EBPM?エビデンスにもとづく政策形成の「陥穽」


【出典】総務省HP

「エビデンスに基づいた政策形成」が大流行だ。
中央省庁、地方自治体などでも皆が関心を持っていて、ある種の「マジックワード」化している。コンサル業界、シンクタンク業界にとっては「金の生る木」であり、省庁にとっても「予算を増やすための手段」といったところか。
筆者から見ると、シンクタンクの造語、新規ビジネスのための品とも皮肉を言いたくもなるが、その理念自体はまっとうである。
一般的にも、エビデンスという言葉までよく見受けられるようになった。

しかし、政策分析の専門家として、今回は正直に業界にいた人間として思うところを述べたいと思う。

EBPMの定義

まず初めに、定義を確認しよう。

【言葉】「エビデンスに基づいた政策形成」(Evidence-Based Policy-Making、以下EBPM)
【定義】政策立案や政策改定の際、「科学的なデータ分析によるエビデンス(証拠)」に基づいた議論を行うべきだ、という考え方
【意味合い】
・源流はEBM(Evidence-Based Medicine)。1991年に提唱され、新しいパラダイムとして医療の世界をということ。医師が診察を行う際、最善のエビデンスをもとに行おうという医療の在り方。それを応用しようというもの。
・エビデンスとは治療の有効性・効果についての信頼性の高い研究結果のこと。最も厳密なものはラ対象者を無作為に分けて2集団に分けて行うランダム化実験
・エビデンスにはレベルがあり、最もレベルが低いのは専門家の意見や経験
・EBPMはプログラム評価の「進化形」

いくつかの事例

海外事例としては

・アメリカのオバマ政権におけるエビデンス重視の予算作成、2001年教育改革法、就学前教育の効果、少人数学級の効果
・アメリカでは非行少年の刑務所見学プログラムの効果
・イギリスでは就学前教育の効果

といったものがあげられる。ランダム化比較試験(RCT:Randomized Controlled Trial)という実験を含めて実施されている。簡単にいうと研究対象となる人を無作為(ランダム)に二つの集団に分けて比べることをやって検証しているということ。

なら、今までの政策は何に基づいていたのか?

Evidence-Based Policy-Makingの略、日本語では「エビデンスに基づいた政策形成」ということだが、今改めてブームになっている理由は何か。

これまではエビデンスに基づいてなかったのだろうか?
これまでは何に基づいてなかったのだろうか?

エビデンスベースの政策形成と聞き、そうツッコミを入れたくなっていた。

そもそも問題意識が疑わしい。

「政策と政策効果との間に見られる相関関係でも不十分で、因果関係が証明されて初めてエビデンスと呼ばれる」としているが、世の中の統計データで色々やってきたが、そんなにきれーな因果関係はあるとは思えない。業務や事業レベルでの実験環境でしか見つからないものだ。すでにそういったものが発見できていたら、とっくに政策になっていたはず。

社会は複合的な要因、外部要因に大きく影響されること、「政策」レベルに広範囲なものだとよりその因子が増えること、政策が変えられる範囲は限定的だということを肝に銘じなくてはいけない。社会は有機体の集まりであり、人の心理や行動を変えるのは本当に大変なことだ。

そもそも、政策を実行する以前に、政府の介入、いや存在自体が問題であることもある。

政策評価を正しく機能させるのが先では?!

こうしたことを推進する方々の「エビデンス」が必要という問題意識は素晴らしいが、日本国の財政状況を理解しているのだろうか。こんなときでさえ「政策形成」って・・・・ちょっと待ってほしい。そもそも「政策評価」ができているのか。

元上司の星野芳昭が政策評価法の成立に貢献したため、若干、感情的になってしまうかもしれないが、政策評価自体が機能しているかというと非常に疑わしい。

内閣府「平成28年度実施施策に係る政策評価書」を見てみよう。

話題の施策「国家戦略特区の推進」を見てみよう。

【出典】内閣府「平成28年度実施施策に係る政策評価書」

1 規制改革メニュー数の累計
2 全ての国家戦略特区で認定された区域計画における事業数の累計
が測定指標がともに平成28年度の目標を達成されたとのこと。

皆さんこれを見てどう思います???
苦笑するしかない。

政策形成の前に、政策検証であろう。EBPMという名のもと色々な政策が行われてしまうことに危惧を覚える。そもそも「政策」「目標」って何なのかという議論から始め、過去の政策の検証・振り返りをしてそのナレッジを蓄積するべきだ。

PS
異論反論は是非、筆者のNPO日本公共利益研究所までお待ちしております。


西村健
西村健

人材育成コンサルタント、オムニメディア代表、NPO法人日本公共利益研究所(JIPII:ジピー)代表、一般社団法人日本経営協会講師、未来学者。
慶應義塾大学院修了後、アクセンチュア入社。 その後、日本能率協会コンサルティングで経営・業務改革、人材育成、能力開発を支援してきた。独立後、人事評価制度構築・運用、キャリアカウンセリングなどのコンサルタントとして活動中。最近はプレゼンテーション向上、モチベーション施策などに注力。

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