「インターネットの歴史から考えるインターネットビジネスの本質」連載シリーズ<第5回>「マイクロソフト」-変貌するプラットフォーマー(その4 付録篇)


【出典】フリー素材ぱくたそ


“Winner takes all.” つまり「一人勝ち」というのは社会の中では極めて危ない存在です。やっかみといった感情的な問題、そして資本主義経済の下では「競争」を阻害するものとして法令で規制される可能性があるものです。

それでは80年代、90年代に一人勝ちだったWindows はそういう観点からはどうだったのでしょうか?独禁法などの専門家ではないので確たる理論を展開することは出来ませんが、恐らくOS市場においては、アップルという存在があったこと、既にあるシェアを合併という手段で独占しようとしたわけではなく独自の努力で増やしていったこと、競争という観点に関してわかりやすいハードであるPCにおいては沢山のメーカーが乱立していたこと、など諸々の理由から、独占の問題は出てこなかったように思います。

実は筆者もかつてWindowsユーザーとして、「このままWindowsの一人勝ち状態が続くのだろうか?続いて良いのだろうか?」と疑問を持ったことがありました。結果はご存知の通り、断トツシェアであることには変わりはないものの、スマホなどを加えた「OS」におけるシェアということでは、既に一人勝ちという状況にはありません。Windowsのシェアが下がっていく過程を傍目で見ながら思ったことは「アメリカ市場、アメリカ企業の凄さ」です。市場のジャイアントでも必ずチャレンジャーが出てきます。日本だったら・・・と考えると、ガリバーはガリバーで、二番手はガリバーにチャレンジするのではなく、フォロワーとして生きる道を選ぶのではないか、そういう印象があります。アメリカ企業、アメリカ社会のダイナミズムですね。

それはさておき、今回のメインテーマであるビル&メリンダ・ゲイツ財団です。

過去、筆者がいた金融機関で、一人勝ち企業があっと言う間にその地位を追われた、個人的に強烈に印象に残っている事例がありました。「ジャンクボンド」の一件です。

1980年代の前半は、それまでの高金利、低成長の時代から、サッチャリズムやレーガノミクスといった自由主義経済政策によってディスインフレ、それによる景気回復が図られた時代の始まりでした。金利がそれまでの高金利(一時は30年米国債が14%となりました)が急速に低下し、高い金利を求める投資家に対してドレクセル・バーナムという新興証券会社のマイケル・ミルケンという人物が、「ハイイールド債」という高利回りの金融商品を引っ提げて、瞬く間にアメリカの金融市場を席捲したのです。その仕組みは、本来であれば債券を発行できないような、信用力が低く、格付けの低い会社に債券を発行させ、それを束ねてリスク分散させパッケージにして小口で販売するファンドでした。発行企業は発行した債券を担保に会社を非上場化するLBO(デバレッジド・バイアウト)に利用しました。高金利を求める投資家は急増し、この新たなマーケットは拡大、ドレクセル、そしてそのCEOであるミルケンは一躍時代の寵児となったのでした。 

しかしミルケンの大成功は長くは続きませんでした。

ハイイールド債券市場はその後崩れ、「ジャンクボンド(くず債券)」と呼ばれ、誰も買わなくなり、一旦崩壊しました。
ここまで書くと、何やら後世に起こる「サブプライム」「リーマンショック」の債券版じゃないか、と言う人がいるでしょう。そうなのです、正にその通り、「歴史は繰り返される」人間はいつでも歴史から学ばないのです。

マーケットが崩壊した直後には、ジャンクボンドなど誰も手を出さない、出してはいけないものと皆考えていました。
しかし、現在、このハイイールド債券の市場は「ハイリスク、ハイリターン」の投資対象としてちゃんと存在しています。復活したのです。それもミルケンをパージした後、比較的直ぐに・・・。

80年代、日本を代表する機関投資家の一つで、運用の第一線にいて、そうした経緯をつぶさに見ていた筆者が感じたのは、「ミルケンは一人勝ちして、それを他の会社に分け与えなかった、それが彼のビジネスを崩壊に追いやった」のだろういうことです。ドレクセルは、引受会社として債券発行の美味しいところを独り占めして他の会社には決して良い分け前を与えませんでした。債券の発行会社を囲い込んで、クローズドの儲けを独占する仕組みを作り上げてしまったのです。

ミルケンという恐ろしく頭の良い男には、当時筆者自身一度会ったことがあります。ジャンクボンドの売り込みで、筆者がいた会社を訪ねてきて、面談しました。握手をしたときに、その洗練されたいかにも頭の良い男の手は氷のように冷たく、握手をした筆者は何だか背筋が凍るような気がしました。彼がお土産として持参したのは、”Better than gold.” と書かれた金メッキをしたインゴットでした。筆者はまだ20代で、今から思えば右も左もわからないような若輩者でしたが、いい気になってそんなものを渡す、その男の先行きに何か黒いものを感じたことを強烈に覚えています。

要するに、彼はやっかまれて老舗の金融機関に潰された・・・ということなのでしょう。取引内容やスキームをきちんとディスクローズせずしたことを突かれ、表面的には、インサイダー取引や顧客の脱税幇助などの罪に問われ、結局ミルケンは逮捕され服役、それを契機にジャンクボンド市場は一気に崩壊したのでした。

筆者が金融市場の勉強を始めたのが1981年、今は無きニューヨークのワールドトレーディングセンターの隣にあったメリルリンチ証券の本社にトレーニーとして半年間派遣されたときからでした。その時にマンツーマンで鍛えてくれた師匠は、「ユダヤ人は全ての富を独占しようとするので嫌われる、その点アングロサクソンは一部富を他にも還元するので権力を保持し続ける」と言っていました。こういう陰謀論的な決めつけは本当は正しくはないのでしょうが、このときばかりはユダヤ人であるミルケンのことを思うたびに、師匠のこの言葉を思い出したものです。

長々と、個人的な体験を述べてきましたが、言いたいことは、「一人勝ちしていても、持続的に儲け続けるためには、富を他にも分け与えなければいけない」と言う社会の知恵のことです。持続的にやっていくためには、共存共栄の仕方でやっていかなければいけないのですね。インターネットの巨人たちには、今世界中から本当に多額の富が引寄せられています。これを社会に還元することがなければ、人々のやっかみの犠牲になるやもしれません。あるいは過去の数多の権力者のように、慢心し、自分の地位を守るために醜い存在に成り下がる懸念もあります。

ビル&メリンダ・ゲイツ財団は、本人たちはどう思っているかは別として、そうしたマイクロソフトの富を社会に還元する機関として機能しています。財団の源資はゲイツがマイクロソフトで稼いだ資金であり、現在もゲイツはマイクロソフトの株式のメジャーな所有者として、株価増加の恩恵を被っています。

財団は1,000人ものスタッフを擁して4兆円もの基本財産を所有し、途上国における主要な疾病に対しての科学技術の進歩を活用した革新的な支援や、途上国の人々が飢餓と貧困を克服する支援を行っています。先日のテレビ東京WBSにビル・ゲイツが出演し、財団について語っていましたが、ビジネスパーソンらしく、成果を重んじ、科学の進歩に貢献するように活動しているとのことでした。
 
今現在吹き荒れている巨大IT企業バッシングは起こるべくして起こったと言って良いでしょう。歴史上、一人勝ちをしてきた会社は、社会と共存して持続的成長を果たすために、倫理的・法的にクリーンな企業体制を構築しながら、同時に社会への富の還元を求められてきました。そういう意味でグーグルやアマゾンは有り余る資金を多角化分野である自動運転等、人類の科学の進歩に貢献する新技術の開発に多額の資金を投入することによって社会全体のマネーの流れを循環させています。

マイクロソフトの場合は、ビル&メリンダ・ゲイツ財団がそうした役割を果たしている、それによって社会と共生の道を模索している、と言えなくもないように思うのですが、皆さん、どう思いますか?

ところで「ジャンクボンドの帝王」ミルケンは、2年の服役後、M&Aのアドバイザーなどを勤め、その類まれな頭脳で大金持ちになり、慈善事業家としても有名になりました。昨年8月に、彼を服役にまで追い込んだ証券会社の老舗の一つであるモルガン・スタンレーの元幹部が、ミルケンに対しての重たい処罰が誤ったものであったとし、トランプ大統領に対して社会に充ちている「メディアが囃し立てて、企業社会で働く人間にダメージを与える起訴、に歯止めをかけることを示唆することができる」例としてミルケンへの恩赦(名誉回復)を願い出たというニュースが入ってきたのも、歴史の皮肉のようなことのように思えます。

次回からは、また何回かに分けて、今度はグーグルについて語りたいと考えています。


小寺 昇二
小寺 昇二

埼玉工業大学人間社会学部情報社会学科教授、大学院人間社会研究科情報社会専攻教授
2014年より埼玉工業大学人間社会学部情報社会学科教授、大学院人間社会研究科情報社会専攻教授。授業担当は「e-ビジネス論」「財務管理論」「スポーツ経営」「地域経営論」「現代経済論」「現代経済史」等。ラグビーチーム一般社団法人横河武蔵野アトラスターズ監事、埼玉県深谷市総合計画策定審議会委員。NPO法人日本公共利益研究所コンサルタント。

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