【2020年の私たちの病院選び】「第2回:ネットがない時代の病院選びを振り返る(1)」


2020年には次世代移動通信「5G」がサービス開始をすると聞きます。
10Gbpsを超える通信速度、LTEの約1000倍にもおよぶ大容量化は、医療と私たちの関わりを大きく変えることが想像されます。

少し先の未来の話しをする前に、ネットがない時代の病院選びから振り返ってみることにします。
まだまだ看護師さんがナースキャップを被っていた時代のことです(上は懐かしい写真です)。

医師の「患者の治療選択の幅を広げたい」という一途な想いで始まったホームページ

初めて医師と話したのは、インターネットが普及しはじめた1998年。
サッカー日本代表が初めてのワールドカップに出場した年。
医療情報は、書店で販売している書籍で得るしか方法がなかった時代です。

医師は真剣な表情で私に言いました。
「当院には多くの患者が来ますが、病気の重大さを認識してもらって、もっと早くに適切な治療をしていれば、ここまで悪くならなかっただろうと悔やむことが少なくありません。
患者に知ってもらうために自費で書籍を出版していますが、読んでくれる人は限られています。書籍を出版するには多額な費用も必要になるので限界があります。
インターネットというもので知ってもらえるのであれば是非活用してみたいのです。力になってもらえないでしょうか?」

医師の想いは「自院に来院してほしい」という集患目的でなく「病気の重大さを知って欲しい」「一刻も早く検査を受けて、適切な治療を受けて欲しい」という一途なものでした。
その想いに応えるべく、私は医師が執筆した数冊の書籍を読み、インターネットを利用している世代に合った内容としてまとめたホームページを立ち上げました。

そのような想いを持った医師は一人ではありませんでした。
多くの医師が「病気で悩む人に、様々な治療選択があることを知ってもらいたい」という強い願いで情報発信を始めました。

さらに、Yahoo!JAPANが「オススメサイト」(今でいうYahooニュースのトップのようなもの)や、雑誌「Yahoo! Internet Guide」等で「インターネットの医療分野での活用」として紹介してくれたことが後押しにもなり、病気・症状で悩む全国の人たちが最新の医療情報に触れることになりました。

このように「患者に想いを寄せる医師」と「悩み苦しむ患者と家族」がインターネットで結ばれ、救われる人がたくさんいました。
そして、インターネット活用をした医師により「インターネット活用の成果=理解が広がること」として学会等で発表されたこともあり、インターネット活用のメリットが医療関係者にも広く知られていくことになりました。

この頃、ある医療法人の理事長が私に宛てたメールには「ホームページで命が救われる人がいることを知りました。これからもよろしくお願いします。」と記されていました。

副次的な効果が生まれ、目的が多様化していくホームページ

ネットが無い時代の「電話帳」と「近所の口コミ」とは異なるインターネットによる医療情報の発信は、副次的な効果をもたらしました。

1つめは、患者と医師の信頼関係が深まることで、治療に好影響をもたらしたことです。
ある医師は「治療への理解が深まることで、医師と患者のよい良い関係が構築できる。それが良い治療が行える環境となっている。」と言いました。
ホームページが治療前の「予習」「復習」の場となり、ホームページを見ていない患者よりも明らかに理解が深い状況で診察が出来るメリットがあるということでした。
早速、ホームページを印刷して冊子にしたり、医師による病気や治療の解説をビデオにまとめ、待合室でご覧いただくことにしました。今では病院の待合室でも見られる光景ですね。

2つめは、良質な人材確保につながることです。
仕事への志が高い方ほど、働き場所となる組織がどのような理念と目標を持って活動をしているのかに関心を持つ傾向はあると思います。現場責任者である看護師さんは「ホームページからの問い合わせする人材は、明らかに優秀です。」と言いました。
しばらくすると、各医療施設は採用情報専用サイトを立ち上げはじめました。

3つめが、患者の理解が深まることが「集患」に大きな影響を与え始めました。
これは、医療に限らないことだと思いますが「情報を公開し、患者の理解を深める真摯な姿勢」は必然的に信頼を大きくするので、さらに患者が集まってしまうのです。
実際に、想定よりも患者が来すぎて、ホームページに「受診までの待ち時間が長くなってしまいます」とお詫びを出したこともあるほどでした。
こういったことが、日本各地で同時多発的に発生したのでしょう。ホームページが「集患できる媒体」として認知され始めます。

患者と家族にとって、歓迎できるホームページなのか

医師の「病気の重大さを知って欲しい」「一刻も早く検査を受けて、適切な治療を受けて欲しい」という一途な想いで始まったホームページによって、あまり知る機会がなかった治療法と出会うことが可能になりました。
車、新幹線、飛行機を利用して、遠方の医療施設に行くことが珍しくない時代の幕開けです。
医療施設は競うように「新しい医療情報の紹介」に力を注ぐようになりました。

医療を取り巻く状況も変化してきた頃だったのでしょう。
2002年サッカー日韓ワールドカップ以降は、医師と出会う度に「これからの医療経営は厳しいです。もっと理解されなければ生き残っていけません。」という言葉が聞かれるようになりました。

さらには、厚生労働省の正式見解として「ホームページは広告媒体とは見なさない」とされ、一気に「集患のためのホームページ」が脚光を浴び、ホームページ制作業者だけでなく、経営コンサルタント、広告代理店など、異業種である事業者が数多く参入し始めます。

それぞれに専門性を持つ事業者がサポートすることで、ホームページを利用する目的が明確になり、同時に多様化していきます。
「医療関係のホームページ」と一口で言っても「発信する側の目的」によって全く違うものとして発展していくようになりました。

一方で、患者と家族にとっては、幸せな状況だとは言い切れないこともでてきました。


山内真一
山内真一

Webディレクター/コト・デザイナー
1998年テットコム創業。医療・保育・健康・士業等の制約が多い業界を編集し、新しい市場・顧客・人材を創り出す。また、地元のエリアリノベーション事業、茶畑・企業用地・中山間地での自転車レースイベント開催等のサイクルスポーツ推進事業も手がけている。

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