シーズ志向で市場の創生を目指す・第2回 開発者目線とユーザー目線の使い分け、ブランディングの開始時期


The Urban Folks読者のみなさん、こんにちは、エヴィクサーの瀧川です。

「シーズ志向で市場の創生を目指す」と題した本連載では、かねてよりMOT(Management of Technology)やエフェクチュエーション(※2008年にサラス・サラスバシーによって提唱された、起業家にとって有効な市場創造の実行理論であり、発表以来注目を集めている)などで議論されてきた、技術や特徴を起点としたビジネスをどう進めるかについて、当事者ならではの視点で考えていきたいと思います。

第2回のタイトルは「開発者目線とユーザー目線の使い分け、ブランディングの開始時期」です。

前回は、「死の谷」といったショッキングなタイトルで技術型ベンチャーの立ち上げについて述べましたが、出来ないことよりも出来ることを考え実践するしかない、ということで締めくくりました。

そう考えるのは、シーズ志向で進める事業開発の場合、社内やプロジェクト内の誰も具体的な正解は持ち合わせていないこと、その技術を買ってもらう相手の市場や業界リーダー側でも開発者目線で改善点など考える余裕はないこと、の二つの理由からです。

それでは何が出来ることなのか。それは潜在顧客から具体的なフィードバックを得ることです。これは簡単そうに見えてとても難しいことです。特に「具体的な」というところが重要です。もっともらしい仮説は数多く存在したほうがよいのですが、競争優位に事業開発を進めるためには、コンセプトだけでなく、ニーズ解決に直結する具体的なスペックを明らかにすることが重要です。

もっと簡単に表現すれば、「あともう少し早く機能すれば使えるのに」、「あともう少し消費電力が少なければ使いたいのに」などといった“ぼやき”を、出来るだけ数多く得ることです。

この“ぼやき”を解決する具体的なスペックが、自社技術の改善・改良の延長線上にあれば、すぐに実行します。そして、他社に追随されにくい発明や工夫を見出し、コンセプトだけではない実践を伴う重厚な知財戦略を組み立てることが出来たほうがよいです。

先に市場に出ている類似サービスの分析から差別化要素を明らかにすることも必要ですが、その視点ではなかなか競争優位を構築できませんし、ユーザー目線の取り組みではない可能性もあります。そこで、やはり自社で潜在顧客にリーチする必要があるでしょう。

では、どのような点に留意して、自社技術の具体的なフィードバックを得ればよいのでしょうか。技術型ベンチャーでは広告予算などは限られています。

筆者は、前回のとおり、トレンドに乗せてイケてる技術に仕立てる戦略を取り、メディア露出を得て、効率的に潜在顧客へリーチすることを提案しています。しかし、ここで焦ってはいけません。自社技術のブランディングを開始するタイミングには細心の注意を払ってください。自社の取り組みに一度ネガティブなイメージがついてしまうとなかなか払拭することは難しいです。自社技術の提供にとって周辺環境が整備されていないこともあります。打ち出し当初はブランディングや商流にこだわらず、むしろ自社技術の検証に割り切ることもやむを得ない、くらいの柔軟な姿勢が有効です。

とりわけ、前回取り上げたハイプ・サイクルなどで注目を集めるキーワードや技術に関連した取り組みである場合、業界全体でニーズを模索している(まれにユーザー目線を見失っている)可能性も否定できません。新しく出てきた技術の場合、コンセプトが独り歩きしていることもあるでしょう。

すなわち、最終的な顧客価値の提供まで自社で保証できないと見極めた場合は、潜在顧客へリーチするための効率的なPR戦略に徹し、実証実験から実用化に至るための、具体的なスペックの要求レベルを明らかにしていくことを優先します。くどいようですが、この段階では、自社が提供する価値は開発者目線であることが多く、あまり声高に訴えない方が賢明とも言えるでしょう。開発者目線や提供者目線のアウトプットについて、さまざまな関係者がその結果に許容的であるとも限りませんので、仮に不可抗力や誤解で自社技術の評判を損なうとなっては悔やんでも悔やみきれません。

ハイプ・サイクルから一気に抜け出し、めざましく成長を遂げる関係会社やサービスがあるかもしれませんが、自社技術の取り組みと直接的な関連がなければ気にする必要はありません。焦らず、従業員・パートナー、株主などステークホルダーには、丁寧に事象を説明する姿勢を持ち、安定的な需要がつかめていなくても、自社技術が採用された要因(採用必然性)を徹底的に分析します。

このような自社技術の検証プロセスで得られる、実用化に至る具体的なスペックは市場ニーズを指し、具体的なスペックを達成する自社技術の改善・改良は競争優位の差別化要素を指すと考えられます。これを実現できると判断できれば、いよいよ自社技術や自社ソリューションのブランディングをユーザー目線で開始します。野球のバッターでいえば、思いっきり引きつけて自分の得意なポイントで引っ叩く、というようなイメージでしょうか。

商圏に影響力がなく顧客層も薄い技術型ベンチャーにとって、競争優位にブランディングを開始しないと、自社技術や自社ソリューションの値決めが出来ません。何が価値で、何が他社より優れているのか、この二点が価格の根拠をもたらします。労苦を共にして開発した自社技術や自社ソリューションを誰しも安売りしたくはありません。

技術の見える化、技術のブランディングと言えば、「需要表現(児玉文雄)」、「エンジニアリング・ブランド(小平和一朗)」、「成分ブランディング」や「Ingredient Branding」など数多くの先行研究も見られ、海外でもインテルやドルビーなど成功事例も多いです。それぞれが市場やユーザーとの対話が重要と述べています。

筆者は、当事者ならではの考察で、その対話のあり方について、フェーズごとの自社技術の打ち出し方が重要と考えています。シーズ志向の事業開発では、当然ながらほとんど全てのニーズが潜在的です。そして、その潜在ニーズの掘り起こしはとてもデリケートです。自社技術の伝え方すなわちブランディングが効果的に行われないと、ニーズは掘り起こせませんし、また仮に掘り起こせたとしても自社技術の価値を定義できず安売りとなってしまうでしょう。

自社技術を安売りせずに価値を広め、その結果として経営者と技術者が信頼関係を強くする、こういった技術ブランディングの成功が、技術型ベンチャーの永続的な成長には不可欠です。


瀧川淳
瀧川淳

技術ベンチャー創業経営者 エヴィクサー株式会社 代表取締役社長
2004年3月、エヴィクサー株式会社を設立。2008年ころより、業界に先駆けてACR(自動コンテンツ認識)技術、音響通信技術を開発し、テレビ放送局、大手広告代理店、映画会社、舞台のセカンドスクリーン、O2Oの取り組みで数多くの実績をもつ。要素技術の事業化、シーズオリエンテッドのビジネスモデルをテーマとした講演多数。2017年に第29回「中小企業優秀新技術・新製品賞」ソフトウエア部門で優秀賞、「MCPC award 2017」サービス&ソリューション部門で特別賞、「2017年 世界発信コンペティション」製品・技術(ベンチャー技術)部門で東京都ベンチャー技術優秀賞を受賞。2003年3月、一橋大学商学部卒。2017年より一般社団法人日本開発工学会理事を務める。

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