【特別企画】UrbanFolks流、サッカーワールドカップ観戦ガイド(その5)


【出典】アディダス社エジルさんの広告、筆者撮影

ワールドカップ出場選手のライフストーリー。今回はドイツ代表を見ていきましょう。ドイツはワールドカップ前に少しばかり騒動がありました。

ドイツ代表の移民2世、3世たち

サッカードイツ代表、トルコ移民3世のエジルさんらがトルコ大統領のレジェップ・タイイップ・エルドアン大統領さんを表敬訪問したことがドイツ国内で大変な批判を浴びています

大統領は反政府運動への厳しい弾圧、インターネットの閲覧制限、人権活動家逮捕、大統領権限拡大の憲法改正を問う国民投票で選挙に疑義が問われるなど、何かとお騒がせのお方です。独裁ぶりが欧米では批判の的ではあります。そしてドイツにおいては、メルケル氏にも対しても「ファシスト」呼ばわりする行為も批判を受けていますし、2017年のドイツの総選挙に露骨な介入を試みたとも言われています。

「アンゲラ・メルケル首相率いる与党・キリスト教民主同盟(CDU)と連立相手の社会民主党(SPD)、そして野党の緑の党を「トルコの敵」と決め付け、トルコ系ドイツ人にこの3党に投票するなと呼び掛けた」

【出典】ニューズウィーク

こうした背景があると、表敬訪問で「私の大統領」といってしまったエジルさんへの反発はそれは強くなります。

「保守政党キリスト教社会同盟(CSU)は「ドイツ代表のユニフォームを着る選手は我々の国の価値観を尊敬すべきであり、言論と報道の自由を制限する独裁者を宣伝するべきではありません」と声明」があったり、元ドイツ代表のエッフェンベルクさんは代表追放を求めたりという反応があるのも仕方のないことかもしれません。

エジル選手という天才

メスト・エジル(Mesut Özil)さんは、ノルトライン=ヴェストファーレン州ゲルゼンキルヒェン(ルール地方に位置する工業都市。ドルトムントの近く。内田篤人さんがかって所属していたシャルケ04FCのホームタウン)出身のサッカー選手。イングランド、プレミアリーグのアーセナル所属のドイツ代表の10番を背負うエースです。フットボール界のモーツァルトと呼ばれるくらい、その卓越したセンスは凄いものがあります。ボール扱い、アイデアのセンス・・・・。

そのプレーはこの映像を見ればわかります。

出身地を訪問したレポートがナンバーで紹介されています。現地訪問で、幼い彼を知る人から「内気で、引っ込み思案な子だったが、ボールを持ったら放そうとしなかった」と語られています。

エジルさんはトルコにルーツのある両親のもと3世として育ったのですが、物議を醸す行動をとったり、やはりルーツに思い入れがあるようです。

・国歌を一切歌わない
・イスラム教徒
・将来はトルコリーグでプレーをしたい旨の発言

前述のナンバーにおいては、「ここに生まれたら、サッカー選手になるか、失業者になるしかない」という自分たちを揶揄した言葉が紹介されています

こんな言葉が出てくるのは、かつては炭鉱業で栄え人口40万人もいたが、現在は20万人と経済的に少し停滞しているからでしょうか。

かっての炭鉱の町から移民3世の少年がサッカーの歴史的な選手になったことはトルココミュニティにも勇気を与えたことでしょう。

ドイツのトルコ移民

ではトルコ移民のこれまでをまとめてみましょう。

移民とその子孫が1600万人程度、ドイツの人口全体の20%
ドイツ全体でトルコ系は300万人、移民で最大
トルコ人移民は、そもそも1960年代に、労働者不足に悩んでいた政府が、募集した招待移民
1970年代に定住化、しかし「やがて帰る人たち」という存在しないかのような扱い
1990年の外国人法、帰化条件が緩和←一定の権利を持っていれば帰化できるという考え方に大きく転換
2005年の移民法で移民国家への転換、移民の中にドイツ社会で生きていくことの確信も

という背景があります。現在はドイツで生活の基盤を築いた移民の二世、三世が生まれ育っているのです。

他方、ドイツ人が「ミニ・インタンブール」とよぶような、ほとんどトルコ人しか住んでいない地区もあります。トルコ町というか、コミュニティもトルコなので、ドイツ社会に融合できているとはいえない状況もあります。

移民・ダイバーシティ

文化的な違いを乗り越えて社会として共生できるか。違うバックグラウンド、価値観を持った人の融合はどうなっていくのでしょうか。

やはり、居心地のよい関係を求めるのは人として普通のことです。筆者のような好奇心が強く、知らない人と過ごすことが好きな人は少数派でしょう。多くの人は同じ価値観をもつ人を求め、同じようなルールや行動特性をもつ人を見て安心します。それはいいとか悪いとかの問題ではなく、そういうものです。

多様な人と出会ったり、交流した経験を持たないと、どうしても偏見を持ってしまいます。だからこそ他者理解、国際交流が大事なのです。自然と相手のバックグランドへの理解も深まり、相手の立場に立って考えてみることもできるようになる一歩になります。

移民の方に対して、ドイツでは感情的な批判もあります。

しかし、移民の方にとってみればルーツを感じることは普通でしょう。エジルさんのようにトルコ人コミュニティで育ったのなら、それは仕方ないことでしょう。国籍の殻をいったん外してみれば、両親の実家のある地域、祖先の育った地域や人物など愛着を感じますよね?それって普通の感情ですよね。

日本人だから・・・日本人らしくない・・・・
ドイツ人だから・・・ドイツ人らしくない・・・・
とか共同幻想から発言するのはその人の自由ですが、その言葉が無意識的にどういう意味に捉えられるのか、相手がどう感じるかには自覚的でありたいものです。

今回のnewsは、日本でたとえて言うと、在日の鄭大世選手(清水エスパルス所属FW、元北朝鮮代表)が金正恩さんに挨拶に行くみたいな感じでしょうか。もしそういうことが現実におこったらドイツと同じ反応がおこるかもしれません。

なかなか単純には考えられない問題といえますが、グローバル社会では考えていかないといけない問題でしょう。


西村健
西村健

西村健
人材育成コンサルタント、オムニメディア代表、NPO法人日本公共利益研究所(JIPII:ジピー)代表、一般社団法人日本経営協会講師、未来学者。 慶應義塾大学院修了後、アクセンチュア入社。 その後、日本能率協会コンサルティングで行政・民間の業務改革、能力開発を支援してきた。独立後、プレゼンテーション向上、人事評価制度構築・運用、キャリアカウンセリングなどのコンサルタントとして活動中。

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