政策シンクタンク論・第1回 その定義と機能から考える日本の政策形成および政治システム


1.はじめに

私は、日本において、政策研究や政策に関わり始めたのは、1980年代の半ば以降だ。そのきっかけは、当時政府のシンクタンクといわれた総合研究開発機(NIRA)および自民党の派閥横断型の当時の若手議員たちの政策グループに関わったことである。そこでの活動などを通じて、日本の政治家(主に国会議員)・政党や立法府における政策形成能力が脆弱であることに気づいた。
そして、その問題解決として、政策シンクタンクの設立が必要であるという結論に至ったのだ。当時は、政策シンクタンクを設立していくことで、日本の政策形成の問題を解決できるのではないかと高を括っていた。だが、それは日本の政治や政策形成過程を十分に理解していなかったということであることが、後に思い知らされることになる。他方で、そのことは、日本において政策シンクタンクの必要性や重要性を意味しないことではないということも申し上げておきたい。本稿では、以上のような観点を踏まえて、日本における政策シンクタンクについて論じていくものである。

2.政策シンクタンクの定義と機能

筆者は、日本国内以外のシンクタンクの関係者や政策関係者との交流、そして自らその設立と運営に関わった政策研究機関での経験から、「政策シンクタンク」を次のように定義している。

「民主主義社会で、政策の執行者ではないが、アカデミックな理論や方法論を用い、適正なデータに基づく科学的な政策形成のための実効性ある政策的な助言や提案、政策の評価や監視役等を行い、それらを通じて政策形成過程あるいは政策市場において、多元性と競争を生み、市民の政治参加を促進し、政府の独占の抑制を図る」組織。
この定義は、別の言い方をすると、「政策シンクタンク」は、「政策の非執行者」であり、「アカデミック」な知見を踏まえて、「政策研究」を行い、「政策形成過程に多元性・競争性・競争をもたらす」と共に、セクターや組織の違いを超えてそれらを結び付ける「インターミィデアリー(仲介機関)」であり、「知(学問、理想)と治(政治、政策、現実)を結ぶ装置」、つまり「民主主義の装置」であるということである。

また政策シンクタンクの機能としては、次のようなことが考えられる。

(1)活動
①専門性に基づく議論、研究の機能、アジェンダ設定(政策議論へのリードタ
イムの創出)
②代替案作成機能  問題解決と新しい社会への対応
③評価者、監視者としての機能 社会におけるカウンター&チェック&維持
(2)人材
①人材プール機能、人材に場を提供する機能
②フォーラム、ネットワーク、インターミデアリー、ブリッジとしての機能
(3)知識・情報・啓発
①知識の向上と普及機能  ②情報の社会的蓄積  ③教育・啓蒙機能
④翻訳・通訳機能  ⑤市民の参加促進機能

3.定義や機能から見えてくる日本の政治システム

以上で述べたような定義や機能を厳密に当てはめていくと、現在の日本には、政策シンクタンクはほとんど存在しないことになる。

そのことは、逆説的にいうと、政策シンクタンクのような政策形成過程に多元性や競争を生み出す仕組みなしで、日本は民主主義を運営できているのかという、疑問を想起させる。

今後本連載において、この問題についても考えていくことになるが、結論を先に述べれば、日本は形式的には民主主義の国であるが、その実態としては民主主義を十分に発展させてきた国なのではないといえるのではないかと思う。別言すれば、民主主義は、その本来の意味からすると、絶えず更新して政治のシステムであるが、私たち日本人はその努力を怠っていて、日本的な民主主義を確立していく努力を怠ってきているということができよう。そして、政策形成プロセスも、多様な政策プレーヤーが競争しながら政策形成に関わるという民主主義的なものに必ずしもなっていないといえるのである。
それこそが、日本においてその必要性が長らく叫ばれても、政策シンクタンクがなかなか成長し、影響力を持ちえないことの実態であるといえるのである。

このような日本の政治や政策形成の実態のなか、筆者はこれまでに、少なくも民間の政策シンクタンクである「東京財団(https://www.tkfd.or.jp/)」の設立および自民党の政策シンクタンクである「シンクタンク2005・日本(注1)」の設立と運営に関わってきた。

それらの経験と知見を踏まえて、日本における政策シンクタンクの必要性および課題と問題について、今後論じていきたい(注2)。またそれは、ひいては政策シンクタンクの観点から、日本における民主主義や政策市場の問題について論じていくことになるということを付言しておきたい。

(注1)拙記事「万感の思いで迎える自民党シンクタンク解散(http://webronza.asahi.com/politics/articles/2011022400013.html)(Webronza2011年2月28日)」参照。
(注2)本記事および今後の記事で、もし政策シンクタンクや民主主義について関心をもたれたら、次の論考等をご参照いただければ幸いである。
・’Policy analysis and policymaking by Japanese political parties’(“Policy Analysis in
Japan”) Policy Press(University of Bristol) 2015年
・『できる総理大臣のつくり方』 春日出版 2009年
・『日本に「民主主義」を起業する…自伝的シンクタンク論』 第一書林 2007年
・『シチズン・リテラシー』 教育出版 2005年
・『世界のシンク・タンク』 サイマル出版会 1993年
・「日本になぜ(米国型)シンクタンクが育たなかったのか?(http://www.murc.jp/thinktank/rc/quarterly/quarterly_detail/201102_30/)」 季刊 政策・経営研究 (三菱
UFJリサーチ&コンサルティング) 2011年 vol.2


鈴木崇弘
鈴木崇弘


城西国際大学大学院国際アドミニストレーション研究科教授および「教育新聞」特任解説委員。宇都宮市生。東京大学法学部卒。マラヤ大学、イースト・ウエスト・センター奨学生として同センターおよびハワイ大学大学院などに留学。東京財団の設立に関わり同財団研究事業部長、大阪大学特任教授・フロンティア研究機構副機構長、自民党の政策研究機関「シンクタンク2005・日本」の設立に関わり同機関理事・事務局長、法政大学大学院兼任講師、中央大学大学院公共政策研究科客員教授、東京電力福島原子力発電所事故調査委員会(国会事故調)事務局長付、厚生労働省総合政策参与などを経て現職。91年―93年まで 米アーバン・インスティテュート兼任研究員。PHP総研主席研究員、日本政策学校代表、Yahoo!ニュースのオーサーなども務める。大阪駅北地区国際コンセプトコンペ優秀賞受賞。主な著書・訳書に『日本に「民主主義」を起業する…自伝的シンクタンク論』(単著)、『学校「裏」サイト対策Q&A』、『世界のシンク・タンク』(共に共編著)、『シチズン・リテラシー』(編著)、『アメリカに学ぶ市民が政治を動かす方法』(監共訳)、『Policy Analysis in Japan』(分担執筆)など。現在の専門および関心分野は、公共政策、民主主義の起業、政策インフラの構築、新たなる社会を創出していける人材の育成さらに教育や統治における新システムの構築。

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