映画業界の変貌に、日本の未来を考える


皆さんはゴールデンウィークをどう過ごされましたか?

よく耳にする「ゴールデンウィーク」という言葉は、もともとは1950年代に映画業界が連休中の動員数増加を目的として作った宣伝用語だと言われています。約70年経った現在も伝統は続き、今年も有名な監督の最新作やヒット作の続編などの大作が名を連ね、この時期に公開された映画の興行収入だけでも100億円を超えるほどの盛況ぶりでした。

テレビの普及とDVDの登場で気軽に自宅で映画鑑賞が可能になった頃から映画業界は長く右肩下がりの時代が続いていました。潰れていく映画館も多くありましたが、劇場の設備が改善されたり3Dシアターやシートが映像に合わせて動く体感型スクリーンが増え手軽なアトラクションとしても楽しめるようになったり、新海誠監督の『君の名は。』が空前の大ヒットになるなど景気の良い話題が増え、ようやく不況の時代から抜け出しつつあります。

しかし、手放しで喜べるかというと、そうではないのです。

日本でオリジナル作品はナシ?

近年の映画、特に邦画のほとんどは、コミックまたは小説の原作があります。
本屋に足を運べば、目立つ場所に飾られている書籍に「映画化決定」などの手書きのメッセージが付いているのをよく見かけます。
少しでも人気が出れば、すぐにアニメ化、映画化に直結します。

その様子を見ながら一人の映画ファンとしては、どうしてオリジナルの作品を作らないのだろうといつも思っていました(例えばスターウォーズは最初に映画があり、小説やコミックへなどの様々な形態に展開されていきました)。もちろん有名な原作の映画からもヒット作がいくつも生まれているのを知っているので否定する気はないのですが、常日頃からの疑問でした。ベースになる物語があったところで映画撮影が楽になるわけではありませんし映画がヒットするかどうかは公開してみるまで誰にも予測ができないのですから。

ごく最近知ったその理由は「オリジナルだと宣伝材料がないから」というものでした。

マーケティングが重要視される現代社会では作品だけでなく話題作りを含めた戦略が必要になります。そのためには認知度がある方が選ばれやすいのは、映画製作という大きなリスクのある仕事で可能な限りリスクを抑えるという点では、ある程度仕方ないことなのかもしれません。

原因は日本人の気質にアリ?

ですが「人気原作の映画化」と宣伝しても映画の質を保証するものにはなりません。それに、映画を作るにあたって一番重要な「創作活動」そのものをリスクと捉えてしまっていることが、より良い映画をつくるための機会を失っているのではないかと思うのです。

ブランドが好きで、他人の中に溶け込んでいると安心できる保守的なイメージの強い日本人。ステレオタイプな考え方はあまり好きではありませんが、この考え方を映画を観る観客に当てはめると納得がいきました。

未知の驚きが待っているかもしれない無名の作品に飛びつくより原作の知名度が持つ信用を選ぶ人の方が多いのです。つくる側も観る側も、新しいものを受け入れようとしていないのです。

これから人口減少などで苦難のときが近づいていると理解はしていても、いまだ変化を求めようとしない日本の体質。それは映画のみならず新しいものへの挑戦さえも無意識に妨げていたのです。

新しい世代はもう生まれている

では、どうすれば良いのでしょう。強い力を持つ革命家を待つしかないのでしょうか。

そんな必要はありません。新しい時代を生き抜こうとする人たちは、もう動き始めているのです。

まだ外の空気が冷たい2018年2月24日 、『かぞくへ』という映画が渋谷ユーロスペースで公開されました。この作品は春本雄二郎のデビュー作でありオリジナルの脚本から生まれた映画です。2016年にフランスの映画祭で三冠に輝くなど海外では高く評価されましたが、日本での公開になると状況は厳しく、配給会社からは相手にされませんでした。

そこで春本監督はSNSやクラウドファンディングなどを活用し、魂を込めて製作した作品に対する情熱を発信し続けました。賛同してくれた一人ひとりに直筆の手紙を送り、真心を届けてくれました。私自身も頂戴し、力強い自筆で書かれた熱い思いを読んで「春本監督は本気だ。この人の撮った映画がつまらないはずがない」と確信しました。

製作側と観客側の垣根を超えた口コミで多くの賛同と期待の声を受け、映画は今年無事に公開。その後も評判が広がり約3ヶ月経った現在も各地の劇場に場所を移しながらロングランを続けています。まだ規模としては小さいのですが、常識を破り新しい道を確かに切り開いたのです。

きっと日本を変えていくのは、こうして道なき道を進む挑戦者たちです。自分だけでは何もできなかったとしても、私たちは彼らの声を聞くことも応援の声を上げることができます。一人ひとりが己の望むものを見出し、同じ志を持つ者に協力する。そんな小さな力がこの国を前進させる大きな源動力になるのかもしれません。

映画『かぞくへ』公式サイト

観るひとの心を大切に。心を描き、揺さぶる春本雄二郎初監督『かぞくへ』上映支援プロジェクト!(モーションギャラリー)
(※現在は終了しています)


林 克彦
林 克彦


ITエンジニア・コンサルタント、NPO研究員(専門:社会文化)。大企業からの独立後、フリーランスとして活動を始め、大規模システム開発などITエンジニア・コンサルタントとして活動している。その傍ら、映画産業のための支援活動を手掛けている。

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