<東京大改革の今:第12回>喫煙者にイエローカード?


【出典】禁煙者の世界、筆者作成



半端ない「健康ファースト」政策か?
それとも「五輪のルール」に従っただけか?
VAR(ビデオ・アシスタント・レフェリー制)はどこにいるのか?
イエローカードを喫煙者に出していいのか?

サッカーワールドカップで日本中が盛り上がる中、東京都の受動喫煙防止条例が成立した。
東京都受動喫煙防止条例案のポイントは、

国と比較して、

・規制範囲の厳格化:飲食店の84%(国:健康増進法改正案は45%)
・例外:従業員を使用していない場合は選択可能=店内喫煙OK(国:客席面積100㎡以下・個人経営は店内禁煙OK)
・教育関係での喫煙禁止:幼稚園・保育所、小・中高校など敷地内の喫煙場所の設置を禁止

という点が特徴的だ。

「会場の屋内全面禁煙」の明確なルール

この背景にあるのが東京五輪。実際「オリンピック開催都市の受動喫煙防止に関する法律等」によると、どの開催地も罰則付きの法または条例が整備されてきたこと、会場だけではなくレストラン等を含む屋内施設が全面禁煙の国や都市で行われることが慣例になってきたことである。

そもそもIOCは、1988年に禁煙方針を採択することで、会場の禁煙化とタバコ産業からのスポンサーシップを排除した。2010年7月には、たばこのないオリンピックを目指す合意文書をWHOとIOCが調印するに至った。目的は「子どもの肥満を予防するために健康的なライフスタイルを奨励すること」だそうだ。基本的な考えは、オリンピックはスポーツの祭典であるが、健康の祭典でもあるべきという発想だ。

健康にどれだけ悪いのか?

化学物質が70種類含まれている。たばこを吸っていると、のど、肺など煙に直接触れるだけではなく、血液を通じて全身に運ばれる。肺がん・大腸がんや慢性閉塞症肺疾患(COPD)、虚血性心疾患、脳卒中の原因とされる。特に、慢性閉塞症肺疾患(COPD)というのは肺の機能が低下、息が吐けなくなることで、たばこしか原因がないそうだ。

このように健康へのリスクは高く、「非喫煙者の死亡の危険度を1とした場合、肺がんは男性が4.8倍、女性が3.9倍、COPDは男性が3.1倍、女性が3.6倍となっています。(出典:2008年厚生労働省研究班)」(東京都福祉保健局HP「たばこによる健康被害」)とされている。健康を害したり、医療費増大につながるという意味で問題ではあるが、個人の自由でもありここでは取り上げない。

今回の問題となったのは「受動喫煙」。直接吸い込む「主流煙」よりも、たばこの先端から立ちのぼる「副流煙」が、有害物質が多く含まれるとされる。そのことを示したのが以下の図になる。


【出典】東京都福祉保健局HP「たばこによる健康被害」

というわけで、問題だということが明らかである。日本では、受動喫煙による年間死亡者数は推定約1万5千人といわれている。

受動喫煙を禁止することの政策効果は以下のようになると言われている。

【出典】厚労省「日本では受動喫煙が原因で年間1万5千人が死亡」

2つの意味で「声を上げにくい人を守ってあげる」こと

国の方と比較しても、東京都の今回の取組みは素晴らしい。声を上げにくい人を守ってあげることにつながる。最近のデータでは、全面禁煙にした方が経済的にも中長期的にはメリットがあるという研究結果も出てきているため、100㎡以下は「対象外」という骨抜きともいえる国の案よりも実効性が伴う点も評価できよう。

都知事が言う「健康ファースト」という言葉はどうかと思うが(何がセカンド?サード?)、次はやめたくてもやめられない喫煙者への対応を考えてあげてもらいたいものだ。1970年代であっても男性の80%が喫煙していたわけだし、あれだけ広告も規制していなかったわけだ。依存してしまう、本当にかわいそうな人なのであり、自己責任というのは厳しいだろう。

また、「タバコを吸うとリラックスできる」というのは「神話」であっても真実ではないといわれている。

・ニコチンは中枢神経刺激剤であって、むしろリラックス効果とは逆の作用を持つ
・喫煙後には、身体がストレスを感じているときに分泌される血中のコルチゾールというホルモンの濃度が上昇
・単に、ニコチンの離脱症状(禁断症状)を緩和しているだけ

【出典】原田 隆之「いつまでも消えないタバコ「7つの神話」の真実を明かそう」(講談社「現代ビジネス」)

ということなのだ。つまり、喫煙者に質問して「リラックスできるからやめられない」といわれたら、イエローカードを出すのではなく、上記のことを知ってもらうことが大事であろう。

【出典】喫煙者にイエローカード???、筆者作成

医療費を削減するためにも、健康を増進するためにもみんなで助け合い、頑張っていきたいものだ。VARは我々には必要ない。


西村健
西村健

人材育成コンサルタント、オムニメディア代表、NPO法人日本公共利益研究所(JIPII:ジピー)代表、一般社団法人日本経営協会講師、未来学者。
慶應義塾大学院修了後、アクセンチュア入社。 その後、日本能率協会コンサルティングで経営・業務改革、人材育成、能力開発を支援してきた。独立後、人事評価制度構築・運用、キャリアカウンセリングなどのコンサルタントとして活動中。最近はプレゼンテーション向上、モチベーション施策などに注力。

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