「インターネットの歴史から考えるインターネットビジネスの本質」連載シリーズ<第4回>「マイクロソフト」 - 変貌するプラットフォーマー-(その3)


今回はマイクロソフトの3回目です。これまでの2回では、プラットフォーマーとしての地位の確立、一人勝ち、そしてその後に続く停滞の時代について述べました。

掲載直後に、元マイクロソフトの知人から下記のコメントをいただきました。
「クラウドに舵を切ったのはまだ私がマイクロソフトにいたとき、つまりはバルマー時代です。社内でもバルマー批判があり、ビルの復帰を熱望する人達がたくさんいました。2010年以前に信じられないほどの数のサーバーをCisco から買い、納品が間に合わない状況でした。IBMがクラウドといい始めた頃です。」
現在のマイクロソフトの屋台骨を支えるクラウドビジネスですが、バルマーの時代に種は蒔かれていたのですね。経営者や政治家など、大分先になってから花開くこともあるわけで、クラウドビジネスについては、バルマーの功績として記憶しておく必要があるようです。

さて、今回は、最近のマイクロソフト、そしてそこに至った3代CEOナデアの改革の内容に迫ります。

まずは、マイクロソフトについての株式市場での評判を端的に表している時価総額について見ていきます。この記事を執筆している6月中旬時点で、世界中の企業の中でアップル、アマゾンに続いた3位、約760billion$、円換算(1ドル=110円)として約80兆円という巨大企業です。時価総額評価のベースとなる利益金額で一つ頭が上に出しているアマゾンの一位は最近暫く揺るがないところですが、 とにかくマイクロソフトの時価総額は今でも非常に大きく、拡大し続けているということです。

時価総額と言うものは、現在の利益の水準と今後出していくと投資家が判断している将来の利益の額に連動しているはずなので、世界3位の時価総額、ということは、利益を叩き出しているビジネスモデルが投資家に信用されているということを意味しているのです。

しかし、前回軽く触れた「2015年7月に実施された『Windows7とWindows8.1に対するWindows10への無償アップグレード』」という経営方針の変更は、度重なるバージョンアップにうんざりした顧客が離反してしまっていて、そうしたWindows の一本足打法(officeだってWindows拡販のためのものという位置づけでした)はもう止めたということになるわけですから、それでは一体今何で利益を出しているのか、ということを明確にしなければいけません。

下記のグラフは、2017年4Qの売上のブレークダウンを示しています。金額が大きい順に棒グラフで並べられており、オレンジが個人向け、ブルーが企業向け、そしてグレーがどちらにも分類できないセグメントとなっています。

【出典】ZD Net Japan HP

最も大きなセグメントがoffice、2番目がクラウド、そしてWindows は3番目、次いでゲーム(Xbox)となっています。また個人向け(図ではオレンジ色)よりも企業向け(同 青色)の方が大きくなっていることも目を惹きます。

PCにおけるOSのシェアは今でも9割弱はWindows であると言われていますし、また新たなPCの大半にはWindows が搭載され、デフォルトでoffice が入っています。Windows は標準装備のプラットフォームであり多分個人が別売りで購入するofficeの値段よりも安い費用でPCメーカーに納入されているものと思われます。いずれにせよ、「OSの買換えで儲ける」ということは上記の方針変更に端的に表れているように、もう止めた、ということは言えそうです。

その代わりに、クラウド関係、そしてゲーム、サーチエンジンであるBing を使った広告ビジネス、ハードであるSurface、買収したLinkdIn・・・一見脈絡ない多角化のようにも思えますが、とにかく1本足打法ではなく、多角化で収益源の数は確保されているのは間違いないようです。

逆説的ですが、この一見脈絡のないビジネスの多角化でも、マイクロソフトが儲けられていること、それこそがナデアのやってきたことではないかと思うのです。Windows というガリバーとも言える(少なくともPCではそういうことです)OSを握っていた・・・そうした盤石の過去が、スマホの伸長=グーグルのAndroidやアップルのIOSの存在感アップ、オープンソースであるLinux へのプログラマーからの賛同といったOSとしてのWindows の地位が侵食されてきた、という事態に直面し、それまでのWindows の価値を高め、それ自体で儲ける仕組みを放棄し、Windows が「プラットフォームであり続けるために」アップグレードを無料にしたりして、Windows の価値を意図的に下げることにしたのです。

クラウドは利益率が25%ほどにもなる大変利益率の高いプロダクトであり、かつ成長率も高いものです。クラウドのシェアは先発であるアマゾンが30%以上と断トツですが、2位は10%以上でマイクロソフトが続いています。
クラウドサービスにせよ、Surfaceにせよ、officeにせよ、マイクロソフトにとって、PCのOSがWindows であることの重要さ、つまり顧客がWindows パソコンを使ってくれている限りは顧客と繋がっていて、何らかの方法によって顧客にリーチできる可能性が出てくるのです。

マイクロソフトはインターネットビジネスにおいて最初の「プラットフォーム企業」になったわけですが、変貌しながら今も昔も徹頭徹尾「プラットフォーム企業」であり続けているわけです。考えてみれば、クラウドサービスは利益率が高く、成長率も高いビジネスであるだけではなく、その基本的な性質は「プラットフォーム」です。拡大解釈すれば、時には同じフォーマットでファイルをやり取りするoffice のプログラム自体もプラットフォームと言えなくもありません(そう言うと、全てプラットフォームかな、とも思ってしまいますが、それはインターネットビジネス自体がプラットフォームをその本質の一つであるからとも言えるでしょう)。OS、office、そしてクラウドサービスで顧客の囲い込みを何重にもかけていくわけです。
Windowsの一本足プラットフォーマーから、多次元・多種類のプラットフォーマーに変貌したナデアの戦略、アジリティは見事であり、投資家はそこを評価しているのだと思います。

一人勝ちのIT巨人としてインターネットビジネスの世界に君臨したマイクロソフト。盛者必衰の理から脱却して、したたかにナデア路線を模索しながら進んでいるマイクロソフト。派手さや、圧倒的な存在感は薄れたものの、今のマイクロソフトの方がしたたかで、持続的に変貌していける強さがあるのかもしれません。巨額の剰余財産を活用し、今後も成長を続けていくのでしょう。

以上、3回にわたって、マイクロソフトのビジネスモデルについて書いてきましたが、次回はマイクロソフトの付録(オマケ)篇として、ビル&メリンダ・ゲイツ財団についても少し述べておきたいと思います。


小寺 昇二
小寺 昇二

埼玉工業大学人間社会学部情報社会学科教授、大学院人間社会研究科情報社会専攻教授
2014年より埼玉工業大学人間社会学部情報社会学科教授、大学院人間社会研究科情報社会専攻教授。授業担当は「e-ビジネス論」「財務管理論」「スポーツ経営」「地域経営論」「現代経済論」「現代経済史」等。ラグビーチーム一般社団法人横河武蔵野アトラスターズ監事、埼玉県深谷市総合計画策定審議会委員。NPO法人日本公共利益研究所コンサルタント。

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