ITが解決するインドの農民債務免除問題


カルナタカ州選挙のその後

前回インド南部カルナタカ州選挙の結果について寄稿しました。最終的に、地方政党JDS(ジャナタ・ダル(世俗派))のHD Kumaraswamyがコングレスとの連立で州首相に就任しました。しかしながら、現状コングレスと5年間の任期満了までの任期は約束されておらず、州閣僚ポストを巡って政権内でも引き続き交渉が継続しています。今回はその選挙の公約の一つである農民債務免除の課題から、最新のアグリテックのスタートアップをご紹介します。

農民債務免除の公約

閣僚ポストの中でもJDSが重要視しているのが、財務大臣のポストです。JDSは公約として総額約5300億ルピ―にのぼる、政府系銀行が農民に貸し付けを行っている債務免除(銀行が債権放棄を行うこと)を掲げており、なんとしてでも財務大臣のポストを確保し公約を実現したいと考えています。

多額の債務を抱えた農民の自殺は、インドの社会問題の一つにもなっています。金融機関からの借入後、事業がうまくいかず返済が滞り自殺にいたるケースも少なくありません。インド政府としては農民の債務免除は社会的セーフティネットの一つとして必要であるという見解です。

モラルハザードに無策な政府

インド政府は上述のような状況を鑑み、1990年代から何度か債務免除を行い農民を救済しています。また、州選挙でも公約に掲げられることもあり、政治家にとっては人口の6割を占める農民に直接できる訴求可能な便利な公約の一つになっています。

元々農民の債務は、1980年代にインド政府が世界最大規模で行った地方貧困層向けの、開発プログラムに端を発しています。同プログラムでは、貧困層が自活できるよう補助金と金融機関からの貸付を組み合わせたプログラムでしたが、最終的に無策な貸付にモラルハザードを引き起こしました。同じような貧困層向けのスキームとしてバングラデシュで始まったグラミン銀行が、グループ融資のスキームを活用しモラルハザードや債務不履行の際の履行強制などを担保していたのとは対照的です。

ITが可能にする農民債務問題の解決

以上のような背景から、政府は根本的な課題の解決には有効な施策を講じれれていません。農民向けの融資を行うだけでは、農業の効率自体が上がるわけではなく一時しのぎにすぎません。また、最終的に債務免除が行われるとの期待がある場合、借入資金も適切に使われるとは限りません。

そのような中でインドの中でもスタートアップ企業が、社会構造の変革を促すべく事業に取り組んでいます。一つは「アグリバディ」、農家ごとに耕作情報を収集し、その土地、農家に合った最適な作物・農薬・肥料をスマホを通じて情報提供します。また、収集した情報を元に金融機関に債務保証などを行うことも可能です。元々はカンボジアで始まった事業ですが、現在はインドも含め東南アジア数か国で運営されています。


【出典】https://www.agribuddy.com/

インドでは様々な社会課題が存在しますが、政府も民間も伝統的なアプローチでは根本的な構造を変えることは難しく、そこに大きな可能性を秘めているのがテック系のスタートアップ企業だと信じています。しがらみや、既成概念に捉われず新たな価値を創造していくでしょう。私自身も今後もインドから新たなとりくみや、日本よりも進んでいる社会状況があれば随時発信していきたいと思います。


鈴木慎太郎
鈴木慎太郎


米国公認会計士。SGC(スズキグローバルコンサルティング)代表。2010年5月よりニューデリー(インド)在住。40社以上のインド拠点設立、100社以上のインド・会計税務にかかるコンサルティングに従事。2016年よりスズキグローバルコンサルティングを設立し独立。日本企業向けにワンストップでインドの拠点設立・会計・税務・法務をカバーする総合コンサルティング事務所を経営。 URL: https://www.suzuki-gc.com

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