トランプ大統領の地球儀外交(2)2019年以降のトランプの東アジア外交を予測する


◆トランプの東アジア政策を理解するためのポイントとは

トランプ大統領は近年稀に見る東アジア地域に関心が高い大統領です。米国大統領の外交・安全保障上の関心事は、欧州・ロシア・中東・南米に割かれることが多く、ほぼ地球の裏側に位置する東アジア地域への関心は貿易問題を除いて伝統的に低い傾向があります。その中でトランプ大統領の東アジア地域への外交・安全保障上の認識は極めて強く、もちろん貿易問題への関心も強い状況となっています。

しかし、その関心の構造は歪なものとなっています。特に中国に対する対応は、幾つものアンビバレンツな様相を持つものになっており、一貫したものになっているように思えません。たとえば、中国に対して不公正な貿易慣行や知的財産の取り扱いを是正するように求めながら、中国にそれらを是正する動機付けの1つとなるTPPからは撤退した状況となっています。これらに矛盾した行動は何故発生するのでしょうか。識者らは「トランプは予測不能」と評していますが、それは全くの間違いであり、下記にトランプ政権の「東アジア政策」を理解するための認識を説明していきます。

◆2017年・18年の東アジア政策における「トランプ」「共和党」の「呉越同舟」

現在の米国政権は言うまでもなく「共和党」の「トランプ大統領」です。大統領と上下両院の多数派が一致した状況となっています。しかし、「共和党」と「トランプ大統領」の東アジアに関する関心事項は明確に異なります。そして、その動機の異なる二者が同じ米国政府という船に乗って東アジアに来襲しているために、その行動を読み解くことが難しくなっています。トランプ大統領と共和党の各々の動機は下記の通りです。

トランプ大統領・選挙重視

(1)最重要目標は中間選挙での勝利であり、特に議席が拮抗している上院での勝利を重視している。
(2)2018年の上院・中間選挙の製造業州・エネルギー関連州などの支持率を重視。(民主党圧勝時の改選)
(3)2018年初頭の大統領への不支持率が高いものの、経済政策の支持は良好、外交政策の支持は低調。

共和党・利益団体及びイデオロギー重視

(1)中間選挙の勝利という動機はトランプ大統領と同様。ただし、下院議員の当落は各地域の利益団体の熱心さに次第。
(2)競争力が高い農業州が基盤、エネルギー開発業者も支持、原則として自由貿易に賛成。
(3)対中に対しては「知財」「サイバーセキュリティ」「台湾支援」の3点にこだわりを持っている。
(4)イデオロギーとしては愛国精神に基づく「軍拡・反共・親イスラエル」、東アジアよりも中東に関心がある。

トランプの都合+共和党の都合=東アジア政策のアウトプット

両者の間には共通点というよりもコンフリクトが多い状況ですが、所属政党が同じであるため、両者の間の政策が個別にお互いの主張に反対するのではなく上乗せする形で出てきています。その結果として、トランプ政権の対中政策は従来よりも遥かに厳しいものになっている状況です。つまり、

トランプ(貿易戦争=関税)+共和党(知財・サイバー・台湾+軍拡)=現在のトランプ政権の対中強硬策

ということになります。TPPから撤退(トランプ都合)し、対中関税(トランプ都合)を仕掛け、関税や買収阻止の理屈が知財・鉄鋼(共和党都合)やサイバーセキュリティ(共和党都合)となり、中国への交渉圧力(トランプ都合)として台湾支援強化及び軍事費増・軍近代化(共和党都合)が使われており、中国に米国からのエネルギー資源を買わせる(共和党都合)・日本にFTAで農業開放を迫る(共和党都合)ということになります。両者がお互いの主張に配慮し、コンフリクトは棚上げして対中政策で便乗できるところに乗っかるという形です。

北朝鮮問題については本土に届くミサイル以外には関心が低く、北朝鮮相手では軍拡の対象ともなり得ないので、中東地域にコミットするために邪魔な厄介事としてしか考えられていません。台湾と比べても直接中国と対立しているわけではないので、上記の対中圧力としても使いづらい案件です。したがって、北朝鮮には圧力をかけて早期に対話の場に引き出して外交決着を図るという選択になるのです。

◆2019・20年のトランプ政権の東アジア政策の見通し

さて、今後のトランプ政権の東アジア政策を予測する上では、2020年の大統領選挙及び連邦議会選挙(特に上院)について理解する必要があります。

2020年の上院の改選州の大半は中西部の農業州です。そして、前回は共和党が大勝した際の改選州ということになります。つまり、全体的な選挙基調としては「自由貿易」や「農業輸出」が選挙戦のテーマとなってきます。2016年大統領選挙や2018年中間選挙(上院)に必要とされる主張とは真逆ということです。

2018年中間選挙の結果次第ではありますが、トランプ大統領の保護主義的な政策への風当たりは強くなります。そのため、トランプ大統領としては何としても2018年、遅くとも2019年の早い段階で対中貿易戦争(関税)に関してはある程度片づけてしまう必要があります。なぜなら、中国や日本などのアジアの消費地に農業開放を強く迫る立場になるからです。

したがって、2018年の政策を通じて対中東政策を通じて油価が上昇し、対中政策及びエネルギー改革で米国の製造業の競争力が向上した場合、上記で触れたトランプの動機に変更が加わることになります。東アジアに対しては製造業を保護することではなく農業開放が争点となるため、中国とは農業への関税を回避する動きに移り、更に日本への開放圧力は強まることになるでしょう。トランプ大統領は現在とは一転して「自由貿易の擁護者」として振る舞い始める可能性が高いと思います。つまり、トランプ大統領と共和党の「呉越同舟」は解消されることになります。

ただし、外交・安全保障は共和党都合であるため、国家防衛に関する知財・サイバーの様々な個別の買収差し止めなどは継続・増加し続けることになるでしょう。また、中国のグリーン産業は米国のエネルギー産業の天敵であるため、同分野に関する輸出規制などについては緩和されるとは思えません。

北朝鮮情勢についてはペンス副大統領の地盤を継いだルーク・メッサー下院議員らが2019年のノーベル平和賞にトランプ大統領は正式に推薦したように既に手打ちモードであることは明らかであり、2019年以降は東アジアの危機は「台湾有事」に移行していくことになります。米国は台湾旅行法制定、大規模な外交施設の開設、潜水艦売却検討だけでなく、場合によっては米軍の台湾駐留を主張する声もあり、同地域を巡って米中対立は深刻なものになると思います。

また、中国は限られた国力で、東アジア地域だけでなく中東情勢の混乱対応にも外交・軍事力を割く必要が生じることから、東南アジア各国への軍事的圧力が緩和し、逆に東南アジア各国は対中を意図した軍拡意欲を高めていくことになります。したがって、中長期的には東アジア・東南アジアの安全保障環境は一層悪化していくことになります。そして、これは武器輸出などを念頭に置く共和党政権にとっては渡りに船の状況と言えます。

以上のように、2019年以降は東アジアの舞台は、貿易摩擦は「農業」、外交・安全保障は「台湾・南シナ海」に移行していくことが予想されます。トランプ政権の東アジア政策を理解するためには、トランプ大統領の「選挙」を動機とするものか、共和党の「利益団体・イデオロギー」を動機とするものか、を峻別し、その継続性・変更可能性を検討することが必要です。


渡瀬 裕哉
渡瀬 裕哉

パシフィック・アライアンス総研所長
早稲田大学大学院公共経営研究科修了。トランプ大統領当選を世論調査・現地調査などを通じて的中させ、日系・外資系ファンド30社以上にトランプ政権の動向に関するポリティカルアナリシスを提供する国際情勢アナリストとして活躍。ワシントンD.Cで実施される完全非公開・招待制の全米共和党保守派のミーティングである水曜会出席者であり、テキサス州ダラスで行われた数万人規模の保守派集会FREEPACへの日本人唯一の来賓者。著書『トランプの黒幕 共和党保守派の正体』(祥伝社)は、Amazonカテゴリー「アメリカ」1位を獲得。主なメディア出演実績・テレビ朝日「ワイド!スクランブル」、雑誌「プレジデント」「ダイヤモンド」など。

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