デジタル化の進行に税は追い付いていけるのか?

【出典】フリー素材ぱくたそ(www.pakutaso.com)
これまで、仮想通貨の税務について、身近なところから、所得税の確定申告や消費税の非課税のことをお伝えしましたが、仮想通貨やそれを含めた経済のデジタル化に関する税制のあり方や税務当局の動きなどは、当然ながら国内だけでなく、世界中のいろんな国や地域で話題になっています。
例えば、OECDでは、経済のデジタル化が課税上の課題を投げかけているという内容の報告書を公表しています。この報告書は、3月16日にOECDで公表され、3月19-20日のG20財務大臣会合(ブエノスアイレス)に報告されました。
3月のブエノスアイレスでのG20会合といえば、仮想通貨(暗号資産)についてこれからどのように規制されることになるのか、ということで界隈では話題になっていましたが、同じG20会合の中で、OECDの税の報告についても触れられていたわけですね。
そこで、今回の記事は、このOECDの報告書の内容、この報告書が公表された背景・経緯、そして今後の対応などを見ていきたいと思います。なお、参考にしたのは、OECDのこちらのページで公表されているBrief on the interim reportとOECD TAX TALKSのスライドです。
報告書の構成
3月16日にOECDが公表した報告書、原題はTHE TAX CHALLENGES ARISING FROM DIGITALISATION: INTERIM REPORT 2018です。Interim reportということで、中間報告書という位置づけにあるのですね。
この報告書は、概要から今後の作業まで、全体で8つの章から構成されていますが、特に次のことが強調されています。
ビジネスモデルと価値創造の深層的な分析 (In-depth analysis of business models and value creation)
BEPS(税源浸食と利益移転)の実装と影響に関する棚卸 (Stock-taking exercise on BEPS implementation and impact)
長期的な解決方法 (Long term solution)
暫定的な対処方法 (Interim measures)
次の作業 (Next steps)
そして、報告書の主要なメッセージは次のとおりです。
地球規模での包摂的枠組みの中でこの活動に参加すること (Global engagement on the work in the Inclusive Framework)
課税権と利益配分に関する技術的に複雑な問題 (Technically complex questions on taxing rights and profit allocation)
3つの異なる立ち位置 (Diverse positions: 3 broad groups)
暫定的な対処方法 (Interim measures)
2020年までの報告に向けた次の2018年7月の会合 (Delivery by 2020; next meeting in July 2018)
報告書の主な内容
中間報告書の主な内容として、次のようなことが書かれています。
○ まず、経済のデジタル化に対する課税上の対応は、国際的な合意に基づく長期的解決策によって対応することが重要であるとして、今後以下の2つの重要な国際課税原則の見直しを必要に応じて実施することで合意しました。
各国にとって外国法人となる企業に対する課税を決定する場合の指標とされるネクサス原則(「PEなければ課税なし」の原則)
その国において課税の対象となる利得をどのように算定するか、また複数国においてどのように配分するかを決めるアームズレングス原則(独立企業間原則)
○ 次に、長期的解決策が国際的な合意に至るまでの間に、暫定的な対処方法で対応しようとする国があることを踏まえて、その導入に伴う課題を指摘しています。暫定的な対処方法の導入に伴う課題とは、①投資・イノベーション・成長に対するネガティブな影響があること、②課税が重くなり過ぎる可能性があること、③生産への歪みによる影響があること、④消費者や企業に対する租税の経済的帰着が増加すること、⑤法令の遵守及び税務執行にかかるコストが増加すること、です。
○ そして、暫定的な対処方法を導入したい国は、このような課題によるネガティブな影響を軽減する観点から、①国際的義務(租税条約、WTO協定等)の遵守、②一時的な措置であること、③対象を限定すること、④過重課税の最小化、⑤起業やビジネスの創造、小規模ビジネスに対する影響の最小化、⑥コスト及び複雑性の最小化、といった点を考慮する必要がある、としています。
○ 今後の対応として、電子化の価値創造における貢献・役割に対する理解をさらに深めるとともに、様々なオプションの実行可能性を検証するための技術的な対応を検討し、2020年までに長期的解決策の取りまとめに向けて作業を進めるとしています。
報告書の背景
企業の経済活動がグローバルになり、電子商取引も急増するといったビジネスモデルの構造変化が進む中で、これに世界の各国の税制や国際課税ルールが追い付いておらず、多国籍企業の活動実態と税のルールとの間にずれが生じていたこと、またリーマンショックの後に各国の財政状況が悪化し、より多くの国民負担を求める中で多国籍企業の課税逃れに対する批判が高まっていました。
これに対してOECDでは、多国籍企業が課税所得を操作して課税逃れを行うことをBEPS (Base Erosion and Profit Shifting) と称して、これを防ぐため、2012年にBEPSプロジェクトを立ち上げ、国際課税ルール全体の見直しを進めていました。2013年には「BEPSアクションプラン」を公表。そして、2015年11月にこのプロジェクトの最終報告書が公表されています。
(国税庁による解説はこちら)
このプロジェクトには15のアクションプランがあります。その中で、アクションプラン1が「電子経済の課税上の課題への対処」です。この最終報告書の公表のあとに、OECDで引き続きこの課題に対して検討が進められていました。そして、2017年3月のG20財務大臣会合(ドイツのバーデンバーデン)の共同宣言で、電子化に伴う課税上の課題に関して2018年春までに中間報告書を提出することとされていて、これを受けて今回の報告書の公表にいたっています。
まとめ
インターネットを含む電子取引と課税の問題は、1990年代後半から議論になっていました。外国法人の活動の拠点がどの程度のものであればその拠点が存在する国に課税権があるのか、という恒久的施設の概念の議論、外国法人に対して支払われる所得の種類によって源泉徴収の有無や税率が異なるという問題、財やサービスの消費地と事業者の所在地に係る消費税の問題などです。議論は続くものの、結論に至るまえに実際の商取引が先に進んでしまうというのが現実でした。
そして、OECDの報告書の中でも触れられていますが、ビットコインのような仮想通貨に見られる非中央集権型の価値移転の仕組み、スマートコントラクトやdappsといった自律分散型システムが表れてくる中で、税制はどのように対応するのか。単に税制の仕組みだけの話にはとどまらない、国の在り方にもつながる大きな議論だと思います。