかもしれません。

立ち上げ期のベンチャー企業は大概、ないものづくしで、足りないものだらけです。シーズ志向、すなわちニーズが顕在化していない技術に関する事業の立ち上げでは、どの時期から十分に安定した売上が立ってくるかは予想しにくく、ないものを補うといってもかけられるコストに限界があるでしょう。

この不確実性が大きい中で、マネジメントチームは、コスト先攻でもニーズを掘り起こすために必要な投資の意思決定を行います。これこそが技術ベンチャーの醍醐味でもあるわけですが、やはりコスト先攻では目に見えてキャッシュが減っていく過程を経験するわけで、より一層「時間との戦い」というイメージが強く感じられるでしょう。

シーズ志向では、ニーズを掘り起こすフェーズが長いと、売上計画の根拠に乏しく、砂上の楼閣のような事業計画で、毎月軌道修正して精度を高めていくような試行錯誤の連続です。何を優先的に検証すべきか、判断がつかないこともしばしばあると思います。これを時間との戦いの中で冷静に行うのはなかなかタフと言わざるを得ません。まさに、「死の谷」とはこういった一連のことを指していると言えます。

では、どうやって「死の谷」にトライすればよいのか。これは永遠のテーマでしょうが、ここではまずその準備を紹介します。社内向けと社外向け、それぞれありますがシンプルです。

社内向けにはまず、自社や自社のチームが持つ技術や優位性を徹底的に分析し、何が競争の源泉力なのかを明文化することです。これは、要素ブランディングやエンジニアリング・ブランド(※2005年に小平和一朗によって提唱された、潜在的技術や具現力を見える化・ブランディングする経営アプローチである)と言われる「技術の見える化」の初歩です。ここはユーザー目線よりも、自分たちの持っている潜在的な具現力をチームで共有するのがねらいです。戦う武器を明らかにするわけです。

社外向けには、いろいろと議論があるでしょうが、「イケてる技術」に仕立てる戦略を立ててはどうでしょうか。どんなに優秀なコンサルタントや投資家でも、次にこれが来るぞ(いろいろな意味でこの技術で稼げるぞというニュアンスも含みます)という技術を要素技術のレイヤーから見分けるのは至難の業です。また、それが出来たとしても再現性もなく、あまり意味をなしません。したがって、うまくトレンドに乗る、もっと言えば、うまくトレンドを扱って、自社の技術を押し上げていく仕掛けに取り組んではどうでしょうか。

さて、そこで、今回のタイトルのもう一つのキーワード、「ハイプ・サイクル」の話をします。「ハイプ・サイクル」とは、ガートナー社によって1995年以来毎年1回発表される、新技術のトレンドを示し新技術のマーケティングで取り上げられることがもっとも多い図の一つです。技術ベンチャーに関係する経営者や投資者の方であれば、一度はその技術が「ハイプ・サイクル」のどのフェーズに位置しているかなど、議論したことがあるという人は結構いらっしゃるのではないでしょうか。

ここでは、「ハイプ・サイクル」の有効性は議論しません。どちらかというと、権威あるコンサルティング会社が毎年発表し、日本国内ではそれなりに注目されるという点を重視しています。筆者自身、毎年発表されれば注意深く確認しますが、今どんな技術が注目されているのかを鳥瞰するだけで、数年前と比較してどうだとか、この予測は正しかったか、などに関心はありません。

また、自社の技術がセグメントされる技術の名称が、仮にこの図に入っていなくても気にしないでください。それよりも、自社と組める他の技術やトレンドを探すヒントにこの図を活用するよう心がけることが大切です。

第1回は、アンチテーゼ的なタイトルを設定しました。イノベーションは非常識な発想から生まれるとも言われますが、思い込みを打破する、そういった意識が大切だと思います。出来ないことよりも出来ることを考え実践するしかありません。


瀧川淳
瀧川淳

技術ベンチャー創業経営者 エヴィクサー株式会社 代表取締役社長
2004年3月、エヴィクサー株式会社を設立。2008年ころより、業界に先駆けてACR(自動コンテンツ認識)技術、音響通信技術を開発し、テレビ放送局、大手広告代理店、映画会社、舞台のセカンドスクリーン、O2Oの取り組みで数多くの実績をもつ。要素技術の事業化、シーズオリエンテッドのビジネスモデルをテーマとした講演多数。2017年に第29回「中小企業優秀新技術・新製品賞」ソフトウエア部門で優秀賞、「MCPC award 2017」サービス&ソリューション部門で特別賞、「2017年 世界発信コンペティション」製品・技術(ベンチャー技術)部門で東京都ベンチャー技術優秀賞を受賞。2003年3月、一橋大学商学部卒。2017年より一般社団法人日本開発工学会理事を務める。

瀧川淳の記事一覧