自由民権運動を左派ポピュリズムから取り戻す


明治維新150年ということもあって歴史をネガティブキャンペーンに利用したいという野党陣営から現代の自由民権運動が必要だという声がパラパラと聞こえ始めています。しかし、彼らが言う自由民権運動は「敗北の自由民権運動」の流れであって、国民にとってはおよそ百害あって一利なしという代物です。

明治日本で国会開設を求める運動であった自由民権運動は、初期の頃は士族や豪農と呼ばれた当時の知識階級や資本家層が中心になった政治運動として起きました。この時期の民権運動は、減税、行政改革、地方分権を推進する小さな政府を求める政治運動でした。新たに発足した明治の中央集権政府に対し、自主自立を求める人々による誇りある政治運動でした。それらの人々の団結も一つの要因となり、明治政府は国会開設を認めることになります。

しかし、時の流れとともに、政府による買収・取り込みが活発化されたことで、地域の有力層は政府との癒着に塗れてその初志を失う形となり、普通選挙法の施行によってその担い手が労働運動家を中心とする左派運動に変質し、大きな政府による庇護を求める形で社会の官僚化を促進し、肥大化した政府が主導する全体主義国家への道を突き進むことになりました。まさに、この後者の流れは失敗の歴史といえるでしょう。

この過程で初期の自由民権運動は労働組合運動の前史として位置づけられてしまったため、戦後史においてもあまり注目されることもなく、歴史教育においても左派の敗北の歴史の中に組み込まれてきました。

士族民権・豪農民権の自由民権運動は性質が異なる秩父事件などの激化事件に何故か連なるものとして整理されてしまい、戦後も社会党系の労働運動側の歴史観のオマケのような位置づけに貶められて、初期の自由民権運動の誇りある人々による歴史が簒奪されてしまうことになったのです。

現代においても、日本の大衆運動は、政府に対する敗北と懇願、そして自主独立の精神の魂が失われたエゴを丸出しにした醜い運動として残り続けてきました。それらの本質は大衆側に立つと言いながら政府への依存にあり、大衆から人間としての誇りを奪うものです。

野党陣営が「自由民権運動」を上記の左派ポピュリズムのワーディングとして再び使用し始めている現代だからこそ、板垣退助・植木枝盛・福沢諭吉らの自由民権運動初期の頃に活躍した、政治家、活動家、思想家の歴史をもう一度紐解くべきだと思います。

自由民権運動のイデオロギーは抵抗運動の文脈で語られることが多いのですが、実際には全国各地の激化事件として鎮圧された頃、その運動の中心的な担い手は東京における国会開設の主導する人々に変わりつつありました。そして、彼らは幾多の苦難を乗り越えながら、日本の自由主義・民主主義の流れを創り出すことに成功しました。

したがって、私たちが自由民権運動として、士族民権・豪農民権の流れとして位置づけるべきは東京で国会開設運動に尽力した人々の動きであり、それらは日本のナショナルヒストリーとして再注目されるべきものと考えます。これらの人々が創り出した第一回帝国議会のテーマは減税と行政改革という本物の「民」の側に立ったものでした。今こそ、左派ポピュリズムに簒奪された初期の自由民権運動の歴史を国民の手に取り戻すことが重要です。

実はこの歴史の捻じれによる影響は、自由党と日本民主党の対立、そして55年体制に影響を与えることになり、日本に「小さな政府」を求める筋の通った政党が実質的に消滅する思想的な流れにつながるのですが、それはまた別の機会に述べていきます。


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渡瀬 裕哉
渡瀬 裕哉

パシフィック・アライアンス総研所長
早稲田大学大学院公共経営研究科修了。トランプ大統領当選を世論調査・現地調査などを通じて的中させ、日系・外資系ファンド30社以上にトランプ政権の動向に関するポリティカルアナリシスを提供する国際情勢アナリストとして活躍。ワシントンD.Cで実施される完全非公開・招待制の全米共和党保守派のミーティングである水曜会出席者であり、テキサス州ダラスで行われた数万人規模の保守派集会FREEPACへの日本人唯一の来賓者。著書『トランプの黒幕 共和党保守派の正体』(祥伝社)は、Amazonカテゴリー「アメリカ」1位を獲得。主なメディア出演実績・テレビ朝日「ワイド!スクランブル」、雑誌「プレジデント」「ダイヤモンド」など。

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