エアインディアは再建できるのか?~インド政府はどう動く>?


経営破たん状態が継続するナショナルフラッグ

2017年3月末時点での負債総額は約4900億ルピ―(約8,800億円)。毎年300億~400億ルピ―(約540億円~720億円)近い赤字を経常的に垂れ流しており、幾度となく政府からの資本注入を受け救済を受けています。

インド政府は現在、このナショナルフラッグの民営化を行うため発行済み株式の76%までを売却することを検討しています。しかしながら先日締め切られた応募では、インド政府の課す売却にかかる様々な制限を嫌気し買収に興味を示す企業は1社もありませんでした。

【出典】エアインディアHPより

JALの経営破たんと類似する状況

不採算路線の維持、強い労働組合、政府企業としての非効率な経営などは、JALの破綻当時の状況と類似しています。不採算路線に関しては、2017年末に発表された航空相のコメントによると、国内・国際線182路線のうち31路線が不採算路線であるとのことです。日本の約9倍の国土を有するインドにおいては地方へのアクセスとしての航空機は欠かせないものではあるものの、多くの不採算路線の運行は経営の重荷になっています。この点は、乱立した地方空港へ不採算と分かっていながら路線数を拡大していたJALと同様です。
 
また、労働組合の影響力も非常に強力で、処遇・賃金交渉・解雇などに影響を与えています。そのため、高齢化した客室乗務員や不必要な人員の雇用の継続など人件費が経営を圧迫しています。1航空機辺りの運行に関わるスタッフ数も、他国の航空会社と比較して2割から3割程度多くなっており非効率な運航の実態が垣間見られます。この点も経営破たん当時8つの労働組合を抱え、年金カットや人員削減などの痛みを伴う改革に手を付けることができなかったJALの体制と共通している部分があります。労働組合は、先日の民営化に伴う売却企業先の募集が失敗した際に「我々の努力が実を結び、航空会社を救った。」と勝利宣言を行っています。従業員の危機意識は低くそもそも救済措置のための民営化なのですが自身の既得権益を脅かすものと勘違いをしています。
 
経営体制に関しても、政府系企業であるため航空会社の経営経験のない官僚が経営に当たっています。過去、航空会社経験のある民間出身者がCEOに就任したこともありますが、政府系企業であるため政治的な干渉が強く思うような経営ができずに退任しています。
 

世界で最も価格競争の厳しいマーケット

インドはあらゆる価格競争という観点において、世界で最も厳しい市場の一つです。携帯電話・バイクなどは世界で最も安い価格で販売されており、航空料金もその例外ではありません。以下の図は、国際線の航空料金ですが世界で最も安い1キロ当たりの航空料金のトップ10のうち2社はインド系の航空会社が占めています。このトレンドは変わることはなく、今後も熾烈な価格競争が繰り広げられ、安易に収益を上げることはできないでしょう。
 

【出典】Forbes & Statistaより転載

今後も継続する政府の救済措置

民営化を目指すエアインディアですが、現状最終的に収益を出す必要のある投資家と雇用や現行の体制の一部を継続したいというインド政府との間には思惑の大きな隔たりがあります。インド政府としては、国民の血税をこのまま流血し続ける国営航空会社へ注入し続けるか、一時的に痛みを受け入れ投資家に受け入れられるレベルでの入札要件を設定できるかの選択を迫られています。

インド政府としては直近2019年総選挙を見据えてのばらまき政策のため、財政規律が緩みつつあり赤字目標を下回っています。また、原油高・ルピー安などのマクロ環境の悪化のなかでどの程度までエアインディアのような経常的な赤字発生源を容認できるかという問題があります。現状航空相は、本民営化プロセスの一時中止をコメントしていますが、今後のインド政府の対応が注目されます。


鈴木慎太郎
鈴木慎太郎


米国公認会計士。SGC(スズキグローバルコンサルティング)代表。2010年5月よりニューデリー(インド)在住。40社以上のインド拠点設立、100社以上のインド・会計税務にかかるコンサルティングに従事。2016年よりスズキグローバルコンサルティングを設立し独立。日本企業向けにワンストップでインドの拠点設立・会計・税務・法務をカバーする総合コンサルティング事務所を経営。 URL: https://www.suzuki-gc.com

鈴木慎太郎の記事一覧